『若き神官の悩み』


「ねぇ、サントハイムの人ってみんな歳をとるとお爺ちゃんみたいになっちゃうの〜?
  だったらクリフトも危ないんじゃないの〜?キャハハvv」
「クリフトは頭いいからな〜。そういう奴ほど……なっv」
「姉さん!それに勇者さんも!クリフトさんに失礼よ!
  だけど…、クリフトさん、帽子をかぶってらっしゃることが多いですよね…。
  どうか、気をつけて下さいね。蒸れはよくないといいますから……」

いつも飲酒を自戒しているクリフト。
しかし、久しぶりの宿屋、久しぶりの宴会でタガが外れてしまったマーニャが、
「たまには飲みなさいよ〜」と、突然コップをクリフトにつきつけてそのまま呑ませたのだ。
けれど、クリフトの様子は一向変わらなかった。
それが面白くなかったのか、はたまた自分の酔いがまわったのか…、
気がつけば、そんな話題になっていた。


お酒の上での他愛のない話なのだから。
そう軽く流してしまえばいいはずなのに、先ほどの3人の言葉が頭の中をぐるぐるまわって離れてくれない。
そう、そんなことにこだわってしまうほど、実はクリフトも酔っていた。
そっと右手で髪をかきあげる。
(神よ…私は将来はげるのでしょうか……?)
(そんな私を姫さまはどう思うのだろう……)
(いや、姫さまはそんな見た目になど騙される方ではない!)
(……どうして、私は姫さまの反応などを気にするのだろうか?
 姫さまがどう思おうと私はお仕えするだけではないか…)
(いや、しかし…)
そっ。
左腕に混乱してきた思考を抑えるかのような優しい感触。

「うわっ!姫様!いつからここに?」
「ずーっと前からいたわよぉ(手をかけたのはついさっきだけどv)。
  ね、クリフト、さっきからそんなに難しい顔してどうしたの?」
「……(そんなこと言えません)、いえ、何でもありません…」
「う・そ!」
ぐりん!
クリフトの顔をむりやり自分のほうに向かせたアリーナ。
「何でもなくてそんな顔するはずがないじゃない!
  ……あ、もしかして具合が悪いの?すっごく熱いよ…」
「ち、違います」
でも、クリフトは後の言葉が続かない。
自分が熱いのは照れているからだと、
自分の頬をアリーナの両手が包んでいるからだなんて、とても。
それに、そんな自分も信じられなくて。
(ど、どうして私はこんなに動揺しているんだ…?)

でも、そんな否定でアリーナが納得するはずもなくて。
「うそ!だって…」
ぴとv
(!)
「ほら、やっぱり熱があるv」
「…………」
もうクリフトは返す言葉が思いつかない。
アリーナの形のよい鼻が、もう少しで触れそうで。
きらきらした大きな瞳はほんの目の前。
そして、お互いのおでこがぴったりと合わさっていて。

(何故…?)
鼓動が、これ以上はないくらいに早くて大きい。
(姫さまが飛びついてくるのは、今に始まったことではないのに…)
けれど、体中の血が逆流してきたかのように頭へ上ってくるのが自分でもわかる。
全ては、目の前の少女のせい?
(姫さま、これ以上こうされていると、私は……)
(私は?いったいどうするというんだ……?)
自分でもよくわからないままに、
クリフトがアリーナに手を伸ばそうとした時、

「?」
額から離れていったぬくもりを次に感じたのは左手首。
そのまま、ぐいっと席を立たされる。
「ひ、姫さま??」
「だめよ!そんなに熱があるんだったらもう休まないと!」
そう言うとアリーナは右手でしっかりと彼の腕をつかんだまま歩き出した。
「あ、あの…いえ、それは熱があるわけではなくて…」
「うそ!そんなこと言って、いっつもギリギリまで無理するんだから!」
どうやらアリーナはすっかりクリフトが風邪だと思い込んでしまったようで。

(まあ、いいでしょう…)
情けない悩みは言わずに済んだのだから。
それに、彼女がそこまで心配してくれているのが何故だか嬉しい…。
自分をつかむ小さな右手にいっそう力がこもったのを感じながら、
クリフトはぼんやりとそんなことを考えていた。



                    おしまい。