2nd day
「おはよ、ルナ。」
「あ、ルクス。おはよう。」
長老の家の前にはルナがいた。
いつも通りの笑顔でこっちを向いている。
肩より少しだけ長い髪、整った顔だち。
この村で一番の娘だと思う。
長老の家は小高い丘の上にあった。
丘の前が切り立っていて横から回って上らなくてはならない。
その少し空に突き出した所からの眺めが好きだった。
村、森、山脈が見える。
俺たちの村は四方を山脈に囲まれた森の中にあった。
広大な森が広がっている。
空に刺さる山脈の向こうは見えない。
かなり遠くなのだ。
俺はあそこを越したことはない。
クレミィのような能力者や特別な奴でないと出たら戻れなくなる。
(クレミィも出られるわけではなく見えるだけだが...。)
「私、この景色大好き。...何も起こらなければ良いのに....。」
「ああ...そうだといいな...。」
(そんなことはありえない。)
そう確信していた。が、口には出さない。
切り立った壁を伝って風が吹き上げる。
ルナがもう少しだけ前へ出た。
ルナの足の先にもう地面はない。
その下には村の広場が広がっている。
今は何人かの主婦と子供がいるだけ。
その子供たちも自分たちの世界で遊び興じている。
無邪気な声が響く。
思わず自分たちのあの頃と重ねていた。
あの頃は良かったのだ。
何も考えなくてはならないことなんてなかった。
一日を精一杯楽しんで寝てしまえば必ず明日がやってきた。
何も気にせずともそうなっていた。
何も気にしなくても良かった。
そして、彼女は少しも動かなかった。
吹き上げる風に身を委ねて自然を感じている。
ルナの髪が風に揺られて優しく揺れる。
陽射しを反射して彼女の真珠色の頬が光る。
ルナと空の境などどこにもなかった。
そんなものはとっくに風がさらっていってしまっていた。
少しだけ湿った森の風が....。

「こっち。足もと気をつけて。」
そう言いながらルナがタラップを伝って地下に降りていく。
いかにもって感じの隠し部屋だ。
隠してある床板を見つけて、鍵で開けたあと、
ナンバー式のロックが掛かってんだから。
ルナが完全に入ったのを確認して俺もそれに続く。
何とかその中へ入った。
(狭くて暗い所ダメなんだが....。)
我慢するしかなかった。
ルナがランプを点けたのか地下は思ったより明るい。
カビ臭いにおいが鼻につく。
そこにはがらくたのような物が所狭しと並べられていた。
ルナがその中から例の物を見つけようとしている。
「えーっとね....あ、あった。これこれ。」
「ん...これ?」
「そう。」
ルナが嬉しそうに差し出したのは
少し装飾の施された手のひら二つ分ぐらいの箱。
一見宝石箱にも見える。
「ねぇ、鍵は?」
「あ、悪い。上に置きっぱなしだ。」
「まぁいいや。一旦戻ろ。」
そう言って今来た道をルナが戻っていく。
それに俺もついていく。
一歩歩くごとに埃が舞い上がる。
(もう入りたくない....。)
心底そう思った。

「じゃあ、開けるぞ。」
「うん...。」
ルナとその父親の立ち会いのもと俺は鍵をさっきの箱に差し込んだ。
スッ..と、よどみなく入っていく。
「..ぴったりだ...。」
そのまま慎重に回す。
カチッという音がしてフタがひとりでに開いていく。
「...何、これ?」
ルナが何だか気の抜けた声を上げる。
俺もそれにつられてか小さな声になってしまった。
「俺に聞くな....。」
その中にあったのは5つの石。
いや、石というよりは結晶だと思う。
すべて同じ物のようだ。
大きさはちょうど弾丸と同じ程度。
おじさんが一つを取り出して日に透かす。
「これは...。」
「知ってるんですか?」
「ああ..おそらく、L.Crystalだ。」
「何、それ?」
ルナが小首をかしげて尋ねる。
彼女はいつの間にかテーブルから少し離れた椅子に
背もたれを抱くようにして座っている。
俺も一つだけ手に取って窓からの光に透かしてみた。
透明な結晶に中に赤い丸いモノが見える。
八角錐のそこを削った形。
ちょうどダイアモンドをそのまま細長くしたような石だ。
先がかなり尖っている。
「Limitting Crystal。我々の能力を無効化する石だ。
 つまりこれを刺された人間は能力が使えなくなる。」
「どうして、これを俺に?」
「分からない。とりあえず、持っていてくれ。」
おじさんはL.Crystalを元に戻して箱を俺に手渡す。
それを右手を出して受け取る。
中の石は光を反射し、赤い珠がなお紅く見える。
渡された理由も分からないままL.Crystalを戻し、蓋をゆっくりと閉めた。

