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昨日死闘を繰り広げた、自分達の居城の前で、
少女は、ひとり佇んでいた。
その細い肩を震わせながら。
懸命に抑えてはいるけれど、
心の中では慟哭しているのがよくわかる。
普段、勝気でいるだけに
誰にも気付かれたくはないことも。
でも、放ってはおけなかった。
畏れおおいことだとは、わかっていたけれど。
「姫様…」
そっと、小さな背中に呼びかけて、震える肩に手を置いた。
「クリフト…どうして?」
声で自分だとわかったのだろう。
一瞬ぴくりと身体が動いたが、
そのまま振りかえりもせず、彼女は訊ねてきた。
「朝の祈りが済みました時、姫様が駆け出していくのが見えましたので…」
「そう…」
それだけで察したのだろう。短い答えの後、ふたたび彼女は沈黙する。
両肩を自分の手に委ねたまま。
少し冷たい風が、少女の巻き毛を揺らしていく。
「夜だと、魔物がいっぱい出るでしょ?」
ぽつりと少女がつぶやく。
「朝は、全ての始まりだし…、日の出が浄化してくれそうな気がして…」
「だから…、でも…、やっぱり、ここには誰も………」
肩の震えが一層ひどくなる。けれど、泣き声は懸命にこらえたまま。
抱きしめたかった。
その哀しみごと全てを受け止めたかった。
けれど、彼女は王女。この国の第一継承者なるお方。
そして、自分は…。
けれど…。
「姫様…」
せめて、肩に乗せた手に力を込めて。
「私が…、いえ、私とブライ様がいます。決して姫様をひとりには致しませんから。
ずっとずっとおそばにいますから」
あらためて誓う。誰よりも愛しい少女と、自分自身とに。
しっかりと肩を握っている彼の手に、そっと自らの手を重ねてみる。
あったかい…
手袋越しでも伝わってくる。
言葉だけでない彼の優しさ。そして、とてもとても大切なこと。
自分はひとりではないということ。
「ありが…と…」
振り返って彼の顔を見た途端、あらたな涙が溢れ出した。
嬉しいからなのか、哀しいからなのか、もうわからない。
どうしたらいいのかもわからないまま、彼の服に縋り付いて、そして。
今度は感情にまかせて。
自分の胸に飛びこんで来たアリーナを、クリフトはそっと抱きしめた。
そして、「誰も聞いていませんから」と腕の中の少女にささやく。
それに呼応するかのように、アリーナの嗚咽が始まった。
少し冷たい風が、ふたりの衣服をはためかしていく。
青い空へと、少女の泣き声を運びながら。
「クリフト…ありがとう…」
落ち着いたアリーナが、そっとクリフトから離れる。
クリフトはいつもの微笑みを返して、アリーナに訊ねる。
「そろそろ、サランへ戻られますか?」
「ううん、出来ればお城の中を見ておきたいの」
そう言ったアリーナの瞳には、強い輝きが戻っていた。
「危険なのはわかっているわ。でも、どうしても見ておきたいの。
もう一度だけ」
瞳の奥の考えを推し量るかのように、
クリフトはアリーナをじっと見つめ、、、やがて頷いた。
「わかりました。ご一緒いたします」
「ありがとう」
そして彼らは踏み出した。 新たなる旅立ちの一歩を。
Fin.
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