「Blue Horizon・V」
午前一時少し過ぎ、最後の客を送り出した後、俺はしばし物思いに耽る。
今日は、なんというか記念すべき日だったなあ。
まさか、あの零一が女連れでこの店に来るなんて。それも生徒?!
あいつはやたら教え子と強調してたけど、嘘をつけ!
ただの教え子と二人だけでドライブには行かないぞ、零一。
ホント、お前は愛すべきやつだなあ。
零一に変化が見られたのはいつの頃からだろう?
去年の今頃・・・そう丁度修学旅行の引率を終えてこの店に顔を出したときくらいからだったかも。
お前には珍しく土産を買ってきた。(定番とも言える八つ橋と絵はがきだったけど。)
何かいいことでもあったか?と訪ねたら少し照れたような顔で首を振ってたなあ。
たまにここで弾くピアノも優しい曲想のものが多かったけど、最近は。
間違いない、断言してもいい。多分零一はあの生徒さんに惹かれているんだと思う。
努めて冷静さを作り出そうとしていたけど、彼女がレモネードを飲んでいるのを見ているときのお前の瞳。
すごく大事なものを慈しむ・・・そんな眼差しだった。
そして多分彼女も零一に好意を寄せているんだろう。同じように優しげな瞳で俺と話す零一を見ていた。
あの二人は自分たちが「恋」と呼べるようなものに囚われてしまったのを気づいているんだろうか。
はあ〜っ、おっといけないため息が出ちまった。シアワセが逃げちゃうじゃないか。
でもなあ、俺の知ってる限り零一って恋に落ちたことあったっけ?
高校時代まではあのルックスに優秀な成績だ、とりあえず女の子の騒ぐ条件は満たしていた。
が!!いかんせん、あいつはあまりにも異性の眼差しというものに対して鈍感すぎた!
俺だったら即、声をかけてお茶のみにでも誘っちゃうところなのに・・・。
プレゼントを貰っても、ラブレターを貰っても我関せず。といった感じ・・・。
なんてもったいないことをしたんだ、おまえはっ!
大学時代は・・どうだったんだろう?一人か二人とはつきあったよなあ、多分。
この年まで女とつきあったことがない、っていうのもちょっとな。
ただ、精神面で零一の良きパートナーとなってくれるような女とは出会ってないんだろう。
あのポーカーフェイスの裏側に、とんでもなく不器用で意固地でどうしようもなく優しい。
そんな零一の本質があるのを見抜ける女。そうはいない筈だ。
願わくは今日の彼女がそうであって欲しい、唐突にそう感じる。
教師と生徒。障害の方が多い恋かもしれない。
そうでなくてもあの零一のことだ、自分の立場、彼女の立場、周りの状況。
頭から湯気を出すくらい悩むんだろうなあ。へたすりゃ自身の想いを封じ込めかねない。
悩んでいい、泣いてもいい、自分の想いを殺すことだけはするなよ。
恋に落ちたら・・・できることなんてなにひとつないんだ。
相手を想う気持ちを、大事にすること以外は。
お前が教え子に恋することでなんか言うヤツがいたら、俺に任せて置けよ。
俺の説教と、あふれるほどここにある酒の数々でKOしてやるさ。
自分の想いに気づいたら、彼女のことだけを考えろ。
今までのお前に欠けていた魂の半身かもしれないぞ。
なんか俺・・・息子の恋を見守るオヤジみたいじゃないか?
まあいいや。今度零一が来たらチキンライスでも作ってやろう。スパイシーなオトナ味のヤツ。
ホントは赤飯炊きたいとこだけど。
俺が知る限りでは初めてのあいつの初恋のために。恋愛の大先輩が腕をふるうぞ。
fin.
★なんか、ウチのマスターさんどんどん保護者化してしまって・・・クールでセクシーなマスターさんは何処?