「Hot Wine」
外から自分の部屋を眺めたとき、灯りがともっているということが
こんなにも心を浮き立たせるものだということを彼女とつきあい始めてから初めて知った。
今日はハロウィン。二人だけでパーティーをしましょうね、という彼女の提案に賛成した私は
そそくさと、しかし表面上は冷静さを失わずに仕事を片づけて帰宅した。
ドアを開けると暖かな空気と甘い香りが漂い出す。
そして、テーブルの上には多分彼女がこしらえたであろう少しいびつな表情のかぼちゃのランタン。
その滑稽で愛らしい顔がどことなく彼女に似ているようで頬が緩む。
「・・・?」彼女の姿が見えない。
キッチンに入るとサイドテーブルの上にはほのかに暖かいパンプキンパイが焼き上がっており、
オーブンの中にはラムレッグのローストが肉汁を落ち着かせてロゼ色に仕上げるために休んでいた。
ドアを開けたときの香りは、このパイのバターとシナモンの香りだったのだろう。
しかし彼女はいない。
急いでバスルームやピアノをおいてある部屋、寝室、と探すがいない。
念の為に覗いたクローゼットの中にもいない。
「出てきなさい。」
返事がない・・・。何か買い忘れたものでもあったのだろうと一人頷いてキッチンに入る。
十月も終わりで風は冷たいというのにどこまで出かけたのだろう?
小さなホーローの鍋を出し、赤ワイン、クローブ、シナモンを入れ火に掛けた。
戻ってきたときには体が冷え切っているだろう彼女に飲ませるために。
沸騰直前で火から下ろし、レモンのスライスと蜂蜜を加えるとワインの香気が立ち上る。
あれから十五分は経過しただろうか。
未だ帰ってくる様子がないことに少々不安を覚えベランダに向かった。
空には美しい銀色の三日月がごく薄い雲を纏って細く輝いている。
ベランダから通りを見下ろそうと足を踏み出した瞬間、黒い影が動いて私の眼前に躍り出た。
「Trick or Treat!!」
突然のことに声も出ないほど驚いている私の胸に飛び込んできたのは彼女だった。
「き、君はいったいいつからここにいたんだ?」
「え〜と、零一さんが帰ってくる5分くらい前かな?」
くしゅっ、と小さく彼女がくしゃみをする。
「全く君は・・・。」腕の中の彼女をそのまま抱き上げてリビングへ戻った。
よく見ると、黒いサテンのマントを身に纏い口元には小さな八重歯のようなものが覗いている。
「私がいつまでもベランダに出て行かなかったらどうするつもりだったんだ。
手もこんなに冷たくなってしまって・・・。風邪をひくだろう。それにその格好は・・・。」
「だって、零一さんのこと驚かせてみたかったんです。いつも冷静な顔ばかりだし〜。
月が凄く綺麗だったから、絶対ベランダには来るだろうなって思ったし・・・。
あの、あの怒ってます?ごめんなさい、えと衣装は一応吸血鬼のつもりで・・・」
腕の中でそう、訴える彼女があまりにも可愛らしくて思わずくっくっと笑いがこみあげる。
「私が冷静?君はまだわからないのか。君が笑ったり、すねたり、泣いたりするたびに
私がどんなにどぎまぎしているか・・・。それにこんな小さな牙では血は吸えないだろう?」
囁く私の声に真っ赤になってしまった君をソファーに降ろし、キッチンからホットワインを運ぶ。
「飲みなさい、暖まるから。」
君は素直にカップを受け取り、フーフーと子供のように冷ましている。
「ずいぶんと猫舌の吸血鬼だ・・・。」
私は一口ワインを口に含み、そっと口移しに彼女に与えた。
「・・!?」
君は目をまん丸に見開き、さらに紅くなった頬で私を見つめている。
「なっ、びっくりするじゃないですか〜。突然、こんな・・・。」
「Trick or Treat・・とさっき君は言ったろう?あいにくお菓子は用意していなかったので、その代わりだ。」
「さあ、食事にしよう。ラムも良い具合に仕上がっただろうから・・・。」
愛しい彼女と、暖かい料理、心まで甘くするようなホットワイン。
ハロウィンの夜も捨てたもんじゃない・・。そう心でつぶやいてもう一度彼女にキスをした。
fin.
★え〜、この作品は素敵企画サイト「LOVE&DRIVE」様に投稿させて頂きました。
イラストありSSありの、先生&主人公ちゃんのバカップル推奨委員会で運営されております。
ちなみにワタクシは平会員No.4でございます。皆様も是非一度足をお運びくださいませ!!