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12月1日(Tue) AM 8:00 「あと1週間しかないね。はぁ、憂鬱だなぁ。」 隣で璃乃がわけのわからない愚痴をこぼしている。 朝からこいつは何を考えているのやら..。 「霞瑞はどうするの?」 「なにが?」 「あと1週間でどうにもならないよねぇ。」 俺の質問なぞどこ吹く風。(質問にぐらい答えてくれ。) 「だ・か・ら・何が?何があと1週間なんだ?」 「もしかして霞瑞...本気で言ってるの?」 璃乃が「あきれた」的な顔でこっちを見る。 「はぁ、本気も何も、何が何だか。」 「期末よ。期末。」 「ああ、そうだな。もう2学期も終わりそうだが.. まだちょっと早いだろ?」 「もう、何が付いてくる?」 璃乃の少し起こったような口調。 だが分からないものはしかたがない。適当に言ってみた。 「うー、冬休み。」 璃乃は既にあきれきった顔になっている。なんでだ。 「もういいよ。霞瑞に聞いたのが間違ってた。」 「本気でわかんないんですけど。」 璃乃がこっちにふりむく。顔が怖い。 「期末よ。き・ま・つ・テ・ス・ト!わかった?」 「うっ...そういえば...。」 (そんなものもあったような....。) 「とかなんとか言っちゃって、じつはやってるんでしょ?勉強。」 「それなら苦労しねーよ。」 明るかった璃乃の顔がもとにもどる。 「やっぱりか..。そうだよね..。霞瑞だもんね。」 少しだけぴくっときた。 (ほんとに憂鬱そうな顔しやがって..。 そうかテストか..。これは大問題だな...。) やり切れない思いを乗せ、電車は天川駅へと入っていった 外の天気は今日もまた晴れだった。 冬の青空は他の季節よりも気持ち良く感じる。 空気が冷たいせいだろうか? 既に先ほどの嫌なことも忘れてしまいそうだ。 「運動会でも開きたくなるな...。」 俺がささやかな思いを口にしたとたん... 「くだらないこと言ってないで、ほら、行くよ。」 冷たくかき消されてしまった。 璃乃が一人歩いていく。 それについて行くように歩き出した。 また取り留めもない会話。 今日もまた、いつもの「日常」だと思っていたのだが、 「おはよう。」後ろから声をかけられた。 その聞き覚えのある声に少し緊張して振り向く。 「ああ、月下...おはよう。」 そのあいさつに何度か聞き覚えのある言葉を月下は返してきた。 「朝から暗いんだね。ああ、璃乃ちゃん、おはよ。」 「うん。音色ちゃん、おはよ。」 (あれ?予想外の展開。) 「どうしたの?霞瑞。」 璃乃がこっちを見てたずねる。 「あ、いや、知り合いなんだな..。」 疑問に答えたのは璃乃だった。 「うん。去年クラスがいっしょだったんだ。ね。」 「うん。そうなの。」 「そうだったのか..。」 全然知らなかった。 そういえば秋斗もたしか..。 ということは璃乃と秋斗は去年のクラスメートか...。 まぁどうでもいいけどな...。 「3人で学校までいこ。」 「うん。ほら、成瀬君も。早く。」 「ああ..。」 3人...か。何か懐かしいような..。 そう思った瞬間、空を見上げていた。 色々な想いがこみあげてくるのに、耐えるために。 見上げた空の先。 そこには....雲一つなかった。 今日もまた終わる。既に下校時刻。 このごろ1日が早く感じる。 何かしらの理由があるのだろうが。 考えてもわかるはずがないのだ...。 昇降口。赤い光が下駄箱までも差し込んですべての色を統一する。 そんな中、俺は壁にもたれて立っていた。理由は一つ。 人を待っているのだ。 それは、さかのぼること40分ほど前.... 「成瀬君さぁ..ほんとに退屈じゃない?」 休憩中の月下が尋ねてきた。 「ああ、どうして?」 「だって、昨日も来てたし..。」 「迷惑かな?」 「迷惑って言うか..つき合ってくれるのは嬉しいんだけど..。」 月下は少しうつむいて言った。 「けど?」「何か悪いような気がして..。」 こっちを横目でみている。何とも申し訳なさそうだ。 「気にし過ぎだって。ピアノが好きだから来てるんだ。」 「そうなの?弾ける?」 