リレー小説(12)
「りじちょー?なの?……だってここ敵の本拠地なんでしょ?」
あたしはカイ様に聞いたつもりだったが琴音が溜め息をついた。
「だからそれは前にも言ったでしょうが。まあ、こんなとこでする話でもないからまた今度ね」
最後にウインクをして琴音が一応話を終わらせた。
うん、まあ確かにこんなところでする話じゃないけど。
周りを見渡せば下校途中の生徒がじろじろとこっちを見ていた。
はぁ。なんだか一気に疲れた気がする。
カイ様のせいか、あたしの記憶力のなさのせいか、はたまた琴音のウインクのせいか……。
たぶん全部だけど。
「ところでカイ様生徒会室に行かなくてもいいの?」
「いや、行かなきゃいけないんだけどね……」
ああ、そうだった。カイ様の目的忘れてた。
てか、なんで生徒会室なんかに?
かなり疑問だけど今は口開かないでおこう。
なんか面倒くさいから。
「じゃあカイ様、生徒会室に案内しますね。全く、何回も来てるんだからいいかげん覚えて下さいよ。どうしてそんなに方向音痴なんですか」
琴音が今来た道を引き返す。
カイ様もそれに続いた。
カイ様何回も来てるんだ……。
てか、方向音痴なんだぁ。以外。
どうやってここまで来たんだろ?
「何やってるのよ知白。早く!」
じゃあ帰ろうかとしたところで琴音があたしの背中に声をかける。
「え?」
「えじゃないよ。知白も行くの。ほら早く」
あたしが何か言う前に琴音はあたしの腕を無造作に掴んでずるずると引き摺っていった。
とっさにカイ様に視線を合わせたがカイ様は何も言わず微笑んでいた。
正直言って今はあまり生徒会室へ近寄りたくない。
琴音はあたしの中に"核”がある(らしい)というが、あたしの気持ちはいまだどっちつかずだ。
そんな不安定なままで、生徒会に敵視されたら。
もしその場で衝突があったら。
どうすればいいだろう。
「あれ!理事長じゃないですか。どうしたんですか?」
後ろから声がして振り向くと、端正な顔で笑う生徒会長泉聖也が立っていた。
あたしの身が少しこわばった。
「あら生徒会長。いいところに」
琴音が意味ありげに笑ったように見えたのはあたしの気にしすぎだろうか。
「おや泉君。君のところへ行くつもりだったんだよ」
「あぁそうだったんですか。行事のこと校長から聞いたんですね?」
聖也は琴音から、穏やかに微笑むカイ様に目を移した。途中、あくまで自然に、知白とも視線を絡めた。
「そうだよ。何でも料理大会をやるそうだが」
「ええ、ここじゃなんですから生徒会室に」
聖也が窓から見える一室を指した。
琴音、カイ様、生徒会長、この顔触れとこの状態で「あたし帰るから」なんて言えるわけがないような気がする。
生徒会長があたしも生徒会室に連れていきたいのかはあくまで憶測にすぎないけれど。
…この状態では少なくともあたしには無理。言えない。
恐ろしい。
もうこのメンバーってだけで今のあたしにとっては恐ろしい…。
そしてあたしはしぶしぶついていくことになる。
重い気持ちのせいか足取りも重い。生徒会室までの道程が妙に長い気がする。
無言で歩いてくあたし達…いやいや、誰か何か話してよ。
ふと、琴音を見る。
あたしは最近、不安なとき琴音を見る癖がついてしまったみたいだ。そういうときはたいてい更に不安になっていたような気がする。
…ほら今も、案の定。
「琴音…何笑ってんのよ…」
なんとなく小声で話す。まるで、敵だと言われた生徒会長を警戒しているみたいでおかしい。
「生徒会長だって、カイ様だって笑ってるわ?」
皆この状況を楽しんでるのよ、と小声で言われてもあたしは全然楽しくないから困る。
無言でなにかたくらむような笑顔で歩く一行。その様子を想像したあたしがそこについたとき、どんなに安心したか…。
「ようこそ、生徒会室へ」
生徒会長が何故かこの学校の理事長と生徒にわざわざ説明しやがった。
「ありがとう」
カイ様がにっこりと微笑んだ。
そしてつかつかと進んで奥にあるソファーに腰掛ける。
生徒会長もそれに倣ってカイ様の向かいに座った。
「どうした?座って?」
なぜだか生徒会長が満面の笑みであたしと琴音に椅子を勧める。
いやいやいや、ちょっと待て。
カイ様の座っているソファーはどう見ても二人用。
そこに琴音が座ったとしたら、あたしの場所は生徒会長の隣の一人がけソファー。
いや、それは無理だろう。
無理無理無理。絶対にっっ!