「ふーん...これが、ねぇ。」
「信じられないだろ?」
「まぁな...。」
テーブルの上には二つのカップ。
と言っても中身はただのお茶だ。
「お茶、飲まないのか?」
「え...。」
ラークがさっきからずっとカップを持たないのが気になってた。
少し困った様子でこっちを見ている。
「ああ..ちょっと飲んだら満足してさ。」
「そうか..。」
目の前に座っているラークがL.Crystalを
日に透かしてまじまじと見ている。
先の俺と同じように。
そして、そのまま体勢を崩さずに話し始めた。
「で、これが刺さると<Force>が無くなるわけだ。」
「そうらしいな。」
「さっきから思ってたんだけど...。」
そう言ってラークがポケットをまさぐる。
少しして何かを掴んで示してきた。
その手のひらには金色の筒がいくつかあった。
「弾を撃ったあとのカラなんだけど...。」
ラークはゆっくりとL.Crystalをそれにはめ込む...。
「...ほら、ぴったりだ。」
「...結局、どういうことだ?」
嬉しそうなラークに尋ねる。
「バカだなぁ、火薬を詰めれば銃で撃てるってことだ。
 かなりの実用性が出てきたぞ。..誰に撃つかは別としてな。」
「馬鹿はおまえだ。誰にも撃たねぇよ。
 第一、力が使えるものにしか効果はない。
 この村の人しか能力はない。誰に使うってんだよ。」
「そりゃそうだ。」
ラークはさっきからずっとL.Crystalをはめたり外したりしている。
窓からの光が眩しい。
俺はお茶を飲んで心の中で毒づいた。
ラークはだからお茶を飲まなかったのだ。
(...渋い...。)

夜は少しづつ迫っていた。
漆黒の闇が人間の領域を侵してくる時間帯。
村の人々は灯りを点けることでそれの侵略を防いでいる。
窓から見える広場にはほとんど人はいない。
今日もこうやって暮れていくのだ。
...と、ばかり思っていたのだが....。
今日が暮れるのは少々後になりそうだ。
と、この次の瞬間思った。
ドンドンドンドン
ドアが力一杯叩かれる。
(何だってんだよ....。)
少しだるい思いでそのけたたましく鳴り響くドアに応えた。
「はい、開いてるよ。」
その言葉が届くのを待たずに数人が走り込んできた。
ラーク、クレミィ、ダット、そしてルナだった。
「何だよ、騒々しい。」
「馬鹿野郎!さっさと用意しろ!」
「何のだよ?」
ラークがかなり焦った表情で答える。
俺にもあまりゆっくりしていられないのだと分かった。
「敵が...来たの。」
クレミィが小さな声でつぶやく。
俺は目をみはった。
「...本当なのか?」
「当たり前だ!クレミィの<sight>が見たんだ。間違いない。
 今は森の中間辺りだそうだ。」
「分かった。すぐに用意する。」
見れば全員が少しなりとも装備をしている。
俺はタンスを開け、非常用の物が入ったバッグを取り出した。
長老が死んだ日に用意しておいたのだ。
だが、(こんなに早いとは....。)
そのバッグを背負う。
同じ所からナイフを取り出して肩の後ろへ。
愛銃をホルスターに入れて腰に掛ける。
ズボンの袋には有りったけの弾とマガズィン(弾倉)を入れた。
ブーツに履き替え、グローブをする。
よく聞けば外がかなり騒がしい。
全員が全員、生き延びようと必死になっているのだ。
最後に少し厚手のロングマントを着て前をとめる。
「できたぞ。」
俺が言うとダットがすぐに話し始めた。
「ババァが言ってた。
 全員、北東の山脈を越えてカスナの滝の麓の村へ向かえって。」
「分かった。行こう。」
ランプを消して外へと出る。
人がいつもより少ない。
逃げ始めているのだと分かった。
「大人数で歩いていたら見つかりやすいな。」と、ダット。
「2:3に分かれるか..。」と、ラーク。
ルナが呟いた。
「え..心細いな...。」
それを聞いたラークが言う。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。
 自分の身は自分で守るんだ。」
ラークは少し冷静さを欠いているようだ。
いつもの彼ならこんな言い方はしない。
異常な事態が人々を微妙に変えてしまった。
それが本人も気づかないほどだとしても。
いや、逆に本人は気づかないのかもしれない。
ということは、俺もどこか変わってしまったのだろうか?
(そんなことを考えている場合ではない。)
俺はルナの肩に手を置いて、できる限り優しくゆっくりと言った。
「大丈夫だ。..俺が護ってやるから。」
「...うん..。」
「よし...俺とルナはこっちから行く。
 ダットとラークとクレミィはそっちから行ってくれ。」
「ああ、分かった。山の向こうで会おう。」
「ああ。」
ラークがそう言って行こうとする。
そして、すぐに振り向いて俺に言った。
「ルクス...。」
「...?」
「死ぬなよ。」
「ああ、分かってる。ルナも一緒に連れていくから。」
「じゃあな。」
ラークはそれ以降振り返らなかった。
俺たちもゆっくりしてはいられない。
もう出発しなくては。
「ルナ...行くぞ。」
「うん...。」
ルナはこっちを見てそして頷く。
ルナの手を優しく離れないように握る。
森へと向かって走り出した。
そこに存在していたのは永遠の闇。
一寸先も見えない漆黒の空間。
まるで俺たちの未来みたいだ。
何もかも飲み込んでそしてなおそのままでいられる黒。
俺たちの行く先は誰も知らなかった。
どうなるのかも、何が起こるのかも。
この目の前の闇以外には....。