少し月下の顔が明るくなった。 「少しはね。でも、聞いてる方が性に合ってるみたい。」 「そっか。うん、ならいいや。」 そう言うと、月下はまた弾き始める。 昨日と同じ感覚。月下もその中に浸っているみたいだ。 (月下...音色か...。) だが考え事をしている暇などなかった。 また、俺は...。 「あ、まただ。ほら、起きて。」 「うん?あ、ああ、ごめん。」 やっぱり寝てしまった。 「練習は?」「うーん..もう終わろっかな?」 「えっとさぁ..。」 「?」月下は首を少しひねる。 俺が次の言葉を口にするまでたっぷり3秒ほどかかった。 「一緒に帰らないかな?と思って..。」 (何言ってるんだ?そんなの聞くまでもないだろ?) 「いいよ。一緒に帰ろ。」 「え?」(OK?!予想外だ。) 「じゃあさ、下駄箱で待ってて。片づけたら行くから。」 「ああ、わかった。」 そして一人音楽室をあとにする。 と、いうわけだ。 そんなことを考えていたら...。 「お・ま・た・せ。」 月下が駆け足でやってきた。 「ああ、じゃあ...行こっか。」 「うん。」少しだけ笑って月下がうなづく。 二人並んで学校を後にした。 璃乃以外の娘と一緒に帰るなんて、いつからしてないだろう。 「成瀬君と帰るの、初めてだね。」月下が先に口を開いた。 「そうだね。」 「何か新鮮だなぁ。」「うん。」 (何を緊張しているのだろう..。俺ってこんなに純情だったのか?) 我ながら恥ずかしくなってしまう。 「どうかしたの?」 「あ、いや,..。」 「なに?照れくさいとか?自分から誘っておいて。」 月下はこっちを見て少し笑う。 わざと意地悪に言っているみたいだ。 「そういうわけじゃないけど..。」 「ふふ、冗談よ、冗談。」 冗談か..。あながち冗談でもないな..。 「このごろ寒いね。」 「ああ、もう12月だもんな。」 「ねぇ、冬って、好き?」 「ん?ああ、そうだな、好きだよ。」 「私も。私って、私が生まれた年の最後の雪の夜に生まれたんだって。」 「へぇ、でいつなの?」 「2月19日。」 「そうか、もう少し先だな。」 そう言うと、月下は、空の方を向いて言った。 「そうだね。その前にクリスマスだね。」 「クリスマス..か..。」 「クリスマスがどうかしたの?」 「え、いや、楽しみだなって。」 「うん。すっごく楽しみ。今年も楽しいといいなぁ。」 少しだけ、昔を思い出した。 見上げた空の先。 そこには、少し欠けた月が輝いている。 いつも月はそこにあった。 今日も昨日もあの日もあの時でさえ。 「月、きれいだね。」 「ああ、そうだな..。」 一瞬、一瞬だけ、名前を呼びそうになった。 とても彼女なしゃべり方だったから。 あの柔らかなアルトの...。 そう聞こえただけかもしれないが..。 とにかく、彼女の名前を呼びたかった。 12月3日(Thu) AM 8:05 「あと4日だね。霞瑞、どうしよう?。」 横で璃乃が騒いでいる。 電車の規則的な揺れにうとうとしていた俺の意識はまた戻ってきた。 「今更どうしようもないだろ?」 「そんなこと言ってたってぇ..。」 この2・3日こんな会話ばかりだ。 「霞瑞はさぁ、最初から諦めてるからそんなこと言えるんだよ。」 「う...。」 何とも言い返せない。 「ちゃんとやらないとだめだよ。すこしでも、ね。」 「おまえもな。」 少しぶっきらぼうに答える。 「分かってるよぉ。」 少しふくれぎみに璃乃は窓の方を向く。 ちょっとその横顔が切なそうだ。 その唇が突然動いて、こう言ったのだった。 「..今日も...寒いね。」 電車を降りる。また学校まで歩くのだ。 今日もまた月下がやってきた。 「お・は・よ。」 「ああ...、おはよう..。」 「また今日も朝から暗いね。どうかしたの?」 いつもと変わらぬ屈託のない笑顔で尋ねる。 「朝からテストテストって聞いてしまったからな。」 「聞いてしまった。ってもうみんなとっくに知ってるよ。」 驚きとあきれの顔で彼女が答えた。 「そうだろうな。」 「いつ知ったの?今日じゃないよね?」 月下がのぞき込むようにしている。 本気で心配してくれているようだ。 「2・3日前...。」 