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『おねがい』
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「ねぇ、どうして?」
蘇芳色の瞳がまっすぐに少年を見つめる。
「どうして、アリーナってよんでくれないの?」
「………」
「クリフト?」
青褐色の髪の少年、クリフトは
目の前の少女をただ見つめているだけ。
が、やがて困惑した表情のまま口を開く。
「それは、アリーナ様がおじょう様だから。。。」
「ブライやみんなもそういうけど、アリーナはアリーナだもん。
“おじょうさま”や“アリーナさま”じゃないもん!
おとうさまとおかあさまは、アリーナってよんでくれるのに、
みんなはちがうの。。。」
「お父様やお母様は特別だからですよ」
「クリフトはちがうの?アリーナのともだちじゃないの?とくべつじゃないの?」
クリフトは戸惑っていた。
確かに自分はアリーナの友達としてここに来ている。
でも、彼女は同時に自分と母の恩人の、一人娘でもあるのだ。
失礼があってはいけない、と母からも言い聞かされていた。
でも、、、
「ブライがいうの。おとうさまはおしごとでおいそがしいし、
おかあさまもぐあいがわるいから、
すこししかアリーナとあえないけどがまんしなさいって。
クリフトのこともがまんしなきゃいけないことなの?」
アリーナの声の調子が変わったことに気づいて、
クリフトはアリーナの顔をのぞきこんだ。
自分を見つめている大きな瞳が潤んでいる。
今にも滴がこぼれおちそうなくらいに。
−−−!
泣かせてしまう。
両親になかなか会えなくて彼女はさみしいのだ。
だから自分にそう呼んでほしいのだ。
それなのに、自分は…。
この少女を泣かせてしまうことに比べたら。
他の人から叱られることなんて。
クリフトはすこしだけかがんで、アリーナの視線に合わせる。
濃藍(こいあい)色の瞳でアリーナを見つめて、そして、
「わかりました」
「ほんと?!」
「はい。だから、泣かないでください。……アリーナ」
“アリーナ”
クリフトはそうよんでくれた!
「うん!」
アリーナは、ぽふっと少年に飛びついた。
とってもうれしかったから、彼女は気づかなかった。
クリフトの顔が赤くなっていたことには。
そして茜色の頭を受け止めた彼の顔が
もっともっと赤くなったことにも。
それが、ふたりのはじまり。
Fin.
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