|
12月22日(Tue) AM 6:35 俺はいつ寝ついたのだろうか....。 既にどうやって帰ってきたのかも分からない。 でも朝はいい。 少しであっても自分の心に整理がついているから。 今日は終業式。 クリスマスまで後2日.....。 終業式もなんなく終わり既にすることがない状態。 いや、何もしたくないのかもしれない。 こんな時間がほしかったのかもしれない。 色々なことを整理する時間が...。 今日もまた相変わらず晴れている。 「霞瑞....。」 後ろから声をかけられる。璃乃だ。 心なしか声が沈んでいる気がする。 「ん?」 「霞瑞さぁ、何やってるの?音色ちゃんきずつけてそのままなわけ? 何とかしなくていいの?してあげなくていいの? 霞瑞..優しいんだから..。」 璃乃は真剣だった。 「私は音色ちゃんの友達として来てるんだからね。」 少し考える。 答えは最初から分かっていたのだが。 全部どう見ても俺が悪いのだ。 「...そうだな。うん、そうだ。 ありがと、璃乃。俺、行ってくるから..。」 「うん。」 決めたのだから早いほうがいい。 教室を飛び出し、音色の教室へ向かう。 扉を引き開けると何人かの生徒が振り向いた。 「月下さんは?」 「月下さん?もう帰ったみたいだけど...。」 生徒の一人が答えた。 「ありがとう。」 その言葉を残して教室をさる。 駆け足を続けながら考えていた。 (帰ったんじゃない...。 カバンを持ってどこかへ行っているだけ..。 思い当たる所は....。) 音楽室。 音楽室前。 扉に手をかけるが開かない。 ここではなかったようだ。 他に思い当たる所.........あそこか。 階段を駆け上がる。 そして、少し重い鉄の扉を開けると...そこには光があふれていた。 一人しかいない屋上。 そこには空を見上げている娘がいた。 「音色。」 「...霞瑞君...。」 こっちに気づいたようだ。 俺がベンチを指さすと彼女もそっちへ向かう。 二人で座った。 「また晴れてる。今年の冬は天気がいいね。」 「あ、ああ。」 「後は冬休みだけだね...。楽しみだなぁ。」 「うん。」 「それから...。」 「そんなことを話に来たんじゃないんだ。」 その瞬間彼女の表情が変わった。 「分かってる...。昨日、ううん、今までのことだよね。」 「ああ。」 「音楽をやめたわけもね。」 「ああ、そうだな。どこから話せばいいかな...。」 「全部。最初からはなして。」 「わかった...。....俺には彼女がいたんだ。 彼女、桧弓雪音とは中学2年になった春に知り合った。 明るく、元気のいい娘。 俺は12月24日、クリスマス・イブに彼女に誘われて 買い物に行く予定になっていたんだ... * * * 3年前 12月24日(Tue) PM 5:40 (しまった。寝過ごした。確か待ち合わせは....5時半!やばい。) 3時ごろから少しだけのつもりだったのだ。 服を替え、顔を洗い、パンを食べ、歯を磨いて、髪を整えた。 これらに既に15分弱かかっている。 カギを閉め走った。 日はほとんど傾いているが何故かにぎやかな気がする。 外は雪だった。 既に10センチ近く積もっている。 走りにくいったらなかった。 (もう30分過ぎ....。) 走りながら考え事をしていた。 そのせいで...ドン! 「きゃっ。」 「あ、ごめん。」 そこを歩いていた娘とぶつかってしまった。 まったく前を見ていなかった。 「大丈夫?」 「はい。私は....あれ?」 「どうかしたの?」 「ネックレスが....。」 どうも彼女が手に持っていたネックレスが飛んでいってしまったらしい。 「探すよ。どんなの?」 「あの..銀の羽根に赤い石がついているんですけど...。」 「わかった。ちょっと待ってて。」 こんな事をしている場合ではないのだが放って置くわけにもいかない。 どう見たって俺が悪いのだから...。 少し遠くに落ちているのを見つけるまで数分かかった。 電車に乗り天川駅まで急ぐ。 どうあがいても10分はかかるので息を落ち着けることにした。 (雪音...待ってるだろうな.. あいつはほとんど遅れたりしないからな...。) 手の中のプレゼントを見る。 ガラスでできた音符の形をしたイヤリングだった。 その赤い箱を見つめながらいろいろな事を考えていた。 (最初は何て言おうかな...謝るか.. でも許してくれなかったら... それでも謝って許してもらうしかないよな.... 今日はクリスマスなんだし...誕生日なんだし...。) 独り言をつぶやくように考えを巡らせる。 いつの間にか今日の予定へと変化していた。 (飯食って...どこで食べようかな?金は持ってきたし... ショッピングでもして、 プレゼントも渡さなきゃな...それから....) 自然と顔がほころんでくる。 くそ、あそこで昼寝なんてするんじゃなかった。 急ぐ俺の気持ちとは裏腹に電車はゆっくりとホームに止まった。 外に出る。 あたりはクリスマス一色だった。 雪の白とイルミネーションですごく綺麗だ。 あたりを見回す...