「...。成瀬君...今からがんばるの?」 「いや、腹をくくるよ。」 「もうダメだね。」 はぁ〜、というポーズを月下はとって見せる。 「璃乃にもそう言われたよ。」 「あ、そういえば璃乃ちゃんは?」 あれ?璃乃がいない。 電車には一緒に乗ったはず..。 って、そんなの確認するまでもない。 そうだ、降りてすぐに「図書館に行くから。」 とか言って走ってったっけ。 「図書館へ行くんだとよ。」 「そっか、じゃあいっしょに行こ。」 「ああ。」 また始まるのだ。 この空の下「今日」が...。 昼休み。 目の前は秋斗。 雑誌を読みながら弁当を食っている。 「なぁ、秋斗。」「あん?」 雑誌から目をはずしこっちを向く。 「テスト。なんかやってるのか?」 「ふっ、霞瑞。俺を誰だと思っているんだ?」 髪をかき上げていかにもなポーズを取って見せる秋斗。 「そうだよなぁ、ふつう..。」 「やってない。まったく。これっぽっちも。」 と言って、指と指で小さい間を作って目の高さまで持ち上げて見せる。 こいつは....。 「はぁ...、おまえに聞いたのが間違いだった。」 「そういうこった。」 「.....。」 「おまえはどうなんだよ?」 「このごろ知ったばっかりさ。」 「霞瑞に言われたかねえな。」 「う...。」 一通りの会話が終わるとまた秋斗は雑誌を読み始める。 どうしたものかな...。 窓の外は飽きもせず蒼く光っている。 いやになるほどに....。 下校中。またとなりは月下。 音楽室に行ってまたいつも通り。 いつもといっても、一緒に帰ったのは一昨日、昨日の2日だけ。 今日で3日目。 日常なんて、こうやって「いつも」になっていくんだろうな。 「なぁ、月下。」「ん?なに?」 こっちをふりむく。 少しだけ照れてしまって前を向いて言った。 「月下はさぁ、テスト勉強してる?」 「うん。月並みにはね。」 「そうだよなぁ。」 「今からがんばれば、なんとでもなるよ。」 元気づけるような口調で月下が言った。 それなりに気を使ってくれているのだ。 「そうなのかなぁ。...ところで、勉強って得意?」 「ん?うーん..まぁまぁ..かな?」 少し微妙な表情だ。 本当にまぁまぁ、なのだろう。 「はぁ、どうしようかな。」 「何度も言ってるけど、がんばるのみよ。」 「やっぱりか..。」 予想通りの答えに少しがっかりする。 何を期待していたわけではないが..。 冬の風の吹く中、2人で歩いていった。 部屋に入って机に向かう。 いつもきれいにしているから、もとい、 全然使っていないから、机のあたりはとてもきれいだ。 それに、いきなり勉強する気が起こるはずもない。 (でもやらなきゃなんないんだよなぁ...。) とりあえず数学でも..と思ってカバンに手を入れる。 何にもぶつからない。やけに軽い。 「....教科書ねぇじゃん。」 しまった。学校の机の中だ。 いきなりやる気が失せてしまった。もともとそれほどないが...。 「寝よっと。」テストは7日から。 もう日はほとんど残っていなかった。 * * * 暑い...。 はっきり言って限りなく...。 駅前の木の下、陽射しが遮られているだけましだな...。 (しかし..待ち合わせ5分前..俺にしては早く来たものだ..。) そのせいでこんな思いをしているわけだが...。 今日は桧弓とのデートなのだ。 1週間ほど前、桧弓の方から誘ってきた。 夏休みだから断る理由もなく、そのままOKしたのだ。 ....。 待ち合わせ10分過ぎ..。 「おかしいな....。」 桧弓はまだ来ない。 太陽はひっこむことを知らず、どんどんと光を強めている気がする。 (迎えに行くか...。) そう思って立ち上がろうとした、そのとき.... 「ごめんなさい!はぁ、はぁ..待った?待ったよね。」 駆け足で桧弓がやってきた。 肩で息をして、ひざに手をついて顔だけを上向けている。 「ごめんね。服選ぶのに、なかなか決まんなくって..。」 少しだけはにかんでこっちを見ている。 「もういいって。事故とかじゃなかったんだからさ。」 「うん。ありがと。」 今日の桧弓は、赤いチェックのシャツを肩から切ったような服と、 ひざまでの薄い青のスカートだ。 