リレー小説(11)
『お前は何も知らない』
…あの男の声がする。深い闇の中で。ここは、どこ?
『そう、まるで生まれたばかりの赤子のように』
何?
『自分が何のために生を受け、何のために存在するのか、それすら分からずただ存在を主張するように声を上げるだけ』
訳が分からないことを言う。
「あたしに、生きる目的がないというの?ただ生きているだけだというの?」
不思議なことに宇宙よりももっと深い闇の中で、あたしの声が響いた。
いや、本当に不思議なことは、変な男と普通に話しているというところか。
『お前には、知る必要があるのだよ。知白』
闇の中に笑う感触。
「なにを?」
『すべてを』
あたしは目を見開く。昨日あの変なマンションで言われたことと逆である。いやそれとも彼らや琴音は、知って欲しかったのだろうか。
『あぁ、でも知る必要はないかもしれないね、はははっ』
めちゃくちゃな奴だ。もう、何コイツ。だめ?
『君が知りたくないというのなら、変わってあげてもいいんだよ』
「ねぇ、知白!!」
「え…」あたしは目を開けた。そこはいつもの五月蠅くてうざい教室。
なぜか今日はその五月蠅い様子にほっとする。
前に立っていたのは琴音。
「あ、琴音……。どうしたの?」
「それはこっちの台詞よ。大丈夫?ぼけーっとして。……やっぱりまだ早かったのかしら?」
琴音は困ったように窓の外を見た。
ズキリ、と胸が痛んだ気がした。
あたしはこの人に膨大な迷惑をかけている。心配させているんだ、と思った。
昨日、あたしはカイ様にいろいろなことを聞かされた。
カイ様や琴音やナツメ君はひとつの組織をつくっているらしい。その組織の敵みたいなものが末葉や生徒会長がつくる組織なんだとか。
それでこの二つの組織は昔から敵対してて、今にも戦い(って言ったら大げさなんだけど)が起こっていもいい状態なんだとか。
でも二つの組織が戦い(?)を起すと日本が駄目になるんだとか。それはなぜかといえば、この二つの組織が日本に多額の寄付をしているんで、その寄付がなくなると日本は今以上に赤字が増えるんだとかとかで。
なんだそれ?見たいな感じでいまいちあたしも話がつかめてないんだけど…。それで、琴音や路香たちとプールに行った日に、あたしの体は偉い人のコア(なんか人格?みたいな。うーんぶっちゃけると魂の実態あり版みたいな感じらしい)が入ったらしく、あたしの中には二つの人格があるみたい。
そしてカイ様はあたしに組織に入って欲しいって言った。
あたしの頭の中でした声は、あれは偉い人の声だったんだと思う。
なんだかよく分からずに混乱していたあたしは、琴音によって大分救われたと思う。琴音があたしに気を使ってくれた。
――今も。
こうやって親切にしてもらっている琴音に、また迷惑をかけていたことがとても嫌だ。
そういえば最近琴音が笑っているのを見ていない気がする。もともと感情をあらわにしないこだってけれども、ふとしたところで感じる。
琴音は緊張しているのだと。
やはりそれもあたしのせいなのだろうか……。ふぅとため息をつく。
それも琴音があたしに気を使う要素なのだと、あたしは気付かない。
「保健室で休む?」
琴音が再びあたしに聞く。あたしは大きく首を振って大丈夫と笑った。
「それより、路香は?最近見ないけれど」
「さぁ…?生徒会の呼び出しじゃないかなぁ。学級委員だし」
そういえばそうだった。路香はしっかりとしているから昔から学級委員に選ばれやすい。学級委員……――生徒会。もしかして路香も。
「路香がどうかしたの?」
路香も琴音たちの「敵」なのだろうか。昔から三人でよく遊んでいたのに?あんなに仲が良いのに?
「………ううん。なんでもない」
まだ頭が混乱しているかもしれない。今はただ何も考えずに眠りたい。それは許されることではないけれど。
もたげていた頭を上げて辺りを見回すと、隅に溜まっているクラスの女の子たちが騒いでいた。あたしもたまにはあの中にいたりする。
話題は…チョコレートかな?
人が話していることを盗み聞きみたいなことをするのは好きではないのだけれど話題がお菓子のことだとついしてしまう。
家庭部の血が騒ぐといったところか…。
「ねぇねぇ、泉先輩の好きな食べ物ってチョコレートなんだよね?」
「何あんた狙ってんの?!狙ってんのならあたしのライバル!!いずみさんはあたしのものよ!」
――どうやら少し当たっていたけれど少し違っていたらしい。
みんな青春してるなぁーとか思いながらまた前を見上げる。
すると琴音も今の話を聞いている。そういえば琴音から恋だの好きだのという単語はきいたことがない。………実は泉先輩とか言う人狙い?
そんなことを考えているあたしを知ってか知らずか、琴音がふって苦笑していった。
「生徒会長、泉聖也。そういえば彼も料理大会の審査員だったかしら?」
「へぇ。そういえば琴音も料理大会出るの?」
「出るも何も……出なきゃいけないのよ。あたしも知白も」
「え?どういうこと?」
「今日部長から直々にお話があってさ、家庭部から一チームでなきゃいけないらしくってね、あたしと知白、松原ちゃんと遠藤さん……あと千明…」
「はい?千明ぃ?マジでぇー?部長も大胆なことしてくれるわねぇ?家庭部としては負けられないってのに、千明………。…何で部長や国本君が出ないわけ?」
「知白……しらなかったの?国本君本当は弓道部なのよ。たいていこっちにいるから忘れちゃってたけど」
「そうだったんだぁー?どおりで連絡網に名前がないわけだ」
「うん。そしてね、部長や国本君、本居先輩でチームを作るらしいの」
「は?そんなのそのチームが勝つに決まってんじゃん」
「…そうね。でも負けられないのよ。どうしても」
なんだか琴音がいつになく真剣で……。怖いわ。なんか関係してるのかな?
