「Lullaby」

暖かい暖炉の前で、僕はお父さんの膝の上でぼんやりと火を眺めていた。

大きな手のひらで僕を抱き、優しく静かに揺すってくれている。

お父さんがよく聴いている音楽の・・・そうあのチェロという名前の楽器。

その楽器によく似た低いけれども深く暖かい声で子守歌を歌いながら。

指をそっと伸ばしてほっぺたを触ってみる。お耳も、お口も、お鼻も・・・。

メガネに手をかけようとすると、微笑んで僕を見ながら「こらこら・・。」と言う。

お母さんがいつも大好きだって言ってる、お父さんのおめめが見たいのになぁ。

僕は体を起こして、お父さんの胸に耳を当てた。

トクン、トクン、トクンと音がする。

「お父さんの中には、時計が入っているの?」

そう、僕が尋ねるとお父さんは僕の髪をゆっくりと撫でながらこう言った。

「そうだよ、心臓という名の時計だ。私にも、お前にも、母さんにも、この世の中に

 生きている全てのものが持っている、大事な時計だ。」

「お父さん、僕ね、もっともっと今よりもずっと小さくて赤ちゃんだった頃、

 とても静かな暖かいところでこの音を聴いていたような気がするの。

 そこは、僕しかいないようだったけどちっとも寂しくなかった。」

お父さんは少し驚いたように僕を見て、膝の上の僕をぎゅっと抱きしめた。

「そうか、それは、多分・・・母さんのおなかの中だったかも知れないね。
 
 お前の時計の音と、母さんの時計の音・・・。それから・・・。」

「母さんを抱きしめてくれていた、お父さんの時計の音ね。」

ふんわりしたいい匂いが僕たちを包む。お母さんだ・・・。

お母さんは、僕のおでことお父さんのほっぺに優しくキスをしてくれた。

「僕も、ここに。」そう言ってほっぺを指させば、くすっと笑ってもう一度キスしてくれた。

「欲張りだな・・・。」低く笑って今度はお父さんが、お母さんを引き寄せてキスをした。

ずるいなあ。お父さんにキスされるといつでもお母さんは恥ずかしそうに赤くなっちゃう。

僕がキスしても、お母さんにこにこするだけなのに。

「もう・・・。あなたったら・・・。」ほらね、真っ赤になっちゃった。

「お誕生日のケーキも出来たわ。早くキッチンへいらっしゃいね。」

そう、僕は今日六歳になる。

多分今日のごちそうは、ベーコンのキッシュとオニオンのスープ、こんがり焼けたローストチキン。

僕とお父さんが大好きな、ふるふるとやわらかいグレープフルーツのゼリー。

そして、苺がた〜くさんのったバースデーケーキ。

「お父さん、だっこしたままがいい。」そう、おねだりしてみた。

「甘えん坊もいい加減にしないと、赤ちゃんに笑われてしまうな。」

「え〜っ!赤ちゃんって、僕に妹か弟が出来るの?」

「そうだよ、来年の櫻が咲く頃にはもう一人家族が増えるんだ。お兄ちゃんだよ、お前も。」

「じゃあ、僕ね、赤ちゃんが寂しくないように、いっぱいお母さんをだっこする。お父さんもだよ?

 お父さんと、僕と、お母さんのと三つも時計の音が聞こえたら赤ちゃんきっと喜ぶよ。」

そうだな・・・。と言ってお父さんは僕をだっこしたまま椅子から立ち上がった。

「重く、なったな。」

じっと僕を見つめてお父さんは言う。

「生まれたときは、手も足もあんなにちいちゃかったのにな。」

「お父さん、僕が生まれて嬉しかった?」

「嬉しかったよ、お父さんの宝物が二つに増えたから。」

「二つ?」

「お母さんとお前と二つだよ。」

僕はなんだかすごく暖かい気持ちになって、ほっぺをすりすりしてあげた。

キッチンからはいい匂いと、お母さんの歌声。ハッピーバースデイを歌っている。

「お父さん・・・。」

「なんだ?」

「一口だけ、今日はシャンパン飲ませて。僕、お兄ちゃんになるんでしょう?」

コツンと、頭を小突いてお父さんが笑った。

「今日だけ、一口だけだぞ。・・・お母さんには内緒だぞ。」

わかってるよ、もちろん。男同士の約束ね?

そのかわり、ケーキの苺ひとつだけあげるね。

お父さん、お母さん、今日は一緒にお手手つないで寝よう。

世界で一番大好きだよ。




fin.