リレー小説(6)



グラウンドで汗を流しながら頑張っている運動部。
各教室に差し込む強い光。
遠くの方で聞こえる吹奏楽部のやわらかい音。
それは通いなれた中学校のある一面であり、全身で感じる夏の雰囲気だった。
あたしは生徒玄関で靴を履き替えて、いやに足音が響く廊下を数回曲がってから気がついた。
――――――家庭科室って、何処だっけ……?
セミの鳴き声が空しく感じた。

人が見つからないので、闇雲に歩いてみた。
右に曲がって、階段をあがって左に曲がって……。
「しっかし聖也もやるわよね」
数メートル前に男女の二人組みを発見。
女の子は黒い髪を高いところで一つにしばっていて、歩く度に髪がゆらゆら揺れていた。男の子の方は身なりがきちっとしていて最近の若者にありがちなだらしない所が全く見られなかった。
「そうかい?それより末葉は川原琴音に会ったんだろう?どうだった?」
道を聞くために声をかけようとしたら男の方の声が聞こえてきた。
「まつは……?」
ちいさく繰り返す。なんだか聞いたことがある。ような気がした。
「琴音?けっこうかわいかったわね」
「からかっているのかい(怒)」
まつは……まつ…末…――――――。
「琴音より気になる子がいたわ」
「気になる子?」
末葉…?そーだ。末葉だ末葉。あのプールの時の。でもどうしてこんな所に。
「観月(みづき)知白よ」
あたし?あたしの話題?
「観月知白?…彼女は一般人じゃないのか?」
一般人?あの二人は、違うの?
頭痛がした。あふれて、水の様にすべり落ちる何かを感じた。



「知白〜?知白ちゃーん」
誰かの声。
目を開くと、光。
まぶしい。
「あ、起きた?おはよー。大丈夫?」
知らない顔が二つある。
さっき話していた二人だ。
女の子の方がけらけらと楽しそうに話す。
「あれぇ〜?もしかして忘れられてる?昨日会ったばっかなのにぃ…」
昨日…昨日はプールに行ったはず。
じゃぁこの子は…。
「末葉?!何で末葉がこの学校に?!」
「よかった。思い出してくれたのね」
そしてあたしは末葉の後ろにいた男の子(子といっても先輩のようなのだが)に目をむけた。
誰だろう。
末葉がやっぱり楽しそうに説明した。
「この人、私の兄でこの学校の生徒会長…って知白この学校の生徒だから言わなくても分かるか」
「え!?兄?」
生徒会長のだということを思い出して驚いたが、兄妹だということにはもっと驚いた。
だいたい二人とも名字違うし!!
「あ、何で名字違うんだろー?とか思ってる?」
末葉がずばりあたしの胸中を言い当てた。
「え……うん」
「ふふふっ。それは秘密。だって国家問題にかかわることなんだもの」
「……へ?」
ぽかんとしているあたしに末葉はにっこり笑った。
「いやだぁー。冗談よ。本気にした?」
軽やかに笑う末葉をよそに兄である生徒会長は渋い顔をしていた。
あ。なんかまたぼうーっとしてきた。
「本当のことだったら面白いのにねぇ?」
ん?あたし何言ってるの?
「まぁ、私にはだいたい理由が分かるが。しかしこんなところでこんなことを喋ってしまっていいのかい?私は助かるからいいんだがね」
末葉と生徒会長がぎくりと顔を見合わせた。
何?あたし何言ってるの?
生徒会長も何言ってるの?
あたしは生徒会長がぶつぶつつぶやいている呪文みたいな言葉を聞きながら気を失ってしまった。



「知白〜?知白ちゃーん」
誰かの声。
目を開くと、光。
まぶしい。
「あ、起きた?おはよー。大丈夫?」
知らない顔が…。
「あれぇ〜?もしかして忘れられてる?昨日会ったばっかなのにぃ…」
昨日…昨日はプールに行ったはず。
じゃぁこの子は…。
「末葉?!何で末葉がこの学校に?!」
「よかった。思い出してくれたのね」
え!?なんかおかしい……?
こんなような会話昨日もしなかった?
「……あれ?男の人は……?」
記憶の隅に残っているような気がする。
男の人……彼は……?
「……はい?誰それ?」
「男の人と話してなかった?」
「ううん。ずっと一人よ」
「え…そうだった?」
「うん、何かの勘違いじゃない?知白、階段の手すりに寄りかかって気絶してたみたいだから」
「……ここ、どこ?」
あたしはその時やっと自分がベッドに寝かされていることを知った。
「保健室よ」
「保健室……?学校……」
うつむいて、記憶を探る。学校…?階段…あたし…。
「あたし、何で学校にいるんだっけ?」
ぽろりと出たひとり言。ベッドの横にある丸椅子に座った末葉が眉をひそめる。
「知白、階段で頭打ったの?二度もあたしのこと忘れるしさ」
「二度?」
「あー。まぁいいわ。忘れて。それよりどこか痛い所はない?」
頭がゆらゆらする。なんだか頭に血がのぼったみたい。それになんだか眼が痛い……。
口を開いて、言葉を紡ごうとしたら保健室のドアが勢いよく開いた。
「知白。大丈夫?」
えーと。あ。琴音だった。琴音はエプロン姿でみぎてに泡だて器を持ったまま、あたしと末葉の所まで来る。そういえば今日の部活は久しぶりに調理室を使ってパウンドケーキを作るんだった。楽しみにしていたのにこんな事になるなんて…。
…あれ?こんな事って何だっけ?
「あれ、何で末葉がここにいるの?」
琴音があたしの傍らにいる末葉を観て尋ねる。
「あたし?あたしねぇ。秋に、ここに転入するの」
意味ありげな笑顔を琴音に向けて末葉は言った。
「えっっ!?」
あたしが声をあげた。だから末葉はここにいたのかー。もしかして昨日プールに来たのも転入するから仲良くしたくて来たのかな?
「そうなの?末葉が来てくれると面白くなりそうだわ。改めて、よろしくね」
ニッコリ笑って琴音が言った。何か社交辞令みたい。さっきの末葉といいもしかしてこの二人って本当は仲が悪いのかしら。あって間もないのに。
「よろしく。そういえば『ポン吉』は?プールに行ったときに持っていたヌイグルミ。どうしたの?」
「ああ、あれ?壊れたからもういいの」
「壊れたからもういい!?」
驚いて大きな声をあげてしまう。
少し大げさだと思われるかも知れないがあたしにとってはそれぐらいびっくりすることだった。だってあんなに大切にしていたポン吉を…ポン吉…あれ…ポン吉…って何だっけ。
「どうしたのよ知白。そんな大きな声出して」
気付いてみれば琴音と末葉がびっくりしてこちらを見ていた。
「うぅん。何でもない」
自分の口元が引きつっているのを感じながらも笑う。
なんだか頭が痛い。
いつか…いつも…みたいに頭がぼうーっとしてくる……。

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