リレー小説(2)



楽しい時間はたつのが早い。
ふと時計を見ると針が一時半をさしていた。
プールからあがる。空気が冷たくて、身震いする。タオルケットで自分の体を包むとプールサイドにひざを立てて座り、はしゃぐ友達を眺める。
「知白ぉー?度したの?」
「まっ…末葉ちゃん!?」
いつの間にか末葉はあたしの横に座っている。
「末葉でいーよー。”ちゃん”って嫌なんだって。だから」
末葉はあたしの言葉に少し顔を曇らせて、そういった。
「ねぇ、さっき話してたことさー」
「? うん?」
「知白はさ、ナスビとダイコン、漬物にしたらどっちがおいしいと思う?」
末葉が楽しそうにあたしに聞く。またか…と思いながらも、どうやってこの場を逃れようかと頭をめぐらす。
「……琴音はなんて言ったの?」
「それがさぁ、キュウリって言ったんだよ、それは浅漬けーみたいな」
キュウリ…いかにも琴音らしいな…。
「でもキュウリもぬかづけとかするよね」
つーかなんであたしはプールにまで来てこんな話してるんだろう、大嫌いな野菜の話をしていると吐き気までしてくるってゆーのに。
うーん。と考える顔をしつつ、あたしは考えてない。
「どっちもどっち…かなぁ?」
「うーん、しいて言えば?」
これまた無理な欲求をしてくる。
あたしはうんうん唸った。
……さて、どうやってきりぬけようか。
考え込んでいるとまた頭が痛くなってきた。さっきよりも確実に痛い。
………そうだ、これを口実にしよう。
「ごめん、ちょっと頭痛くなってきた。本気で具合悪かったのかも」
目頭を押さえてだるそうな顔をする。
「…知白、さっきから話しはぐらかそうとしてない?」
「…バレた?」
「いや、これバレたとかバレないとかゆー問題じゃあないで…」
キーンコーン
お昼のチャイムが末葉の声を遮った。
そー言えば、あたしお弁当持ってきてない。
「さぁーてと、お昼にしよー!」
末葉が元気よく立ち上がった。
路香や琴音も寄ってくる。
「お昼ぅー。おっひるぅー」
路香が水中ゴーグルをぶんぶん回しながらスキップしてる…。
末葉もあわせて歌う。
―――恥ずかしいよぉ。
隣の琴音を見ると相変わるポン吉を胸に抱いたまんまでいる。
壊れたりしないのだろうか…?
『知白…』
琴音のポン吉が喋る。ポン吉の目についた水が人間のそれの様な光沢をだしていて、まるで生きているようだ。
そういえば、昔に、琴音の魂は実はポン吉の中にあって琴音の方が人形なのではないかと思ったことがある。今思えばばかばかしい話だ。
「なに?」
『末葉に気をつけて』
「はぁ?末葉?なんで?」
思わず眉をひそめる。どうしたんだろう。琴音は初対面の子をそんな風にいう子じゃなかったはずなのに。
『末葉は…「ぐううぅぅぅ……」
それは琴音の(ポン吉の)言葉を遮って、プール中に響いた。
それはあたしのおなかの中から聞こえたものだった。
「あ……」
あたしは真っ赤になって琴音を見る。
すると琴音は何もいわずにおにぎりの入った袋を差し出した。
―――何処から取り出したのだろう…。
ま、そんなことはどうでもいいか。
「いただきます」
早速、ベンチに座って食べ始める。
琴音のおにぎりを2つ食べ終ってから琴音の分を忘れていたことに気付いた。
「ねぇ、琴音。もしかして・・・これ琴音のお昼?」
残り一個になってしまったおにぎりを指した。
琴音は首を横に振って、何処から出したのか重箱をひざに乗せる。
つややかな箱2段に余すことなく詰められた食べ物…。
「こんなに食べるの?」
聞くと割り箸を差し出してくる。どうやら食べてもいいらしい。
「いっただきまーす」
小さく呟くと玉子焼きを口に放りこむ。
うんうん。おーいしー☆
幸せいっぱいで前を見ると、末葉と路香がごはんを食べていた。
「そうだ。末葉に気をつけてってどうして?」
あたしは自分のお腹の音によってかき消された琴音の言葉を待った。
『末葉はマジンガーZの末裔なのだよ』
「え!?えぇえっ!?」
『……そんな理由ないじゃん。』
「琴音!?あんた一体どうしたの?」
だるそうな眼をして琴音が変なことを喋っている。本当にさっきからどこかおかしい。
『何でもないわ。とりあえず末葉と接触する時は気をつけてね』
そういうと琴音はさっさと無表情な顔の琴音が一瞬奇妙な表情になった。様な気がした。
そしてあたしは一人取り残された。
とりあえず路香と末葉のところに戻ることにした。
だけどそこにいたのはケータイで誰かと何やら話をしている末葉だけ。
「…はい…そうですか…わかりました」
あの末葉が敬語を使っている。誰だろうか。
末葉の電話が終わった。
「末葉?誰に電話してたの?」
後ろから声をかけたらくるりと優雅に半回転した。
「聞いてよぉー!あたしこれからさぁ、部活になっちゃたー」
「へぇっ?」
目が点になっている(はず)。
「いまさぁー部長から電話きちゃって。いきなり『全員集合』とかいうんだよぉー!!」
じゃね。とか言ってさっさと路香のとこに行ってしまった。
ぼーと眺めていた。何か話し込んでいる。
『よかったね』
「うわっ!」
とつぜんポン吉を使って話しかけてきた琴音に今まで気付かなかった。いつからいたのだろう。
「“よかったね”って…?何が?」
『今日末葉は知白に……』
琴音(ポン吉?)が言葉を切った。続きがすごく気になる…。
「あたしに?何?」
『何でもない。あ、ほら、路香が呼んでる』
みると、いつの間にか末葉はいなくなって路香が一人でこちらを手招きしている。あたしたちは路香の方へ駆け寄っていった。
末葉とそんなに長く何を話していたのかと聞こうとしたのだが。
「み…ちょっ大丈夫?」
「いや、何が」
本人は何も気にもしてないけど…
あたしはごくりと息をのんで言った。
「あんた…顔色青い、とゆーより緑…」
「みどり?人の顔って緑になるの!?」
路香は周りの目も気にせず叫んだ。
そこに琴音がやってきてポン吉を通して顔をのぞこきこむ。
「あ…」
ポン吉がそれ以上言わなくなった…。
「何!何!?緑なの?」
「あ!!そうだ。鏡っ!!ほらかがっ…」
あたしが鞄からコンパクトミラーを取り出して、すっかり混乱してぺたぺた自分の顔を触っている路香に鏡を渡そうとしたら。
「キャ!?」
突然風が吹いて、みんな目をつむった。あたしは鏡を落としてしまった。
風の音と木のざわめきがうるさいほど聞こえた。
「…何なのよ、もう」
路香がくずれた髪をなおしながらぼやく。
「本当にねー…あれ?路香!!顔なおってるよ!!」
「え…嘘。なおったの?…うん。正常だ」
鏡を拾って自分の顔を見た後で、路香は疑うような視線であたしを見た。
「知白ぉー。シャレになんない冗談はやめてよねぇ」
「なによぅ、あたしと琴音はちゃんと確かにみたわよ。その顔が…」
続きを言おうとしたが、あたしは口をつぐんだ。
なぜ路香は『シャレになんない』と言ったんだろう。


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