「Blue Horizon」
「おーい零一!」という声が聞こえたかと思うといきなり後頭部をどつかれた。
「・・・何だ?」
「何だ、じゃないだろ。もう進路も推薦で決定してんのにな〜んで小難しい顔して本読んでんだよ。」
「やっと自分の好きな本読む時間が取れたんだ。少し静かにしろよ。」
「お〜こわ。あっ今日さ、お前ヒマ?」
「特に予定はないが。」
「じゃ、おれんち来いよ。新しいカクテルのレシピ考えたんだ♪試飲しろよ、なっ?」
まったく・・・こいつは何考えてるんだろう。小学校から一緒のいわば腐れ縁ってやつだけど、
本気で勉強すれば俺も及ばないくらいの頭を持ってるくせに、N.Yに行ってバーテンダースクールに
入るのだという。英会話も独学で日常会話くらいはマスターしてしまった。
「断る!!この前もお前、ノンアルコールだっていって俺に勧めたヤツ。あれ、思いっきりキツかったぞ!未成年が酒なんて・・・」
「まーまー、カタイことゆーなよ。先公みたいだぜ。いいじゃん、お前優雅な独り暮らしなんだし。誰も怒らないだろ?」
「そういう問題じゃないだろう!確かに俺の家は両親とも海外に行ってることが多いけど・・・」
「だろ?なあ、俺もうすぐ日本からいなくなっちゃうんだからさー、少しはバカやってあそぼーぜ。」
「・・・」
寂しくないと言ったら嘘になる。こいつの前だと俺はずいぶんと気持ちが楽になる。
俺とは違うものの見方に感心させられたり、励まされたりすることも多かった。
「俺さー、帰国したら金貯めて小さなバー開くの夢なんだ。で、ピアノ置くの。どーんと。」
「ふーん、何でピアノなんだよ?」
「何でって、お前が弾くため。」
「だからどーして俺がお前の店でピアノ弾かなくちゃいけないんだよっ?」
「だってお前さあ、ピアノ弾いてるとき、すっごく柔らかくていい顔してるぜ。こう、なんか解放されてるっていうか。」
「・・・?」
「きっとお前ってさ、大学行ったって社会に出たって、他人に対しちゃどーせヨロイ着たみたいにガチーンとしてると思うわけ。
そういうのに疲れたら、俺の店に来て好きな酒飲んで、さらっとピアノ弾けばいいじゃん。
お前はリラックスする、客は喜ぶ、俺はピアニストを雇うための人件費が節約できる。
いいことずくめだろ!なっ?ああ、俺って経営の才能あるなあ。」
思わず苦笑する。そうだな、こいつの開く店なら客はリラックスして楽しめるような気がする。
きっと、客一人一人にピッタリ合った上等のカクテルを作れるようなバーテンダーになるんだろう。
「わかったわかった、弾いてやる。そのかわり時給もらうからな。」
結局いつもこいつのペースに巻き込まれるんだ。
「なあ、来年か再来年からうちの制服変わるの知ってるか?」
「知らん。」
「今の理事長、引退して息子に引き継ぐらしいぜ。で、そいつ若くて理想に燃えてるみたいでさ、
ありきたりの学ランとセーラー服から脱却すんだって。で、そのデザインをダチの花椿とかいうデザイナーに頼んだんだって。
知らないよなあ?そんな名前。」
「何でお前そんなに詳しいんだ?」
「は?この前さ、学園のバラ園でゴソゴソやってる怪しいやつがいたから声かけたら自分で名乗ったぜ。
で、ジェントルマンとレディを輩出したい!とかやたらアツく語るんだよ。だから俺も自分の夢を語ってやったらさあ、
ひどく感動してくれちゃって名刺くれた。店を出すときは是非力になりたい!とかいってさあ。」
「・・・お前、どんな夢だって言った?」
「ジェントルマンとレディが集う、シックでハイソサエティな雰囲気が漂う、心癒される都会のオアシスの様なピアノバー!!」
(お前・・・すっごい大風呂敷・・・)
「さっ、行こうぜ。零一。卒業式に奪われるボタンの数、今度こそお前に負けねーぞ。中等部の時は完敗だったもんなー。」
「何でボタンなんかが欲しいのか、俺にはさっぱりわからん。」
あいつはまた、思いっきり俺の頭をどつきながら笑った。
「バーカ、そういう繊細な女の子の気持ちがわかんねーと彼女なんかできねーぞ。」
「うるさい!よけいなお世話だ!」
制服を脱ぎ捨てて、俺たちは一つ大人に近づく。
いつかこんな、何でもないバカ話を交わしていた頃を、懐かしく思い出す日がくるんだろうか。
fin.
★すみません、まったく主人公ちゃん出てきません。
雨宮様のサイトにアップされていた「学ラン姿の先生」に妄想が爆発して書いてみました。
マスターさんと先生の高校時代みたいな?