あたしは思ったことは素直に聞くほうだから琴音に聞いてみたけれど、琴音は笑っただけで答えてはくれなかった。まだ何か隠しているのか、それともたいしたことじゃないのか、よく分からなかった。
「まぁ、とりあえず。がんばろうね、知白」
「う…うん」
改まって言う琴音にあたしは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「……といういことで、家庭部からはこの五人が出ることになりました以上。解散ー」
部活中、部長が、あたしがさっき琴音から聞いたとおりのことを言った。ここで発表するのならなぜ部長はわざわざ琴音に先に教えたんだろう。
「ちょっ…部長!!何であたしなんですかっ!?」
千明が顔面蒼白で平澤先輩に質問した。普段は自分の作るものの味の悪さなんか気にしない千明が一体どうしたのだろう。
「泉先輩が審査員だそうじゃないですか!あたしが泉先輩に嫌われたらどうしてくれるんですか!」
顔を赤くして言う千明。そーいうことか…。
「部長は絶対」
いつの間にか千明の後ろにいた松原がボソリと呟く。そんなぁと千明。
「大丈夫よ。河原さんも観月さんもいるし、…何なら鈴鹿さんはつくらなくてもいいわ」
にっこりと笑う部長。
「私もセコイ手だとは思ったんだけどねー、料理部はみんな料理上手だしこちら側も優勝しなきゃいけないしねー一応保険として…じゃない?」
「そんなぁ!あたしってやっぱり料理だめなの?重荷なの?邪魔なの?ねぇ琴音!」
千明が喚いた。
「重荷かどうかは別として、部長たちのチームが優勝なのは決まったようなものね」
琴音が冷静に答える。視線の先には、部長。
「ちょっと、琴音?実は怒ってるの?」
なんだか睨みあってるみたいな部長と琴音を見かねてあたしが口をはさむ。
「知白は、別にいいのね?」
首をぶんぶん上下に動かして頷く。
勝つのは部長チームだってあたしに言ったのは琴音なのに、いまさら何なのだろう。
「なら、いいわ。それに部長に言ったって仕方ないですよね」
「そうよ…じゃあ、本当に解散!」
また、意味深な会話を…。
琴音は教えてくれないし!
一体誰に聞いたらいいの?
「知白?今日も来る?」
琴音はどこへとは言わない。あたしもどこへとは聞かない。
あの後、何度かカイ様のところへ行った。何事行っても出てくるのはナツメ君で、カイ様はいなかった。いつもいるわけじゃないらしい。それどころか、いない方が多いんだとか。
まあ、あそこは、カイ様の別荘みたいなものだと琴音が行っていたからそれは仕方ないとは思うけど。
でも……カイ様に会いたいと思う。もう一度あって聞きたいことがある。
琴音にいえば、「質問ならあたしが受けるけど」とかいいそうで言えない。
カイ様に聞きたいから。直接本人の口から聞きたい。その返事を。
「知白?」
いつまで待っても返事をしないあたしに琴音が問いかける。
「本当に大丈夫?最近ぼぅーとしてる」
「平気、平気。それより、今日は行かないね。じゃあ」
さっさと去ろうと今日は決めていた。
なんだか予感がしたから。
何かが始まる……――――え?
校門の前に男に人が立っていた。明らかに異質な雰囲気を持って。
「カイ…様?」
あたしは小さく呼びかける。一度しか会ってないけれど、間違いはなかった。
「おや?奇遇だね。知白に琴音」
あたしと琴音に気付いたカイ様はにっこり笑って話しかける。緩やかな物腰にだまされそうになるが、さっきの言葉はどこかおかしい。
「どこが奇遇なんですか……」
ふうとため息をつく琴音。
「一体どうしてここに?」
さっきから、どうしても気になっていたことを聞く。また話でもあるのかなと思った。
「この学校にちょっと用があってね。生徒会室はどこだい?」
「生徒会室?!」
あたしは眉を顰める。生徒会とカイ様の組織は敵同士ではなかったのか?どうしてそんな敵地の真ん中に…。
「ちーしろー。この前の話しちゃんと聞いてなかったでしょう?」
琴音が額を手で押さえていった。
「え?」
「学園にイベントあるときカイ様そこに在り。イベントに少しだけ参加しては帰っていくというあの役割。さあ、何でしょう?」
ピシッと指をさされるあたし。
特にイベントのときによく学校に現れる役割!?
そんな役割、校長以外に…ああそうだ!
「…祭り好きな人…だから?」
「…少しだけ当たっ…いいえっそんなことにわざわざカイ様が来るわけないでしょ!?それはカイ様の義務なのよ」
自分の発言に少しだけあせりながら琴音が言う。
冗談だったんだけど…カイ様、祭り…好きなの?そんなバカな!
「ああ、もう、全然わかんない〜ギブアップ!」
あたしは両手を挙げてギブアップの合図をする。
「まあ…知白の記憶力は信じてなかったけど…あのね、カイ様はね…」
さり気に酷いことを琴音は言いつつ、真相も明かす。
「この学園の理事長なのよ」
「りじちょー?なの?……だってここ、敵の本拠地なんでしょ?」
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