あたしは生徒会長のお隣なんて怖すぎて座れません……。
とか考えてるうちに琴音がさっさとカイ様の隣に座ってしまった……!
これはまずい。とってもまずい!!
二人用のソファーに無理やり座るか、それとも生徒会長のお隣か……。
最悪の選択。
顔は悪いけど金持ちと顔はいいけど貧乏、どっちと結婚するか……とか言うよぉくある選択よりも最悪。
まだ生徒会長は満面の笑みを崩さない。
……恐ろしい。
三人分の視線が突き刺さってるような気がするのはあたしの気のせいですか?
それならそうと誰か言ってよ!!
もうっ、あたしは始めっからこんなとこ来たくなかったのに!
後悔。とぉっても後悔。
「ふ、ははは」
生徒会長が肩を震わせて笑った。
顔を上げると、琴音もなんだか笑いを抑えているようだった。カイ様はなぜか微笑ましいものでも見るような表情をしている。
「な、に?どうしたの??」
あたしは首をかしげる。
「どうした、って。あんた何その困った顔?」
琴音があたしの顔を指差す。
困った顔って。
そんなにあたしが悩んでいるのが可笑しいの?
生徒会長まで何よ。
ふーんだ。
「悩む知白が可愛らしいってことだよ」
カイ様がにっこり笑ってあたしに言う。
「そうそう、知白気にしすぎよー」
席なんて、どこでもいいじゃない。と琴音が続ける。
可愛いって。
というか、気にしすぎなの?
あたしだけ深刻に考えているの?
何?実はそんなに仲悪いわけじゃないの?
ぐるぐるといくつもの疑問が出来る。
「いやいや、笑って悪かったね。気になるんだろう?この席が」
生徒会長はそういって奥からパイプ椅子を持ち出しすと、テーブルが生徒会長とカイ様の横の辺にくるところに(要するに立場上中立のところに)それを置いた。
「どうぞ、座って」
生徒会長が椅子の前に手を差し出す。
あたしは促されてすとんと、ソファよりはずっと硬いはずの椅子に安堵して座った。
と、座ったと同時に扉がノックされた。
生徒会長が入ってと小さく言うと普段はガラガラ、カラカラと音を立てる校舎内の扉がそっと開けられる。
それはもう何かの道のベテランのような礼儀をつくした開け方。
「失礼します」「します」
どんな人が来るのかと思っていると全く同じ顔の男子と女子がまったく同じ声とおなじみの輪唱(?)で挨拶をして入ってくる。
なぁんだ。副会長か。と思いながらあたしは彼等が持って来てくれたお茶とお茶菓子を見た。
「粗茶ですが」「ですが」
言葉とはうらはらに(当たり前か)高級そうな茶碗に高級そうなお菓子。一体こんな予算は学校のどこからでてくるんだろう?
やっぱり理事長から?
でも何だか彼も生徒会にもてなされてるような気がするし…。
お茶とお菓子を出し終えると、副会長の二人は生徒会長の斜め後ろに控えた。
生徒会長が口を開く。
「はいお待たせしました。あ、ご存知とは思いますがこちらは生徒会副会長です」
副会長二人は上半身をきっちり45°くらいに傾けて礼をする。
見ていて腹が立つのはあたしだけ?
