「Blue Horizon・X」


世の中が正月の準備に追われる頃、やっと俺は仕事が一段落して一息つく。

クリスマス前くらいからもう、忙しくって・・・。
まあ、店が繁盛してくれるのはありがたいことなんだけど、
クリスマスケーキすら食べてないかも。ちょっと寂しいな、お祭り好きの俺としては。

で、今の俺はといえば高校時代の友人を迎える準備をちまちまとしているってわけ。
俺に輪をかけて酒飲みで、零一以上に口うるさいときてる客なんだ。

そいつと俺は、はばたき学園の中等部、高等部で同じ空手部だった。
口うるさい割りには面倒見のいいヤツなので、高三の時には副主将だった。
あ、主将は一応俺ね。一応。
今じゃそいつは実家の家業を手伝って薬屋やって、花の独身貴族様だ。

突然、玄関のドアがドスッと鈍い音を立てて蹴られた。ヤツだ・・・。

「お〜い、開けて〜!両手塞がってるのよ〜!!」

はいはい、只今。ドアを開けると一升瓶やらワインやら四、五本抱えてヤツは立っていた。

「よう、雪乃。あがれよ。」

「あ〜、寒かった。相変わらず無駄に整ってる部屋ねえ。あんまりマメすぎても
 女、よってこないんじゃない?いい匂いね、何作ってんの?」

「マメじゃなきゃ、こんな大酒のみの大メシ喰らいの為に料理なんかしねーよ。
 お前こそもう少しネコかぶんないと男がよってこないんじゃないのか?」

「口うるさい男はもっともてないわよ。」

という、返事と同時に膝下にシュッと音が出そうな勢いで回し蹴りが飛んできてピタリと止まる。

そう、コイツが俺のもう一人の悪友の東雲 雪乃。
しとやかそうなのは名前だけだとからかって、何度痛い目にあったことか・・・。

「さ、飲むぞー。悠介、グラス、グラス。」

勝手知ったる、といった感じでキッチンに入っていく。
オーブンをのぞき込んだ雪乃が歓声を上げた。

「きゃ〜、ローストターキーだ〜。ねえ、お蕎麦は?オードブルは?」

「冷蔵庫の中でございます、女王様。」

いつも年の瀬になると、ふらっとやってくる。
店には滅多に来ない。彼女の言葉を借りれば便りのないのが元気な証拠なんだとか。
お互いに相手がいるときは別だけど、ここ二、三年は毎年だ。

部活をやってたときも大晦日は稽古納めと称して、みんなでぎゃーぎゃーやってたから、
その名残なのかもしれない。雪乃が大晦日にひょっこり顔を見せるのは。

ワインで乾杯しながら、あれやこれやと一年にあったことを話す。
端から見れば恋人、という風に見えなくもないだろうが、何せ学生時代に汗まみれ、鼻血、
捻挫、骨折・・・という修羅場をくぐり抜けてきた相手だけに色っぽい雰囲気には縁遠い。
戦友、という呼び方がしっくりくるようなそんな女だ。

「そういえばさあ、メガネ君元気?」

「メガネ君?誰だ、それ。」

「あんたといっつもつるんでた、こう、ひょろ〜っとしたもやしっ子みたいな
 目だけ鋭いのがいたでしょう?女子に結構人気のあったヤツ。」

「ああ、零一な。氷室だろ。俺とは違っていたってまじめに教師してるぜ。はば学で。」

「へえ〜、教師ねえ。馬鹿な学生だったのはついこの前みたいな気がするのに・・・。
 もう、教える立場の年になっちゃってるのねえ。私も年取ったわあ。」

「どうした、いきなり。雪乃らしくない気弱さだな。」

「私、従姉妹がはば学にいるんだけど、その子受験なのよね、今年。
 私と同じ大学に行きたいっていうからアドバイスしてんだけど・・・けど・・・。」

「けどなんだよ。」

「その子、恋してるみたいなの、担任に。でね、見せてもらった写真がさあ、どうも
 メガネ君に似てるからさあ。あんた何か知らないかと思って。彼の女関係とか。」

俺は思わず口に含んだ酒を吹きそうになった。
零一がクリスマスに可愛い女生徒を俺の店に連れてきたのがつい数日前の事だったからだ。

「お、女ねえ。いる・・のかなあ?あははは・・。あは・・いでででっ!!」

「奥歯に物が挟まったようないいかたするんじゃない!悠介っ!」

頬をつねり上げられて思わず悲鳴を上げる。相変わらず乱暴な・・・。(泣)
恋人・・・未満だとは思うが(零一はかたくなに否定するだろうが)・・・どうだろう。
その生徒さんを見る零一の目がすごく優しそうだったのが印象に残ってるんだけど。

「誰かいるのね?」

「つき合ってる女ってのはいないと思うけど、好きな女・・・はいるかもよ。」

「はあ〜、そうよねえ。いい年の男が女の影ないわけないわよねえ。
 ああ、あの子の泣き顔見るの苦手だわあ。先生に恋するのって実らないことの方が多いよね。」

「そうだなあ・・・。雪乃の従姉妹なら応援してやりたいけどなあ。」

二人の間に沈黙が漂う。

「飲むか?」

「飲もう!・・・あ、悠介お蕎麦ゆでてよ。お蕎麦!」

「了解!あ、零一くるかもよ。元旦の夜には。」

「酔って絡みそうだから、早々に退散するわ。」

「どうだか・・・。去年だってガーガー寝こけてただろ。二人で。」

「ホントねえ、あ、日付変わったよ。あけましておめでとう、悠介。」

「おめでとう、雪乃。今年は嫁に行けるといいな。」

「この・・・憎まれ口をなんとかしなさいねっ!!今年は!」

一年なんてあっという間だなあ。今年は、どんな年になるんだろう。
俺も、雪乃も、零一も・・・。
空になった瓶につまずきそうになりながらキッチンへと向かう。
ほろ酔い気分で少し頬が熱い。

「いい年に・・・なるといいな。」

小さくつぶやいて湯を沸かし始める。
蕎麦は堅めがいいんだからね、という雪乃の声を背に受けながら。





fin.


★スミマセン、以前出てきた主人公ちゃんの従姉妹のお姉さん再登場です。
まだ先生のお相手が自分の従姉妹だと気づかないお姉さん、先生に会ったら絡むかな、やはり。