Percival Wilde

『悪党どものお楽しみ』パーシヴァル・ワイルド/巴妙子訳(国書刊行会)

 何とも小粋で何とも痛快。

 賭博師稼業から足を洗い、農場経営に精を出して質実な生活を送っていたビル・パームリーが、お気楽な道楽者トニーに担ぎ出されて、海千山千のイカサマ師たちと対決。ビルは六年間の賭博師稼業で培われた経験と知識を駆使して、次々とトリックを見破り、イカサマ師たちを懲らしめていく。
 
 本書で扱われるのは、ポーカー、カシーノ、ルーッレット、チェスといったゲーム。それぞれのゲームと、それぞれのゲームに仕組まれるイカサマと、そのトリック。トリックの手口。ビルが多種多様なトリックを見破り、逆にトリックを仕掛けてイカサマ師たちを嵌めていくのは読んでいて痛快極まりない。

 映画『スティング』を初めて見た時に、ものすごくわくわくしたのを今でもまだ憶えている。憶えているし、未だにあの作品を見ると胸がはずむ。コン・ゲームという言葉を知ったのは、もう少し経ってから。ジェフリー・アーチャー『100万ドルを取り返せ』(新潮文庫)を読んだ時。なるほど、コン・ゲームってのはこういうものを言うのか、と。それから、コン・ゲームものを探してはいるのだけれど、全然見つからない。何やらアンソロジーを一冊だけ見つけて読んだ記憶はうっすらとあるのだけど。本書は、いわゆるコン・ゲームとは多分違うとは思うのだけれど、読み終わったときに思ったのは「コン・ゲーム」という単語。
 ……未だに的確に捉えていないんですけどね、「コン・ゲーム」って単語の意味。なんか好きなんです、この単語。単語というかジャンル。「騙し合い」みたいな意味合い……なのかな。

 さて、巻末の解説にもあるとおり、本書の主人公ビルとビルに度々事件を持ってくるその友人トニーの関係は、ドラえもんとのび太くんの関係、というのが一番当てはまる。お調子者だけれども人の好いのび太くんが、しずかちゃんの前でちょっと格好よいところを見せようとして、ずぶずぶと泥沼にハマっていってしまい、ドラえもんに助けを求めるのだ。すると、ドラえもんは、渋々ながらも道具を取り出して、重い腰をあげて、何なくのび太くんを苛めていたイカサマ師たちのトリックを暴いていく。

 トニーの可愛くて愛らしく奥さんミリーが、実は本書において結構重要な立場にたっているのだけれども、あまり難しいことは考えずに、ミリーは可愛いなあ、と思って読めば良し。いや、ホントにかわいい。欲しいなあ、こんな奥さん。
 
 本書は連作短編集であり、うまくまとまった構成となっている。最初の一作「シンボル」はこの中でも少々地味めの作品だけれども、本書を読み進めていくにつれて、なくてはならない物語だったことがよくわかるし、ラストの「アカニレの皮」は今までトリックを暴く側だったビルが今度はトリックを仕掛ける側になり、物語を締めくくる。

 海外作品をさほど読んでいなかったからだと思われるのだけれども、今まで殆どハズレを読んだことがない海外作品の中でも、これは一押し。傑作。是非是非是非。
 本書を薦めてくれた近ちゃんさんに感謝感謝。

(2002年9月5日更新)

離れ茶房<書斎>へ