船の甲板上では、船室への入り口を守るように陣形を固める船員、傭兵達と
船に乗り移った海賊との間で戦闘が始まっていた。
数十人が戦っている中にひときわ目立つ熊のような大男がいた
その男は海賊船の船長で名をガルグドといった

ガルグドは自分に向かって来る傭兵を大刀の一撃で切り捨てながら
その髭だらけの顔に喜悦の表情を浮かべていた。

(まったくこの仕事はやめられねえ、好きなだけ殺しはできるわ金も女も思いのままだ。)

ガルグドは一見腕力だけが自慢の粗野な大男といった風体だが
その外見とは裏腹にかなりの策謀家であった。
彼は縄張りを通る船を手当たり次第に襲うといったことはしない。
各港には手下を潜り込ませてあり、縄張りを航行する船の積荷の内訳や、
その船がどのくらいの傭兵を雇っているか等、常に情報収集は欠かさず
苦労に見合い、且つ勝てると判断した船だけを襲う方法を取っていた。
そして取締りが厳しくなるとほとぼりが冷めるまで
海賊行為を自粛して身を隠すという事を繰り返してきたのだ。

今回もこの船の積荷が手下からの情報どおりならかなりの稼ぎになるだろう
護衛の傭兵を雇っているという事だったが
所詮は陸での戦いしか知らないような、海上戦は不慣れな連中ばかり、
もう何隻も船を襲っては略奪をしている手錬の配下達と自分の敵ではない。

怒号と悲鳴の飛び交う中、戦いは続いた。
ガルグドはさらに2人の傭兵を倒した後に、状況を見定めるべく後方に下がった。
どうやら趨勢は決したようだ。
相手の船員と傭兵達はもう半数近く倒されている。
手下は何人かが手傷を追った程度だ。
形勢を見て取り、ガルグドはわざと大声で手下達に檄を飛ばした。

「手前ら!!そんな奴らとっとと切り刻んで海にぶんなげちまえ!!」

「「了解でさあ!!」」

手下達もその辺は心得ていてわざと相手に聞かせるように獰猛な声でそれに応える。

そのやりとりで船員達は明らかに浮き足立った。
じりじりと半円状の陣形を縮ませていく

これで今回も酒も金も女も好きなだけ手に入るだろう。
ガルグドの脳裏は早くも今夜味わう美酒と女が占めつつあった。
この時彼はこれから実際に自分が辿る運命を夢にも思わなかったに違いない。
そして彼の誤算が、船内へと続くドアから二人の男の形をとって甲板へと姿を現した。

シャルタとガレフの二人は甲板へ上がった。
あたりを見渡すと想像以上に状況は悪かった。
こちらの船の味方は半数近くが倒されていた。
二人は凄惨な現場に思わす顔をしかめる、
船員達と対峙している海賊達のさらに後方にいる髭面の大男が相手の船長のようだ。
大男のニヤニヤ笑いからは、明らかにその一方的な殺戮を楽しんでいる様子が見て取れた。
シャルタとガレフの顔に強い嫌悪と憤りの表情が浮かぶ。
互いに軽く目配せするとガレフが前に足を踏み出し、船員達の列に並びながら一言告げた。

「手を貸すよ」

その声に、腰の引けかかっていた船員達が二人に気付き、そのうちの一人がなんとか答える。

「あ、ああ・・・頼む」

かなり怯えの篭った声だったが
ガレフの巨躯をまじまじと見るとその表情には軽い安堵のような表情が浮かぶ。

そして新たに現れた二人を見て海賊達には逆に動揺が走る
というよりも正確には彼らの視線もまたガレフに注がれていた

(な、なんだありゃ)

(うちのお頭よりでけえぞ)

(あんな大斧振り回されたら体真っ二つにされちまうぜ)

シャルタはそれら両陣営の表情の変化を見て軽く苦笑していた
シャルタはその場の空気から完全に取り残されていた、
双方とも彼の事がまったく目に入っていない様だったからだ。

(あの体と比べられたら無理もないか、ま、今はその方が都合が良いけどね・・・)

心の中で自分に言い聞かせながらシャルタも腰から武器を抜いた。


「ん?」

ガルグドは頭に思い描いていた甘い幻想から引き戻されて不快そうに眉を寄せた。
船室から出て来た新手の二人を見る、傭兵らしい大男とか細い優男だ。

(今頃になって出て来やがって・・・)

お陰でせっかく自分が与えたプレッシャーから船員達が立ち直りかけてしまっていた、
しかも逆にこっちの手下が動揺し始めている有様だ。
そしてなにより彼は自分より背の高い男と顔の良い男が大嫌いだった。
二人はまさしくこのカテゴリに当てはまる。
ガルグドの心にドス黒い炎がともった。

(こいつら生かしちゃおかねえ・・・)

勝手にそう決めると動揺してる手下達に再び声を上げようとした瞬間、
唐突に巨漢が動いた。

傭兵達の列を抜け、距離を詰めながら右手一本で持っている戦斧を持ち上げると
海賊の一人を間合いに入れる、巨体らしからぬ踏み込みの早さだった。
そして戦斧が唸りを上げて袈裟懸けに振り下ろされる。
その海賊はとっさに手にしていたカトラスで受け止めようとした
その反応だけでも賞賛に値しただろう、だが、
ガレフの腕力と斧の重量から生み出される破壊力の前にはか細い片手剣など何の役にも立たなかった。
ぽきん、という音に一瞬遅れて、べしゃん、と水分を大量に含んだやわらかい物が破裂するような音がした。
ガレフの戦斧の一撃は哀れな海賊の上半身を相手の剣ごと、切り倒したというより破砕していた。
遅れて、残った下半身がその場に崩れ落ちる。

「「ウ、ウオオオオッ!!」」

残りの海賊達は数瞬前まで仲間だった男が、肉片と化して周囲に飛散するのを見て
ほんの少し前までの勝ち誇っていた様はどこへやら、先程までの船員達以上に浮き足立った。
しかし逃げ腰になりかけたところへガルグドが一喝した。

「てめえら!! うろたえるんじゃねえ!!! 
多少強くてもたった一人だ!! 囲んでやっちまえ!!!」

 「「わ、わかりやした!!」」

目の前の巨漢の戦士も怖いが、今まで命令に逆らった手下を
船長が見せしめにどういう目に合わせてきたか海賊達は瞬時に思い出した。
そして彼らはより強い恐怖が命じるままガレフをとり囲むべく動く。

だが手下へ怒鳴り声を上げながらも、実はこの場で最も動揺していたのはガルグド自身だった。
大声の語尾が震えなかった事を密かに安堵していた程だ。

(い、一体なんだあの化け物は・・・じょ、冗談じゃねえぞ、あんな奴が乗ってるなんて・・・)

ガレフの一撃を見て動揺から立ち直った船員達も武器を構える、再び戦闘が始まった。