リレー小説(4)





路香は学校への道のりを足早に歩いていた。ふと、邪魔な髪を右手で軽くかきあげる。
「………湿っぽい」
指先に感じた冷たさに、つい顔を歪める。
「 仕方ないか…」
溜め息をつくと速度をおとさずに過度を曲がる。彼女の数メートル先には知白や琴音とともに通う中学校が見えた。
彼女らの学校は私服で校舎内をうろつくことを許されていないので、路香は素早い身のこなしで校舎に入り誰にも会うことなく一室に入っていった。
そこは、生徒会室。
「すみません遅れました」
路香はきっと皆集まってきていると思ってそういった。
しかしそこにいたのは、この生徒会執行部の中でも重要な立場の(それなりに?)生徒会長と2人の副会長しかいなかった。
「……皆はどうしたんですか?」
生徒会長の眼鏡が蛍光灯の光を反射させて光るのが路香には不愉快だった。
そこで一回息をつく。
「…全員集合と聞いたのですけど」
その不愉快な生徒会長に加えて、人形のように路香を見つめる副会長二人。(=気持ち悪い)
この二人は性別は違うが双子なので姿カタチがそっくりである。
いろんな理由があって路香は生徒会の中でもこの三人が好きではない。それなので口調が厳しくなってしまう。
「あたしを騙したんですか?」
眼鏡を光らせつつ生徒会長が口を開いた。
「騙したりはしてない、君には予定より早く来てもらっただけだよ」
「だけだよ」
「だけだよ」
何かの冗談か副会長が生徒会長の語尾を繰り返した。
「………何をやらせてみてるんですか……」
うんざり、と言った目つきで路香は生徒会長を見やる。
「何も」
無機質な声で生徒会長は言った。
「何も」
「何も」
男の副会長に続き女の方も言う。
「だから何続けて言ってみてるんですかっ!?」
そこら辺にあった机をばんばん叩いてみる。
「やめてくれないか」
「くれないか」
「くれないか」
同じ様に続けられて、路香は心で呟いた。
こっちこそやめてくれないか……。
「いーかげんにしてくれないと殴りますよ」
路香は右手を握って生徒会長に向ける。知白や路香に正体がばれそうだった路香としては、今彼の冗談に付き合ってられなかった。
「はたして、君にそれができるだろうか」
そういって生徒会長は穏やかな笑みを作る。
「だろうか」
「だろ…」
今度は女の副会長に続けて男の方が言おうとしたが路香によって殴り飛ばされてしまった。男の副会長は痙攣すると、奇妙な機会音をあげて黒い煙をたちのぼらせた。
「あぁ、せっかく作ったのに…」
生徒会長はたいして惜しくなさそうに言った。
「何悪趣味なことしてるんですか…。第一本物はどこなんです?」
路香は勘でとった行動があたっていたことに驚き、あきれかえって会長に問いただした。
「あれ?君はもしかして本物が存在するとでも思っているのかい?」
「いるのかい?」
生徒会長の眼鏡がまたキラリと光る。
副会長は一人になっても繰り返しているし。
「…まさか」
そう言って路香は視線を女の副会長に向けた。
やはりこちらもさっきの副会長にあった違和感。
心をどこかにおいてきたような表情。それはあまりにも『生』を感じさせない。
別に会長の言ったことを信じたわけではないが…これが偽者ということもありうる。
路香は近くにあった本棚から分厚い辞書を取り出し、いかにも今から投げますよと言う勢いでその腕を上げた。
「本は大切に扱いましょう」
生徒会長が図書委員の決まり文句を口にした直後には、女の副会長の顔が路香の投げた辞書によって吹き飛ばされていた。
その首からは先程と同じ黒い煙がふき出る。
「まったく。なんてことしてくれるんだ」
さも悲しい。というように顔をしかめたが嘘だということはばればれだった。
それからケータイを取り出してどこかにかけ始めた。
「……もしもし。さっきの、二体とも壊れてしまってね。悪いが替えを用意してくれないか……ああ。今からきっかり三分後に」
話し終えると生徒会長は路香に向き直った。
「さて、本題に移る前に三分待ってくれないか」
「あたしとしては副会長の替えが来る前に終わりたいんですけどね」
おじけず腕組みをすると口を閉じた。
三分。三分で機会を二体作れるわけはない。
ということはもう作ってあるのだ。
しかも三分で届くところに。

