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何か訳の解らない夢を見ていた。気分が悪い。どこかで断続的な音がしている。
少しづつ覚醒してきた頭が、それが電話のベルであると判断する。
サイドテーブルへ手を伸ばそうと身体を反転するが、頭が重くて上がらない。
ようやくの思いで少し身体を起こすと、額からポタッと乾きかけのタオルが落ちた。サイドテーブルの上に、水の入った洗面器が置いてある。水をひっくり返さないよう用心しながら、ようやっとの思いで受話器を取る。 川上のひどく焦った声が直接脳に響く。
「どうなさったんですかっ。九時になっても出勤されないし、電話を何度もお掛けしたんですけど…。今日は午前中に国土庁の方へ書類提出しなきゃあいけないんでしょう。午後は土浦まで走られる予定ですよね?。何か具合が悪い事でも…」
そうだ、今何時だ?
ふらつく頭を巡らし壁の時計を見る。もう十時を過ぎている。
ケンジ…、ケンジはどこに居るんだ?。
持っている受話器から川上の声がまだ聞こえている。
「川上、悪いが至急俺のマンションに来てくれ。提出書類だけ頼む…っ」
川上の怪訝そうな声がまだ聞こえていたが、俺は電話を切ると、ふらつく身体を引きずるようにしてケンジを探す。
夕べは全裸だった筈が、白いバスローブが身体に掛かっている。
ケンジの姿はどこにもなかった。玄関のズックが消えている。ケンジ…。
虚脱してベッドにたどり着き、腰掛ける。が、それも辛くてベッドに倒れ込んだ。
夕べあれからどうしたのだろう。確かにケンジをこの腕に抱いていたのに…、いつの間に眠ってしまったのだろう。
熱が有るのか悪寒がする。
 この十日間の出来事が、煮えているように熱い頭をよぎった。
ハードなデスクワークと連夜のセックス。寝不足でのドライブと疲労の上にケンジの衝撃的な告白…。

チャイムの音がしている。
 ――ケンジ!?
もう起きあがれないと思っていた身体をどうにか起こし、歪む足元に注意しながら大急ぎで玄関のドアノブを廻す。
勢い良く開いたドアの外に川上の驚いた顔が有った。脱力し、ガクッと膝から崩れそうになった俺に川上が駆け寄る。
「長田さんっ、大丈夫ですか? 送りますから病院へ行きましょう」
ようやくの思いで俺は体制を立て直す。
「大丈夫だ、少し疲れが出たんだろう。それよりこの書類を頼む。また、連絡するから」
玄関脇に置いてあった重い書類袋をよいしょっと抱えながら、川上が眉を寄せる。
「長田さんが病気で休むなんて初めてですよね。今度のプロジェクトは大変な作業でしたから根を詰めすぎたんでしょう。今日はゆっくり眠って、早く治して下さいね」
川上の声を背中に聞きながら、俺は朦朧とした意識のままベッドへ向かった。
底無し沼に沈み込むような感覚で眠りに落ちて行きながら、もう一度ケンジをこの腕に抱きたい、と切実に願った。
裏葉草が揺れる頃(16)
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