「僕は頭の良い人間じゃないし、物事を理解するのに時間がかかる。でももし時間さえあれば僕は君のことをきちんと理解するし、そうなれば僕は世界中の誰よりもきちんと理解できると思う。」
「やりたいことをやるのではなく、やるべきことをやるのが紳士だ。」
「あの人、あなたの前ではいつもそうだったのよ。弱い面は見せるまいって頑張ってたの。きっとあなたのことを好きだったのね、キズキ君は。だから自分の良い方の面だけを見せようと努力していたのよ。でも私と二人でいるときの彼はそうじゃないのよ。少し力を抜くのよね。本当は気分が変わりやすい人なの。・・・・・・・・いつも自分を変えよう、向上させようしていたけれど。」
「でも正直に言って、私はあの人の弱い面だって大好きだったのよ。良い面と同じくらい好きだったの。だって彼にはずるさとか意地わるさとかは全然なかったのよ。ただ弱いだけなの。・・・・・」
「かまわないよ。たぶんいろんな感情をもっともっと外に出したほうがいいんだと思うね、君も僕も。だからもし誰かにそういう感情をぶっつけたいんなら、僕にぶっつければいい。そうすればもっとお互いを理解できる。」
「私を理解して、それでどうなるの?」
「ねえ、君はわかってない」と僕は言った。
「どうなるかといった問題ではないんだよ、これは。世の中には時刻表を調べるのが好きで一日中時刻表読んでる人がいる。あるいはマッチ棒をつなぎあわせて長さ一メートルの船を作ろうとする人だっている。だから世の中に君のことを理解しようとする人間が一人くらいいたっておかしくないだろう?」
ノルウェイの森(上) 講談社文庫より