コンコン。と音がしてドアが開いた。
そこには同じ顔をした副会長が二人一組で四人いた。しかも双子なので四人全部同じ顔である。
「「もってきました」」
「そこに」
二人の足元を指した。
「「はい」」
何か操作したあと、機会は二体動いて、路香が入ってきたときと同じように座った。
「「失礼します」」
「ちょ、ちょっと待って副会長!?」
「「なんでしょう」」
二人同時に話されるのも怖いが今は気にしない。
「何で機械を使ってるんですか?」
路香は聞いてすぐに後悔をした。二人が素直に答えてくれるハズが無いのだ。
そもそも生徒会の人間は信用ならない。
案の定、馬鹿にするように鼻先で笑われてしまった。
「君がそんな率直な質問をするとは思わなかったよ」
「本当にそれで忍者の末裔なの?」
二人の声と声の間には隙間が無く、まるで曲の一フレーズのように滑らかだった。
「あたしは別に忍者なんかっ…」
路香が言い返そうとすると生徒会長が手で制した。
「何を無意味な会話をしているんだい。そもそも路香に用事があるのは僕なんだよ」
生徒会長は肩をすくめて言った。
すると副会長二人は路香と話していたのを忘れてしまったかのように切り上げて、ドアの方に向かい
「「失礼しました」」
と、また同時に言ってでていった。
路香はまだ憤りを抑えられずにいたが、自分の前には彼らより変な生徒会長がいる。
まだ安心することはできないのだ。
「やれやれ」
とその人が言う。
「いつもは温厚で温和な二人なんだけどね。彼らも多忙な毎日を送っているから疲れているんだ」
あの二人のどこが温厚で温和で疲労がたまりそうなんだと路香は思った。
でも言わない。
もうこの人とは手短に話そう。
「それで、結局私に何の用があるんですか?」
「元々話を横にずれにずらしてしまったのは君だろう?…まぁいい、用件を言おう」
生徒会長の横にいるさっき持ってこられたばかりの女の副会長が立ち上がり、路香に一枚のプリントを渡した。
それを受け取って読み上げる。
「料理大会について…はぁ?料理?」
「そうだ」
「いや……そうだぢゃなくて……」
なにが料理大会なんだ!!
それがあたしに関係あるの?!
困惑している路香をよそに副会長はプリントとはまた別に封筒を取り出す。
「開けてみてくれ」
白い封筒の中を開けると白い紙が二つ折りになっていた。
……開けたくない……。
生徒会長の眼鏡がきらりとひかったような気がした。
「君には川原琴音をこちらに引き込んで欲しい」
「琴音を……?」
目をしばたたかせる。
「そう…細かいことは封筒の中に入っている紙に書いてある。
今すぐ開いて、読んだら返してくれ。
そういうと、生徒会長は自分の席に座るなり、なにやら作業をし始めた。
人を呼んでおいて何なんだ一体…
路香は半ばあきれた面持ちで封筒の紙を広げ、目を通す。

「読みました」
しばらくして路香が言った。生徒会長は顔を上げると、封筒を中に入った紙を受け取る。
そしてポケットからライターを取り出すと紙を封筒ごと燃やしてしまった。
路香はそれほど驚かない。以前にもこんなことがあったからだ。
「あの……」
「なんだい?」
「あの、末葉には言うんですか?」
路香はしどろもどろに言う。
生徒会長は馬鹿にしたように笑う。
「そんな必要があると君は思っているのかい?」
「いいえっっ!用件は終わりですね?では私は帰るので」
路香は苛立ちを覚えて、大きな音を立てて生徒会室の扉を閉めて行った。


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