いない。 雪音は....まだ来ていなかった。 (珍しいな..雪音が...。) 待ち合わせ場所に座って待つ。 周りの景色が変わるのを見つめていた。 約1時間が過ぎた。 (遅い...。電話でもしてみるか...。) 公衆電話に入る。 かけたのだが機械の言葉が聞こえただけだった。 雪は少しづつ降り積もり、寒さと風が体温を奪っていく。 また...約2時間が流れた....。 既に10時になりそう。 そろそろ限界だった。 いつの間にか雪は止んでいたようで満月が雲間から光っている。 (もう少し....もう少しだけ...。) 人の波だけが少しづつ減り始めていた。 (雪音の家へ行ってみるか...。) そう思って歩き出す。 でも、もう意識を保つのがやっとだった。 そんな目が見つけたものは....。 雪の中に埋もれた赤いものだった。 (何だあれ....。) いつもなら気に留めない。 でも...手を伸ばし拾い上げる。 箱...プレゼントだった。 書いてあった文字は....... to Kazui from Yukine 何が何だか分からなかった。 どうして?何故こんな所に? 雪音はどうしたんだ? 答えなど見つからない。 見つかるはずもなかった。 家の中も冷えきっている。 暗闇の中にランプが点灯しているのを見つけた。 留守番電話! 電気もつけず走り寄っておそるおそるボタンを押した。 ピーーーーーー 一件デス。 ガチャ.. 「あの...桧弓美恵です。あ、雪音お姉ちゃんの妹の...。 霞瑞さん。今何してるの?何してたの?...お姉ちゃんが... お姉...ちゃんが...。 今、病院。...中央病院に...いるから..。」 ガチャ... サイセイヲシュウリョウシマス。 自分と雪音のプレゼントを持って飛び出す。 カギをかけている暇はない。 (雪音....雪音が....。) 足がすごく遅い。すぐにもつれる。 ボールを追いかけるあの駿足はどこへ行ったんだ? 距離がまったく縮まらない。 でも....走り続けるしかないのだ。 病院。 一人だけ見つけた看護婦に部屋の番号を聞く。 できる限り音を立てないように急いだ。 入った先には2人の娘がいた。 美恵ちゃんがこっちに気づいて振り向く。 「...霞瑞さん...何してたの? ..おねぇちゃん待ってたんだよ? 霞瑞さんが...霞瑞さんがちゃんと時間に来てたら.....。」 美恵ちゃんがこっちをまっすぐ見ている。 俺は何も言うことができなかった。 美恵ちゃんとベッドをはさんで反対側に座る。 「ごめんなさい....私も ..もう何がなんだか分からないの....。 病院の先生の話だと、おねぇちゃんの歩いていた所へ... 車が突っ込んで来たんだって...。飲酒運転だったって...。 それから病院へ運ばれて..1時間...くらいで....。」 一通り言い終わると美恵ちゃんはまた泣き出してしまった。 つまり俺が遅れた間に事故にあったらしい....。 (何てことを.....俺は.....。) ベッドの中に手を入れる。 雪音の体はひんやり冷たかった。 その死を疑う余地もなく証明していた。 彼女の手を握りしめる。握り返してはくれない。 その体温さえも感じられない。 彼女の時が止まったと同時に俺の時も止まってしまったと感じた。 涙がこみあげてくるかと思ったが.... (泣けない....涙もでない...。) 泣きたかった。大声を上げて。 俺が壊れてしまうほど。 いっそ壊れた方が楽かもしれなかった。 雪音を少しうらやましく感じる。 少なくとも彼女はこんなにつらい思いをしなくてもすむのだから。 愛しい人をなくす悲しみ...。 これからの孤独...。 耐えられそうにもなかった。 思い出したかのようにプレゼントを取り出す。 ガラスでできたイヤリング...。 付けてやると満月の光を反射して光っていた。 その顔はとても綺麗で安らかに眠っている。 今起き上がってきそうな気さえした。 イヤリングをつけてやってもやっぱり目を覚ましたりはしない。 認められない。認めたくない。 どうしようもなくて雪音のプレゼントを開ける。 そこには2つの銀のブレスレットが入っていた。 それぞれには内側に文字が刻印されていた。 片方はKazui.N、もう片方はYukine.H。 俺はKazui.Nと刻印してある方を取り出す。 そして雪音の右手首を持ってはめた。 外れないように力いっぱいしめる。 そして彼女の手をまた布団の中にしまった。 左手でもう一つのブレスレットを持つ。 右手にはめこれもまた思いっきりしめた。 不意に涙があふれる。 止めることなどかなわない。止める気も起こらない。 前かがみにベッドにもたれて泣き続けた。 このまま雪音の所へ行けたらいいのに....そう思った。 俺はずっと雪音と一緒にいた。 窓から満月が見えなくなり...太陽が昇ってきても....。 * * * 俺は一番大切な人をなくした。俺のせいで...。 俺の時はそのとき止まった。音楽もそのときに止めた。」 彼女の顔は不思議な表情をしている。 どう思っているのだろうか....。 「...