俺が見ているのに気づいたようだ。 「?...私..変かな?」 「あ、いや、すごく似合ってるなと思って。」 なんて月並みな表現だ。 自分でも国語力がないのを恨みたくなる...。 でも桧弓は... 「ありがと。そう言ってもらえるの、すごくうれしい。」 こういう娘なのだ。 純粋に受け止めてくれる。受け止めてほしい所だけ..。 「さ、行こう。」 そう言って、桧弓が俺の手をとって駆け出す。 そんな何気ない行動にどきどきしてやまなかった。 夏の日差しが暑い...ってさっきから何度目だろうか。 浜辺に反射して、まぶしさも倍増している。 「気持ちいい。晴れてよかった。」 桧弓が俺に言っているのか、空に言っているのか、 そんな口調でつぶやく。 空から目を離し、まぶしさに閉じていた目を開きながら俺に言った。 「さぁ、泳ごうよ。早く。」 そう...海に来ているのだった。 「ああ。」 (海に前に来たのはいつだったかな?せっかく来たのだ。楽しみたい。) しかし、あたりまえだが..桧弓が水着なので目のやり場に困る。 それほど露出度が高いわけではないのだが...。 「何してるの?泳ご。」 不思議そうに桧弓が尋ねる。 彼女はこういう所に鈍感なのだ。 「ああ。」(できる限り見ないように...。) そう心に決めて、夏の海を楽しんだ。 「楽しかったね。」 「ああ、この夏一番の思い出だな..。」 「ふふ、そうだね。」 電車を待つホーム。 既に夏の太陽は役割を変え、空を赤く染めている。 日焼けした肌がシャツとすれて痛かった。 「オイル、もってくればよかった...。」 俺が誰にも聞こえないような声でつぶやく。 だが桧弓には聞こえていた。 「私の貸してあげる、っていったのに..。」 「うーん、それはちょっと..。」「変なの。」 今日行ったのは特に有名な浜辺ではない。 いわゆる、穴場、というやつだ。 だから、二人しかいなかった。 つまり、桧弓に俺がオイルをぬってあげたわけだが..。 ぬってもらうなんてとんでもなかった。 ぬってあげるだけでもガチガチになってしまっていたのだから,..。 「本当に楽しかった。」 「俺も..誘ってもらってよかった。」 「でしょ?」 (璃乃以外の娘とどこか行くなんてなかったからな。) 「ねぇ。」「ん?」いつの間にか、桧弓がこっちを向いている。 「霞瑞くんって、夏好き?」 「ああ、うん。そうだな。」 「冬は?」「好きだけど、寒いのはちょっとな...。」 「ふふ、それでさ、私の名前知ってる?」 少し微笑んで彼女が尋ねた。 「...雪音、だろ?」 「そう。その名前ってさ、 雪の降る夜に私が生まれたから付けたんだって。」 「へぇ。」 「その時雪の降る音が聞こえた...ってお母さんが言ってた。」 桧弓は前を向いて遠くを見てしゃべっている。 「なんかいいな。そういうの。」 「でしょ?私もこの名前大好き。」 「で、いつなの?」 「ふふ、聞きたい?」 こっちに向き直した桧弓が いたずら娘っぽい笑みを浮かべながら聞いてきた。 「聞きたい。」 「なんとまぁ。」「なんとまぁ?」 こういうとき、けっこうのりのいい娘だなって思う。 「クリスマス・イブなの。」 「すごくロマンチックだね。」 「私もそう思う。だから、すごく好きなんだ、12月24日。」 桧弓の顔はとても楽しそうだった。 太陽も一日の仕事を終えようとしている。 一通りの会話が終わったので、次の会話を始めようとしたら、 電車がプラットホームへと流れ込んできた。 * * * 12月5日(Sat) AM 11:50 今日は朝起きると既に雨が降っていた。 こんな日は少しだけブルーになる。 そんなにすごい雨ではなく、シトシトと降っていた。 教室からは既に人が減り始めている。 今日は昼までで授業は終わりなのだ。 クラブもテスト前の休みだ。 このごろ行ってないけど。 (秋斗の奴..何も言わなくなったな..。) とりあえず、何をするでもなく、薄暗い空を眺めていた。 「霞瑞。」誰かに呼ばれて振り向こうとする。 (こんなに親しく呼ぶのは...。) 「璃乃、どうし...。」 途中で言葉がとぎれる。 「あ..れ?」目の前にいたのは...