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||Blue Horizon・4 |
・◇◇◇・
白菜と、長ネギと、豆腐・・・。
「ねえ、後は何がいる?」
俺は傍らにいる彼女に声をかける。
「え〜っと、柚子とか酢橘?あ、紅葉おろし作るんなら唐辛子と大根もですよね?」
頬に指を当てて一生懸命考える様子が、可愛らしい。
これが自分の彼女だったらホント微笑ましい買い物風景なんだろうけどなあ。
残念ながら我が親友、零一君の彼女なんだよね。
「でも、いいんですか?せっかくお店おやすみなのに。」
「いいのいいの、気にしなくて。君だって一人で零一待ってるより退屈しないよ。
どうせ今年も学園祭の準備でレストランが開いてるような時間には帰ってこないんでしょ?」
「う〜ん、そうなんですよ。それに今年は三年生の担任だから演劇にも出るみたいで。
ぶつぶつ台詞覚えてますよ。ハムレット、だったかな?演目は。」
「あはは、悩む様子は似合いそうだけどオフィーリア役の子にジェラシー感じない?」
「ええ、少しだけ。でも零一さん逢えるときはすごく優しくしてくれますし・・・。」
「はいはい、ごちそうさま。さっ、買い物済ませて準備しちゃお。ケーキも作るんでしょ?」
買い物袋を両手に提げて、スーパーを後にした。
俺のキッチンに初めて入った彼女は目を丸くして、あちこち見回している。
そりゃあね、独身男のキッチンにオーブン、フードプロセッサー、パスタマシンから
エスプレッソマシン、果ては餅つき器からそば打ちセットまで揃ってりゃね。
だって俺好きなんだもん、キッチン雑貨集めるの。仕事柄必要なのもあるし。
「うわ〜、凄いですね。お蕎麦まで作れちゃうんですか?マスターさん。」
「まあ、趣味の域を出ないけど。ケーキ何作るの?」
「あの、これです。」
彼女が見せてくれたレシピは、ビターチョコレートのクリームとカミュをふんだんにしみこませた
スポンジを何層か重ねたシンプルな大人っぽいショコラケーキだった。
これなら、零一好みかも。カミュだったらウチに何本かストックしてあるし。
「よし、じゃあ始めようか。」
まるでお菓子教室の先生と生徒、といったノリで仕上げたケーキは我ながら上出来。
零一のバースデーケーキにするにはもったいないくらいだ。
今度こっそり店のメニューにのせてみようかなあ、これ。
「で、何の鍋なんですか?今夜。」
「ふっふっふ。冷蔵庫の中見てご覧。」
「きゃ〜、これもしかしてフグ刺しですか!じゃあ、お鍋はフグちり?」
「当たり〜、あ、フグの唐揚げも作ってあげるからね。零一が来たら。」
「でも、どうしたんですか?こんなに豪華で・・・。この辺じゃ売ってないですよね?」
「下関から取り寄せたんだ。久しぶりに食べたかったんだけど一人じゃ多いし、侘びしいし、
零一とサシだと、その・・・まあ人数いたほうが楽しいでしょ?鍋物は特に。」
「零一さんとサシって、二人だけだと楽しくないんですか〜?」
無邪気に尋ねる彼女は、零一のもう一つの顔を知らないらしい。
「あのね、あいつは・・・」
そう言いかけたときに、玄関のチャイムが鳴った。噂をすれば何とかで、零一らしい。
小走りに玄関に駆け出す彼女はまるで子犬みたいだ。
「おかえりなさい、零一さん。お疲れ様でした!」
「ああ、待たせてしまったな。悠介、今日は悪いな。上がらせてもらうぞ。」
「はい、ど〜ぞ。端から見てるとまるで新婚だな。」
「お前は全く・・・どうしていつも一言余計なんだ。」
真っ赤になってしまった彼女の肩にさりげなく手を回しながら零一が苦笑する。
(コイツ、すっかり大胆になってる・・・。)
「あの、あの、零一さんもマスターさんもおなか空いたでしょう?支度しますね。」
零一の腕をするりとぬけて彼女がキッチンに向かう。
「今夜は何を食わせてくれるんだ?」
「へ?ああ聞いて驚け、フグコースだ!!お前のために奮発しちゃったぞ。」
「ありがとう、彼女も喜ぶな。コース・・ということはフグちりもあるんだな?」
零一の瞳がきらりと光り、口元には不敵な笑み。
(うっ・・・嬉しそうだ。やっぱりコイツって・・・。)
「わ〜、フグの身って甘いんですね。おいしい、私初めて食べました。」
「でしょ?どんどん食べてね♪」
「冬になると身が締まって格別だな。ひれ酒も暖まる。」
「わっ!零一、5〜6枚もいっぺんに食うなよ。もっとありがたく食べろ!」
「そう言うお前も、7〜8枚はいっぺんに食ってるぞ、悠介。」
「うぅ、数えてたな。さっ、唐揚げ、唐揚げ♪二人ともレモン絞っていい?」
わいわい言いながら料理を平らげ、いよいよ鍋だ。
彼女がぎこちなく菜箸でフグのあらを入れようとしたとたん、声が飛んだ。
「貸しなさい、私がやろう。」
「えっ、でも零一さんは今日の主役だし、一応これでも女の子だし、その・・・。」
「あ〜っと、あのね、やりたいっていってるからやらせておけばいいよ。ね?」
戸惑う彼女に笑いながらそう言って、すかさず耳元に口を寄せる。
(あのね、零一、鍋奉行だからほっときな。本人やりたくてたまんないんだから。)
目をまん丸にして俺と零一を交互に見つめていた彼女が、クスリと笑った。
零一は嬉々としてアラを入れたり、アクをすくったり、固そうな白菜の芯を入れたりしてる。
(あの、昔からこうなんですか?)
(そっ、意外でしょ?普段のメシは同じようなのばっかり食ってるのにね。)
(どうしてなんですか?)
(無秩序に何でも放り込まれるのは我慢がならないんだって。)
(零一さんらしいといえば、らしいかも。)
「さあ、もういいだろう。私がよそってやろう。ほら、器を貸しなさい。」
まあ、お優しいことで。俺は豆腐でも食べよ〜っと。
その後締めの雑炊に至るまで、まるでフグ料理屋の仲居さんのように零一は場を仕切っていた。
「あ、バースデーケーキ!」
彼女が冷蔵庫から取り出してきたケーキにろうそくを立て、部屋の灯りを落とすと
零一がふっと息を吐いた。
「今日は、二人ともありがとう・・・。自分の誕生日をこんな風に暖かい気持ちで過ごせるのは
君と悠介のおかげだ。これからも、その、よろしく頼む。」
ああ、ホント穏やかないい面構えになったなあ、零一は。不器用なあいつの精一杯の感謝の言葉。
俺はちょっとだけ、じ〜んときてしまった。彼女もじっと零一を見つめてる。
「さっ、何か願い事言ってろうそく消せよ。」
「これ以上求むべくもないが、そうだな・・・皆の健康と幸せを心から祈って・・・。」
零一が吹き消した後の一瞬の静寂。
灯りをつけると眩しそうな顔の零一と彼女。
たっぷりとカミュを含んだショコラケーキは、口の中で熔けて極上の余韻を残していく。
「なあ、お前たちいつ結婚すんの?」
さらっと言うと、二人揃ってむせ返っておたおたしている。
カミュの酔いのせいにして、もう少しだけからかうことにしよう。
この微笑ましい二人のことを。
fin.
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コメント欄:
先生!お誕生日おめでとうございます♪
おちゃらけたSSになってしまいましたが、愛だけはてんこもりです〜。
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