カイ様は笑っていた。
「彼等を僕に見せてもいいのかな?」
意味ありげな言葉。
それは忠告みたいだけどあたしには何に対してかはちっともわからない。
「何のことですか?」
生徒会長もあたしみたいにきょとんとしてみせる。
いや、似合わないから。本当に恐いから。
カイ様の顔はまだ笑っている。
「いや、悪かった素晴らしい技術だねと言っておこうか」
生徒会長も態度を変えないままだ。
何だか恐い空気が流れる。
「ありがとうございます」「ございます」
「彼等は茶道をやっているんですよ」
「そう」
カイ様のどうでもよさげな返事を引き継ぎ、琴音がお茶をすすりながら呟く。
「道理で、動きが滑らかだものねー」
これもまたどうでもよさげで。
生徒会長がじゃあそれではと言う。
「本題に入りましょうか」
…やっとか。
何でこの人達ってこんなに疲れるやりとりするんだろう。
生徒会長がおもむろに口を開いた。
「今年はゆとり教育のせいでなんでかんだ言って行事についやす時間が減ってしまいましてねぇ、こんなものしか出来ないのですが」
本題に入るとか言って置きながらもまだ前置きは続くのか……。
そんな事しなくていいから早く本当の本題に入ってよ!こっちはさっさと帰りたいんだから!
「ああ、確かにゆとり教育は困りますよねぇ。行事がそう簡単に出来なくなるしねぇ。まぁ、子供達はいいかもしれないけど」
カイ様が生徒会長の言葉に水を差した。
「いやいや、そんな事はないですよ。僕は学校が大好きだし。何より行事が好きですし。だいたいゆとり教育ゆとり教育って言ってますけど、土曜が休みになったからってだらだら過ごすだけの子供達だっているでしょうし。文部省の考えてるようにはなりませんよ」
「うんうん、確かにそうだよね。それに授業の内容を減らすって言うのも僕はどうかと思うんだよね。どんどん日本の勉強水準が下がっちゃうし。それに円周率は3.14だからこそややこしい計算の練習にもなるんであって、3にしちゃったら桁が大きくなったら間違いが増えそうだよね」
そんなの電卓使えばいいじゃないですかっ!
……何でこの人達、こんな事について語り合ってるんですかっ?脱線しすぎだし!意気投合してるし!意味わかんないし!
ホントいい加減にしてよっ!
だから早く帰りたいんだってばっ!
いらいらするあたしに琴音が身を乗り出して耳打ちした。
「この人達いっつもこんなんだから。もう少しの辛抱よ」
もう、辛抱も我慢もしたくないんですけど……。
それから、約5分。あたしには10分にも30分にも感じる時間、この人達の「ゆとり教育」についての話し合いは続いた。
「ああ、ごめん。話が脱線してしまいましたね。元に戻しましょう」
って、気づくの遅すぎなんですけど……。
「それで、料理で大会をするというのは実際どんな形にするんだい?」
カイ様が目を細めた。
「えぇと。体育館で、トーナメント形式でやろうかと思っているんです。細かいことはこれを見てください」
生徒会長はカイ様に束ねた紙を渡したが、カイ様はちらりと見ただけで横に置いてしまった。
「後で見ておくよ」
はぁ?と声を上げたのは生徒会長ではなくあたし。
だっておかしいじゃない?
カイ様は何しに来たの?
「どうした知白?」
「…え?だって、何で今見ないんですか?料理大会の話をしに来たんじゃないんですか」
どうして生徒会長はにこりと笑ってばかりでそれを聞かないのよ。
さっきから、どうもあたしとみんなの空気がずれているような気がしてならないんだけど。あたしがおかしいのかしら。
「あぁ。いいんだよ。今話し合わなければならないことはこんなことじゃないからね」
紙の束をひらひらさせて、言うカイ様。
それを聞いてやはり微笑を浮かべる生徒会長。
あたしを強引に連れてきたくせに、我関せずの琴音。
本当に何なの?この空気は。
「それで、この料理大会に意味を持たせるつもりがあるんだろう。だからわざわざ僕を呼んだんだよね?君は。…いや、君たちかな?」
見透かすかのようなカイ様の態度に生徒会長は苦笑した。
「相変わらず遠まわしな物言いがお上手で。…そうですね。裏があるのは確かです」
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