、 「どうしたのかなぁ?私が「霞瑞」って呼んじゃダメ?」 月下だった。いたずら娘っぽい笑みを浮かべている。 「あ、いや..そういうわけじゃなくって...。」 「璃乃ちゃんじゃなくて、残念?」 少しだけムキになってしまう所だった。 「バ...そんなんじゃないよ。...今日、練習は?」 「さすがに今日まではできないよ。あと2日だもん。」 「そりゃそうだな..。」 「それと..ね..。」 月下が教室のドアの後ろあたりを見ている。 「?」(まだなにかあるのだろうか?) 「霞瑞。」月下ではない娘に呼ばれた。 教室のドアの横から、璃乃が顔をのぞかせている。 一瞬で全部分かってしまった。 「はぁ...やっぱりな。」 「ふふ、霞瑞、おもしろかった?」 (おもしろかった?だと。そんなことがあるはずもない。) 「べつに..。」 つい、ぶっきらぼうな答え方になってしまった。 「でさ、成瀬君、一緒に帰らないかなぁ、と思って呼びに来たんだ。」 「ああ、構わないけど..。」「じゃあ行こ。」 3人で帰ることになってしまった。 「寒いね。」 「ああ、そのうえに雨だからな。」 「雪にならないかなぁ。」 月下が期待を込めた声で話している。 璃乃はそのとなりで聞いている。 普通の下校風景だった。 だが、雨の中では、いつもと全然違ったように見える。 空も、街も、.....月下も。 何が違うのかはよく分からないのだが。 考え事をしていたら.. 「あっ...。」「ん?」 横で璃乃が感嘆の声を上げているのに気づいた。 その視線の先には... 「...雪だ....。」 「..きれいだね...。」 璃乃も月下も空を見上げている。 空が月下の願いをかなえてくれた。 この白さを見ているとそう思えてくる。 空からシンシンと降る雪...。 そのとき月下が一言だけつぶやいた。 「積もると...いいなぁ。」 夜。珍しく勉強をしていた。 今日は本をもって帰ってきたのだ。 だが....疲れる。 (この問いを解いたら少し休もう...。) .....わからん。 だめだ少し休もう、そう思ってカーテンを開ける。 少し前に雪はやんでいたようだ。 月が...明るい。 そう思ったらコートをつかんで外にでていた。 雪は少し積もっていた。 銀世界とまではいかないが、いつもよりずっと白い。 月の光が雪で反射し、銀色に光っている。 (きれいだ...。) 月は半月よりもかなり欠けている。 あと5日前後で新月だ。 月のせいであまり星は見えないが、それでも十分だった。 風もなく、雲の間から光る月...。 雪を踏むと、少し変わった感触が何ともいえず、 すべて忘れられるような気がした。 ガチャ...。 扉の開く音が聞こえた。 すぐ振り向いた先には... 「やっぱりね。」璃乃が立っていた。 「何が、やっぱりなんだよ?」 「霞瑞じゃないかなっておもったんだ。 何となくさ、幼なじみだからわかるんだよね。」 「はぁ..まぁいいか。...こっちこいよ。すごく綺麗だからさ。」 「うん。」小走りで門をでる。 「こけるなよ...。」 「きゃっ。」遅かった、思いっきり転んでいる。 「えへへ、大丈夫だよ。」「だろうな。」 「うー、もう少し優しくできないの?」 「...はぁ...。」璃乃も月を見上げる。 「なんて...。」「ん?」 「なんて、贅沢な景色なの...。何にもいらなくなるよ...。」 「ああ、その通りだな..。」 「.....。」「.....。」 「ねぇ、霞瑞。」 いつの間にか、璃乃は少しうつむいている。 その表情を読み取ることができない。 「なんだ?」「霞瑞ってさぁ....。」 「ああ、なんだよ?」 「うーん、やっぱり何でもない。」 そう言って顔を上げる。 いつもの璃乃だった。少なくともそう見えた。 「ごめんね。忘れて。」 「はぁ?」(自分から言い出してそれはないだろ。) 「うん、じゃあ、私帰るね。じゃあね。」 「あ、おい、璃乃!」 「バイバイ..。」 俺の言うことなど聞かず璃乃は駆けていってしまった。 (何だってんだよ?気になるじゃねえか...。) どうすることもできなくて空をもう一度見上げた。 そんな会話の間に月は雲に隠れていた。 |