リレー小説(3)
うーん…うーん…って考えているうちにもう夕方。
あたし達は帰ることにして正面玄関に集合することにした。
シャワールームに路香と琴音が行く。
ふと、路香の顔をのぞきこんだ。
「ちょ……み…路香!あんた顔、また緑になってる!?」
「ちょっと、またその冗談?やめてよーもう。」
路香は緑色の顔でうんざりしたように言った。
「何なら見てみなよ、自分の顔!!」
あたしは路香の顔が元に戻らないうちに急いで鏡をつきつけた。
「もーしつこいなー。どれどれ?……」
沈黙。
「…あーなんか私気分悪いみたい。帰って寝てるわ。じゃーねー。また今度ッ」
言うや否や、路香は走っていってしまった。それもかなりハイスピードで。
しかし、路香がはしっていった方向は家ではなく、学校の方だった。
『…知白』
しばらくほけっと突っ立っていたあたしは呼ばれて慌ててそちらを見た。
そこにはいつも無表情なポン吉…じゃなかった、琴音の不安そうな顔がある。
「どうかしたの、琴音。まさかあんたも気分悪いの?」
琴音はそんなことを聞いてほしくてあたしを呼んだんじゃない。
だけどあたしは嫌な予感がして、そんなことを聞いてしまったのだ。
『いや…そんなことはないけど……。実は……』
琴音がいつになく真顔で、あたしは怖くなった。
「実は…何…?」
『実は路香は…』
それから困ったように天井を見た。
あたしもつられて上を向く。
そこには茶色いしみがいくつもあった。
あ、あれ像みたい。
あれは…牛?
うーん、あれはねぇ…ほうきを持った魔女!
上を向いたままのあたしに、琴音が眉を寄せているとも気付かないほど、夢中で考えていた。
『あのね……知白……。あのぅ……路香は、本当は……』
申し訳なさそうに琴音に声をかけられて、あたしははっとする。
「ごめん。…何?路香がどうしたって?」
気まずさからあたしは早口に質問した。
『路香は…』
あたしも琴音もものすごい真剣な顔で見つめあっている。
『あやつは忍者の末裔じゃぁー』
高めの機械みたいな声がした。
琴音を見たけど琴音は困ったように首をぶんぶん横に振る。
声がしたところは琴音の腕の中……。
そこにはポン吉しかいない……。
「琴音…?え、ポン…吉?」
あたしが琴音とポン吉を見合わせる。
「あれ?おかしいな……どこか故障したのかも……」
琴音がポン吉を探りながら独り言を言っている。
その後ポン吉に何度か名前を呼びかける。まるで生きてる人にするみたいに。
あたしはなんだか不安になってきた。今日に限って変なことが起きる。
した覚えのない約束。会って間もない(のかな?)末葉のことを”マジンガーZの末裔”なんて言った琴音。
顔が緑になった路香(その後、嘘をついてまで急いで学校の方へ行ったのも気になる)。勝手に喋った(?)ポン吉。
あたしの知らないところで何かが行われている………。
「琴音…」
「なっ…何?知白」
琴音はポン吉を使わなかった。
「琴音、今日なんかおかしいよ。どうなっちゃったの?みんな、何をしているの?」
「も、ちょい……。も…ちょっと待って…」
どうやら、ポン吉をなおすのに大変らしい。そもそもなんで琴音はポン吉を使って話すのか。
別に身体に異常があったりするわけでもないのに。
今までは単に恥ずかしいからとか自分で話すのが面倒だから使っているのかと思っていたけれど。
だけど今考えるとポン吉を使う方が恥ずかしいし面倒くさいはず…。
『なおったー!!』
「うわっ」
考え込んでいたときにいきなりポン吉があたしの耳元で叫んだので驚いた。
驚いた拍子に壁に頭をうちつけた。
「いったぁーっ!?」
ガンって頭の中に響いた気がする。
あたしは痛む後頭部をおさえてうずくまった。
大げさではなくマジで痛い…。
『大丈夫!?』
横で琴音がおろおろしているのが分かった。
あたしの方はチカチカしてまばゆかった目の前がようやく灰色の地面に戻っていくのを感じた。
それでも頭の中ではぐわんぐわんと不気味な音が鳴り響いている。
―あたしはふと、懐かしさを覚えた。
なんだろうこの感じ。
遠い。遠い日にこんなことがあった……ような…?
あれ?違う??え?
『知白ー!!大丈夫!?ねぇ、知白っ!?』
あ、琴音のこと忘れてた…。
あたしは急いで立ち上がる。
と、琴音は驚いたようでうわっ、とたじろいだ。
―っ!!
ガシャン!!
琴音が息を呑んだ後、ポン吉はあっけなく床に落ちた。床、へと。
「あっ…!」
ポン吉は床にぶつかり、中のものが四方にとんだ。
わたや機会の破片が落ちた。
「ご…ごめん!琴音!なおるかなぁ…」
ヤバイ…本気で。だってかけたプラスチックとか落ちてるし…。絶対なおんないよーっ!!
こんな高性能なぬいぐるみなんて見たことないし…。
全部あたしのせいだ…っあたしが急いで立ち上がったりしたからだーっ!
