リレー小説(9)
「…な……なな…」
「知白、ごめんね。ナツメ君誰にでもあんな感じなのよ」
琴音が、呆然としているあたしに、あたしが気にも留めてないナツメ君名性格の方をフォローした。今はどうでもいいのよ…本当に。
ぼけっとくまのぬいぐるみ(ナツメ君)に誘導されているうちに、長い廊下を抜けて大きな部屋に着く。
部屋の向こう側には、夜には贅沢な夜景が楽しめそうな大きなガラスが壁の代わりにあった。
「ようこそ」
部屋の真ん中にソファがコの字に並んでいる。しかも革の黒くてピカピカの奴。そのソファに座りながらこっちを見ている人が口を開いた。
「あ…はぁ……どうも」
なんだか分からないけどその人の発するオーラ(?)みたいなものに気圧されてお辞儀しておく。
「知白、ごめんね。変な人が多くって」
琴音が横からフォローを入れる。フォローになってないけど…。
「ええっと。ごしょーかいします」
ソファに座っている男の人を指差した。
「こちらがカイ様。……えぇっと。ナツメ君は?」
「はいはい〜。ここですー」
どこからともなく声がする。
あたしはまたくまが出てくるのかと思って身構えた。
しかし。
出てきたのは中途半端な髪を後ろで結んだ男の子だった。
「えーっと。ナツメ君ね。さっきのくまのぬいぐるみは、遠くにいても動かせるようになってるの。ほとんど本体見せることないからじっくり見とくといいよ」
適当に言って琴音はカイ様って人と向かい合わせになるように座る。
「知白も座って」
二人がけのソファの半分をぽんぽんと叩いて琴音が合図する。
あたしはそそくさと座った。
なんだか居心地悪いかも。
ついてくるんじゃなかった……。
「ナツメ君。冷蔵庫にアイスケーキが入ってたでしょ?サーティーワンの箱の奴。あれ持ってきて。あ、お皿とフォークもね」
琴音がスバスバと命令していく。
「えー。ハーゲンダッツで我慢してくださいよー」
ナツメ君が困ったように笑って言ったが琴音は聞き入れなかった。
しぶしぶ台所があると思われる方向へ足を向けるナツメ君。
あれ?なんかぬいぐるみのときと態度が違うような…。
あのそっけない態度のくま(の本体)が人懐っこい笑顔を浮かべるなんて。
「知白」
ナツメ君の消えたほうを見ながら考え事をしていたあたしは、急に呼ばれてはっとカイ様と呼ばれている男の人を見た。
彼はあたしをまっすぐ見て微笑していた。
なんとなく「普通」だなぁ、と思った。彼の顔にはおよそ特徴と呼べるものがなかった。
大きいとも小さいとも言いがたい目。
低いとも高いとも言いがたい鼻。
整っているけれでかっこいいのかどうだかよく分からない。
まるで、人間の顔のベースのような、模範的な顔。
「知白?どうしたの?」
その声で自分がじっとカイ様の顔を見ていたことに気付く。
「な、何でもない。それより琴音の電話の相手って…」
「えぇ、カイ様よ」
「へぇ……」
………。
沈黙する。
あたしはその一言を聞くためにこんなところに来たのだろうか。
『行けば全てが分かるわ』
琴音がさっき言っていた言葉。結局よく分からない。
なんだか馬鹿らしくなってきてしまった。
「ところで知白。最近君の周りでおかしなことが起きてないかい?」
腰を上げようとしたところをカイ様に尋ねられた。
「おかしなこと、ですか」
数センチ浮かした体を再びソファに沈めて考える。
おかしなことなんかここ数日間でたっぷり味わった。
だけどなぜカイ様がこんなことを聞くのか。琴音から聞いたのだろうけれど、なぜ琴音がカイ様にあたしのことを言う必要があるの?
それに―――。
「はい琴音。カイ様、アイスケーキですよ。言われたとおり、サーティーワンの奴。全くもー、人使い荒いんだからー。あっ、知白さんも食べます?」
ぶちぶち文句を言いながらもナツメ君は手際よくアイスケーキをカイ様と琴音に配っていく。
あたしはなんだか混乱していて文句と問いが一緒になっているナツメ君の台詞を理解できなかった。
「また、ナツメ君は文句ばっかり。ほら見て、知白驚いてるじゃない」
それもあるけど違うのよ琴音。
あたしが驚いていたのはカイ様なの。
「どうやら身に覚えがあるようだね知白」
ほら、なぜカイ様はあたしを知白と呼ぶの?
あたしも、なぜカイ様に敬語を使っているの?
「はい。知白さん。早くしないと溶けちゃいますよー」
歌でも歌うかのようにナツメ君がお皿をあたしの前に置く。
「そうよー。遠慮しないでどんどん食べてねー」
アイスケーキをパクパク食べながら琴音も言った。
あたしはなんだか分からないままソファに座っている。
そして今日何度目かの感想をため息にしてやり過ごす。
早く帰りたい。
「ほらーため息なんかついてないで食べなよー。緊張することないんだからさ。もう我が物顔ですわってなよー」
……なんだか。なんだか、ここの人たちには馴染めない。
何ナノ?この人たちは、三人して。
何であたしだけ仲間はずれなの?
「琴音もナツメも少し黙って。全く二人がいるとまともに話しも出来やしないんだから」
カイ様が紅茶(いつの間に用意されたんだろ?)を一口飲んだ。
「さてと。君は真実を知りたいかい?」
は?真実?
「カイ様、真実ってちょっと……」
「琴音」
口を開いた琴音をカイ様は静かに制した。
「はーい」
琴音がソファに寄りかかって唇を尖らせ、指を弄りはじめた。
「真実という言葉が違うのなら……そうだな、謎の解明ってところでどうかな?」
これは誰に問いかけたのかしらん?
琴音?
でも琴音は答えないし。
あたし?
だったらどう答えるのが正しいの?
どうかな?って言われても。
そうですね、とも言えないし。
さあ?なんてもってのほかよね。
あぁ、この沈黙は何なの?
何でこんな空気が重いの?
……帰りたい。やっぱり帰りたいよぉ。
このまま帰っちゃだめかな?もう暗いんでって言って。
今の雰囲気では帰れないよね。でも言わなきゃ。
よし言おう。
「……あ……」
「あーもう!そんなに怒らなくてもいいでしょ!悪かったわよ、あたしが。ごめんなさいね、途中で口挟んで」
琴音が腕をソファの背もたれの向こうに投げ出した。
怒ってた……?カイ様が?
「はいはい。話を進めてくださいね」
琴音が手で、促すポーズをする。
「ごめんね。気を使わせて」
カイ様が不敵おに微笑む。
……分からないことはたっくさんあるけど。とりあえずこの人たちの会話が分からない!!
「さて、話を本当に戻して。知白、君は君が疑問に感じていること全てを聞く権利がある。僕たちはそれに答えよう。でも君は何も聞かないという権利もある。つまり僕たちは強制はしない。君が今すぐ帰りたければ帰ってくれてもかまわないんだ」
それは待ち望んだ言葉だった。
帰ってもいい。
ちょっと前まであたしはその言葉が本っ当に心の底から欲しかった。
そうなのだ。
いつも時は一瞬にして狂いはじめる。
一秒にも満たないすばやさで誰かがあたしの時計の針を歪めるのだ。
そしたらあたしはそれまで刻んできたペースを保つことが出来ない。
世界共通で一分は六十秒。
一日は二十四時間だ。
さてここは一日で何時間だろう?
あたしが思うに、ここは一日三十時間はあるだろう。
あたしが今いるここだけは。
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