「コスモダスト」
               

I

 いよいよ秋も深まったその日は早朝から雲一つない快晴だ った。

 コスモシャトル「サクラ」 の発射台はサイキョウシ・タカマガハラの草原地帯のほぼ中心、辺りを全角度的に眺望できる極め て見晴らしのいい場所に位置していた。 それこそ平和としか呼びようのないそのたたずまいの中 にも、かすかに風の流れが感得され、配向の整った葦の枯れた葉の海を微妙になびかせていた。  まさに日本晴れと言えるそのタイミングは、これから発射されることになる「サクラ」の重責を、 少なくとも気分的には解消しているように思えた。 今は結合されている発射ロケットとシャトル 本体はその勇壮な輝く姿を、発射台を取りまいた、何も知らされていない興味本位の観光見物人の 群衆の前に誇示していた。 発射ターミナルの待合室は発射台から南方に約一キロ離れた場所に建 設されている巨艦を思わせる総合管制センタービルの隣にある。 たまたまついこの前改装された ばかりで、今までの実用本位とは打って変わった、某デザイナーグループによる斬新な統一的意匠 がなされていた。 そのシャトル発射ターミナル待合室には乗組員の家族が昨日から集っていて、 打ち合わせた様な不安と期待の中で差し障りのない会話が、その先進的ないかにも居心地の良さそ うな環境の中で、夜を挟んで進行していた。 いつもの定期就航のシャトル運行時の待合室とは少 し違った微妙な雰囲気が漂っていると誰もが察知していた。

 特別任務を帯びた「サクラ」の発射日時が日本時間の2010年11月1日午前8時28分と 決定されたのはつい3カ月前であった。 東京に緊急設置された国際宇宙探査特別審議委員会の草 案がニューヨークの国連宇宙統括運営枢機総局に上申されたのはその一週間前であった。 総局決 定はそれほど緊急を要していた。 ここに至る議事進行はことごとく最高国際レベル機密条項とし て扱われ、最終的な採択内容は公式的には各国元首・首長及び本プロジェクト最高主席責任者であ る国連総長と、次席責任者であり、今回シャトル「サクラ」の船長と言う重責に就いた片桐にしか 知らされていなかった。 シャトル発射前の段階では、今回参加することになった、各国の宇宙開発 に関する最高頭脳集団であるプロジェクト技術要員にはそれぞれの任務の範囲内の専門に関する情 報しか伝えられていない。 さすがのマスコミにもすっぱ抜かれる懼れは全くない、かつてない規模の驚異的な情報管制が布かれていた。