「いいのよ。知白っ…だから、触らないで!!」
琴音はポン吉の部品を集めているあたしを立ち上がらせると、自分で部品を拾い始めた。
「え…?何で?あたしも手伝「いいから!危ないから触らないで!!」
琴音があたしの言葉をさえぎって言った。どこかあせっているようだ。
仕方なくあたしは壁に寄りかかって琴音と“元”ポン吉を見ていた。
するとあたしの足元に1つ部品が落ちていた。このくらいならいいだろうと思って拾う。
その部品は小さなもので直径3ミリくらいのものだった。
よく見てみると模様が書いてある。
なんだか見ていると呪われそうな気持ちの悪い模様。
…こ、これ、本当に部品なのかなぁ。
そんな風にまじまじ琴音に起こられるだろうなぁと思いつつ見ていると、
案の定見つかって怒られてしまった。
「知白!?触らないでって言ったのに!」
「ごめん、ごめんってば。このくらいならいいかなぁと思って…ってえ!?」
テキト〜に謝っていると、
その部品が、
いきなりあたしに飛び掛ってきた。
「きゃっ!!」
慌ててよけるとその部品はあたしの顔一センチのところで壁にぶつかった。
恐る恐る壁から離れると直径3ミリの部品がしっかりと壁に食い込んでいた。
「知白、離れててっ」
琴音が私をものすんごい力で押した。
それと同時に部品はゆっくりと回って壁から落ちて
スーパーボールみたいにバウンドしながら琴音の方に向いていった。
どんどん跳ねが大きくなる……?
――――え??
部品はものすんごく速いスピードでこっちに向かってきた。
「あーーーーーーーーーっ!!」
琴音が悲鳴に近い叫びをあげた。
あたしの閉じたまぶたに部品が当たる感触がした。
――――確かに。
でも……部品が床に落ちる音はしなかった。
そのかわりまぶたを通して、ふっと軽くなった感触と
細かい粉が目に入ってくるような感触が。……した??
まぶたの裏がちくっしたかと思うと膨大な量の記憶が直接頭の中に入ってきた。
「彼女は一体?」
「さぁね、あたしやあんたみたいにはっきりとした存在じゃないみたいよ」
何これ――――
「知ってる?あのアニメ。それ」
「そんな夢みたいな話………」
「夢だとしたら、悪夢ね」
あたしどーなっちゃったの?――――
「無意味だね。こんなことを繰り返すのは」
何でこんなにいろんな記憶が…?――――
「あんただって同じ様なものじゃない。私達は抜け出せないのよ」
「いや、抜け出せるね。決着をつければいい」
「は、それは遠回しに死ねって言ってるのかしら?」
どうして?あたしの記憶はどこ?――――
「もっとも、彼女が邪魔をしに来るだろうけどね」
「だって彼女は意地悪だもの」
あたしを見てる…?――――
「ねぇ、知白?」
あなた、誰?――――
「知白!知白!」
「知白!大丈夫!?」
琴音の声であたしは我に返った。
「何?何が起こったの?琴音」
あたしは頭をあげてこわごわ琴音に聞いた。
「――――――どうして、核が…知白に?」
「え…!?」
琴音もなにが起きたのかわかっていないのだろうか?
「まぁ、何があるにしろ手間は省けた」
うつろな目で琴音は喋り続ける。
もう、わからない。
何がなんだかわからない。
あたしはどうなってしまったんだろう。
琴音もおかしい。
それに、核って何?
「あの…琴…音…?」
「あ…う、うん…。じゃあ、あたし帰る……ね?」
うつろな目をして琴音はふらふらーっと歩いていく。
「こ、琴音!?」
手を伸ばそうとしたの、にいきなり頭痛がおそってきた。
痛ッ!!
頭がガンガンする!!
「奴をたおせ」
「奴をたおせ」
「奴をたおせ」
「奴を…!!」
い、いやぁーーーーーーっ!!
やめて、誰!?何なの!?
あたしの足が動かそうとしていないのに勝手に動く。
手をのばして琴音の手をつかむ。
「…ひっ!!」
琴音が恐怖ですくみあがっている。
あたし、そんなに怖い顔しているのかな?勝手に動いているから分かんない。
視界はまるでTV映画みたいに関係のないものに見える。
すべての感覚が薄れていって、頭痛がそれに反比例する様にひどくなった。
「奴をたおせ」
あたしの口から、あたしの声とは思えない声が聞こえた。
それはこの世のものとは思えないほど怖くて、あたしにはとても真似なんかできないだろう。
…あたしがあたしじゃないみたい。
じゃあ、今のあたしは…
一体誰?
「……」
琴音の顔は恐怖のためかわけのわからない表情になっている。
しかし、それはすぐに変わって。
「奴は…ヤツはまだいいのよ…」
何かをたくらんでいるかのような眼。
「まだ…ね」
…こんな琴音をあたしは知らない。
「琴…音…?」
あたしの弱々しい声が響いたような気がした。
気がつけば通路には人がいない…。
声も、聞こえて?…ない。
「ふっ…ふふふふふっ」
琴音がいきなり笑い出した。
「………こ…と」
「じゃぁ、帰るか」
ぽんぽんとあたしの背中を叩いた。
そういって花柄のワンピースをひらひらさせて歩いていく。
―――――そういえば、あたしいつの間に着替えたんだろ?
あたしは着替えた覚えの無いTシャツとジーンズになっていた。
「知白ぉー。早くぅー」
琴音が呼ぶ。ポン吉を通すことなく…。
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