銀のクルス(13)
歩きながらつい癖でタバコを咥えたが、司祭の唇の感触を汚しそうで、やめた。
教会の敷地を出て角を曲がったところで、道の反対側に何気ない素振りで立っている二人組が目についた。
最近何度か十河の周辺で見かけた顔だ。
二十代前半のチンピラ風で、一人は背が高く長髪を後ろで一つに縛っていて、もう一人は小太りで金髪をピンピンに立てて派手なピアスを両耳につけている。
山高組のやつらかと思ったが、派手な開襟シャツの衿につけられた星型のバッジは、山高組関係のバッジとはまったく違う物だった。
しかし、こう度々姿を見かけるということは、十河を尾行しているか、十河の動向を探っているかだろう。
一度とっ捕まえて、バックと目的を聞き出す必要があるが、何分にも今日は時間がない。
今度この二人を見かけるようなら、一度脅して吐かせてやる。
十河は仕事に戻りながらのん気にそんなことを思っていた。
古い屋敷と同じ敷地に建っているモダンなオフイスビルで、十河はコンサートのイベンターと電話で打ち合わせを終えて、そろそろ夕暮れが迫る灰色の空を見上げた。
これから年末や年始にかけて、いろんなイベントが目白押しだ。また忙しくなる。
三階にある事務室の広い窓からは、冬枯れた庭とその先にある町並みを眺めることができる。
…このずっと先に教会がある。
司祭はいまごろ何をしているのだろう…。
司祭に会いたい、と思う…。思う反面、会ってどうしたいのだ、と自問する。
いままでのように、告解室で壁を挟んで声だけ聞いて帰るのでは…、もう物足りない。かといって司祭に面と向かって自分の気持ちをぶつけるには、くだらない大人の分別が邪魔をする。
司祭…、神父、雪村真心。
「ユキムラシンジ。シンジ…か」
最近、日に何度となく心の中に浮かぶ名前を口に出して、小さく呟いてみた。
そのときコンコンとノックの音があり、十河が返事をする前にドアは勢いよく開けられた。
「若頭っ!」
片岡がいつになく緊張した顔で入ってきた。
「なんだ、片岡」
片岡がドアの陰からアキラを引きずり出した。
「こいつ事務所前の道端で、ケガしてひどく酔っ払ってたんですよ」
見れば赤い顔をしたアキラの顔や手の皮膚がところどころめくれ、ひどいご面相になっているが、当の本人は酔っ払っていて痛感は鈍いらしい。
「アキラ、どうしたっ?」
十河のきつい問いにも、アキラはただボケたような顔で見上げるだけだった。
「こいつ、さっきから聞いても要領を得なくって、誰にやられたかちゃんと説明しねえんですよ」
短気な片岡が、アキラの頭を張り飛ばした。
「やめろ。とにかく手当てをしてやれ」
酒と一緒にヤクでも盛られたのか、アキラはひどく情緒不安定で、今度はメソメソと泣き出した。
「オイオイ、ぶさいくな顔して泣くな。なんだ、わけを言ってみろ」
「わ、若頭ッ、オレ、俺…、あれだけ注意されていたのに。山高組のヤツらと…。すみませんっ!」
「山高のヤツらと? なにがあった?」