『ゴールの向こう』



「よっ!お姉さん、今帰り?」驚いて振り返ると奈津美がニコニコしながら立っていた。
「うん、大変だね、体育祭の実行委員。いろいろ新しいこと企画してるんでしょ?」
もうすぐ体育祭。大きなイベントを前に学校中が盛り上がっている。まして今年の実行委員はお祭り女の異名をとる奈津美だ。
「まかしといてよ!でもって今度こそヒムロッチの顔色を、、、」
「や、やめなよ。」「アハハー、その顔!やっぱり好きな人の困ってる顔は見たくないとか?」
(もう、なんでもお見通しなんだから、、、)
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が担任の氷室に惹かれ始めている事は、彼女の友人達四人はとっくに気づいている。
自分たちにもそれぞれ片想いの相手がいるが、一番ハードルが高そうなのはの恋だということも。

体育祭当日は例年にない熱気だ。それというのも奈津美が天之橋理事長に掛け合って、
学年優勝の各クラスには夏休みに理事長の海辺のリゾートヴィラを一週間ずつ開放する!
という破格の賞品をつけたからだろう。

は自分がエントリーしている借り物競走の時間が近づいてくるにつれ、憂鬱になっていった。
(先生のためにも、勝ちたいな。でもはっきりいって、苦手だよ〜走るの、、、くじ運も昔からイマイチだし、、)

、」氷室の声にはじかれたように顔をあげる。
「はっ、はい?」
「もっとリラックスしなさい。そのように緊張して顔までこわばっていたら持てる力の半分も発揮できない。
紺野や藤井につきあってもらって、放課後ずいぶん走り込んでいたろう?」
「先生、、見ていてくれたんですか?」
「コホン、あー努力をおしまない生徒にきづかないわけがない。さあ、いきなさい。もうすぐだろう?」

パンッという小気味よいスターターの音とともに飛び出したが、借り物名が書いてあるカードのところについたのは最後だった。
おまけに、、、カードがない!?一瞬固まったのところに奈津美が飛んできた。
「ごっめ〜ん!一枚少なく置いちゃった。アンタのこれね、はい!あたしの特製。ほらっいけっ!!」
慌ててカードを裏返すとそこには、まぎれもない奈津美の手書きで「氷室 零一」、、、の文字。
(ひ〜何これ〜でもっ、でも早くしないと、、、)トラックを見渡すと幸い一緒にスタートした生徒達もまだ生徒席をうろうろしている。
意を決したが「先生!!早くっ私の借り物、氷室先生なんです!お願いします!!」と叫ぶと氷室はスーツの上着を放り投げ、ネクタイをゆるめながら飛んできて、の手を取り走り出した。「行くぞ、

生徒席や職員席からも、ものすごい歓声が沸き上がる。
(このまま、、時間が止まっちゃえばいいのに、このまま、、ずっと、、、)
そう、ぼんやり考えた瞬間二人はテープを切った。勢い余って前のめりに倒れそうになるを、氷室が抱きとめた。
「よく、やったな、、。こんなに全力疾走したのは、、久しぶりだ。実に爽快な気分だ。」
(えっ?あれ、先生、今私の名前を??)うれしさと恥ずかしさで、耳まで真っ赤になっているの頭をくしゃくしゃっとなでて氷室は職員席に戻っていった。

(へへっ、今回はアタシの勝ちだねヒムロッチ。センセーも充分赤くなってるよ、か・お!)
そんな奈津美のつぶやきを、背に受けながら、、、

fin,