だから..私のことを間違えて...。」 彼女がうつむきかげんで言う。 「そう....雪音、って呼んだ。 考えてみれば失礼な話だよな...。」 「.....。」「.....。」 「...結局...」「え?」 「結局、私は霞瑞君にとって何?雪音さんの代わり?」 胸を貫くような質問。 音色の少し横向いたままこっちを見つめる目を見ていられなかった。 「そんなことはない。誓って言える。 ..最初から最後までそうじゃなかったとは言えないけど...。」 「...けど?」 「今は音色に側にいてほしいと思ってるのも事実なんだ。 勝手なことを言ってるのは分かっているつもりなんだ...。」 一瞬の沈黙。 「....ねぇ、明日...暇?」 「え?..ああ。」(何を言い出すのだろうか..。) 「じゃあ、私が霞瑞君の家に行く。そのときに答えるから。」 「...分かった。そうしよう。」 「じゃあさ、今日は先に帰って。私も一人で考えるから...。」 こっちを向いた彼女の顔は少しだけ微笑んでいる。 でもいつもの笑顔とはかけ離れていた。 「ああ、そうする。....バイバイ。」 「うん。さようなら。」 そう言って屋上を後にする。 言わなきゃいけないことはすべて言った。 あとは...彼女の出方次第。 俺は太陽の下を一人で帰った。 待つしか....ないのだ。 12月23日(Wed) AM 10:00 インターホーンがなった。 今日はもう起きている。 ゆっくりと立ち上がってドアを開けに行く。 誰かは分かっていた。昨日の答えだ。 ゆっくりとドアをひらく。 「いらっしゃい。」 「おはよう。おじゃまします。」 追試の勉強のときとほぼ同じ格好の音色。 彼女を居間へ通す。 すぐに出せるようにしておいたコーヒーを用意した。 「あ..ありがとう。」 「あ..うん。」 「.....。」「.....。」 気まずい...かもしれない。 「答えを聞いてもいいのかな...?」 「...うん。」「じゃあ...聞かせてほしい。」 彼女の顔が真剣になっていくのが分かる。 音色が口を開いた...。 「私...私は..雪音さんのことを聞いて... 最初はちょっとつらかった。でも... 私もやっぱり霞瑞君といたいの...。 雪音さんのこと完全に忘れてなんて言わない。 そんなことできないのも分かってる。 でもね..私にうそつかないでほしいの..。 信じられなくなっちゃうから..。」 「音色....。」 「ねぇ、覚えてるかな..?最初にあった日..。」 「ああ..音楽室で...。」 「それ..違うんだ。」 「え?」(どういうことだ?) 「私たちもっと前に会ってた...。昨日間違いない、って思った。」 脈が速くなっていくのが分かる。 音色の言いたいことが分からない。 「3年前...12月24日...。」 「...あの時の....?」 「そうなの..私のせいでもあるの...。 私にかまっていたせいで...。」 彼女の口調がだんだんと強くなってきている。 (あれが...音色だったのか...。) 「でも、それで終わりじゃなかった。私その時にもう好きになってた。 運命を信じた。そして..また出会うことができた...。 だから音楽室であったとき..あっ...って気づいたの。」 「そうだったのか...。」 少しの間をおいてから音色が誰にともなく尋ねた。 「私が...霞瑞君と一緒にいても...いいのかな?」 「...いいと思うよ。多分雪音なら分かってくれる....。 勝手な解釈だけど...。」 「うん...。そうだといいね。」 (雪音...分かってくれるよな... こんなこと言える立場じゃないけど...。) 雪音に届いただろうか...。 窓の外を見た。光りがさしこんで床を四角く切り取っている。 この日は一日音色といた。 ずっと今までのことを話していた。 月が昇ってくるまで...。 藍空駅前。 音色を送ってここまでついてきた。 「じゃあ..ね。」こっちを向いて優しく微笑む音色。 「ああ。」優しくそれに答えてやる。 「バイバイ...。」「またかよ。」 「う..うん....」 「おいっ...。」 自然に足が前に出た。 音色の体から力がすうっとぬけていく。 倒れそうになるのをすんでのところで抱きかかえた。 片膝をついて彼女を俺の膝の上に仰向けに寝かせる。 「大丈夫か?音色。」 「...ふぅ、心配した?」彼女は少し笑っていた。 「な....あたりまえだろ。」 「ふふ..霞瑞君優しい。」 「え...。」少しだけ照れてしまった。 「さて...帰らなきゃね。」 そう言って音色は立ち上がる。 「また...明日ね。遅れないでよ。」 そして手を振り駆けていった。 (びっくりさせやがって....本当に冗談だったのかな...。) どうも気にかかっていた。 冗談ではない気がして...やまなかった。 風が吹き抜ける。 ベランダはすごく寒い。 だがどうしても月を見ていたかった。 (雪音....音色...。) 右手首を月光に照らす。 銀のブレスレットはきらりと光った。 月はほぼ真ん丸。 明日は...満月だ...。 |