少しずつ目が慣れてきた。
先が見えればこっちのものだ。
この森のほとんどは俺の庭のようなもの。
小さい頃からずっと此処で生きてきたのだ。
クレミィの話によると敵は50人程度。
この森の広さではそうそう出会うはずがない。
森の中をさらに暗い方へと走り続ける。
自分たちの足音とルナの荒い息づかいが聞こえる。
「ルナ、大丈夫か?」
「うん..はぁはぁ..大丈夫。」
走りながらの質問にルナは笑って答える。
口でそうは言っても、見た限りそうではない。
さっきからずっと走り続けているのだ。
しかも、俺にとってもかなり速いスピードで。
女の子に耐えられる距離ではない。
俺は足をゆっくりと遅くしていく。
「..ルクス、どうしたの?」
「少し休もう。ここら辺りで休んでおかないと...。
 何日かかるか分からないからな。
 ..おそらく、運が良くて4日くらいか。」
「乗り物がないからね....。」
ルナが「ふぅ..」と小さく息を吐くのが聞こえた。
「ルナ。」「なに?」
「ちょっとさ、<guidance>を使ってくれないか?」
「うん、分かった。」
ルナがゆっくりと目を閉じてたたずむ。
森の中にはほとんど物音がない。
来た所も行く所も全く同じに見える。
俺の視界以外の所はそっくりどこかへ消えてしまったみたいだ。
ルナはそのまま目を閉じている。
<Force>を使うにはかなりの集中力が必要らしい。
もっとも、訓練次第で何とかなるのだが。
少ししてルナが目を開いた。
「このまま、まっすぐ...5分くらい。
 ...ごめん、それ以上分かんない。」
「いいさ、そこまで行ってから休もう。」
「うん。」
また歩き始めた。
5分くらい..と言っても時計など持ってこなかった。
なかったように感じた先もちゃんと存在している。
だが、どこへ続いているのかなど見当もつかない。
闇は俺たちを招き入れる。
立ち止まって、回れ右をして、戻りたかった。
この先がどこかへ続いているなんて保証などどこに存在する?
もしかしたら、一瞬したら俺たちがいないかもしれない。
そんな感覚が襲ってくるほど、暗かった。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
ルナの息づかいと手のぬくもり以外。
俺たちは進むしかないのだ。
この静寂の中を。
だが、すべては永遠ではない。
あるとき、静寂は壊れた。
ある、銃声によって...。

「......。」
「誰か....。誰かが....。」
「それ以上言うな。」
俺は無意識のうちにルナの口の前に手をかざしていた。
「そんなこと、考えたくない。」
「ごめんね...。」
ルナが少し俯く。
ルナが示した場所で休んでいる。
さっき響いた銃声が気になっていた。
「きっと...きっとみんなで会えるよね?」
「ああ、きっとな。...交代で眠ろう?」
「うん..。」
「先に寝てて。俺が見張ってるから。」
「うん、ありがと...。」
彼女は言葉を言い終わると同時に眠ってしまった。
少し太い木の幹にもたれるようにして。
かなり疲れていたのだろう。
ただでさえ走ったのに、<Force>まで使ったんだから。
それに、ここんとこ色々なことがあり過ぎた。
ルナがそれすべてに耐えられるとは思わない。
こんなに細く小さい身体で耐えられるはずがない。
俺はずっと辺りを見回していた。
森の中では風の葉を揺らす音、
揺れた葉が振れる音、キーンという耳鳴りだけが響く。
木の隙から漏れる月明かりだけがいつも通りだった。

(.....?...もしかして....。)
「..ルナ、ルナ。起きて...。」
俺はかなり小さな声で呟くように言った。
「....ん..何?」
彼女はすぐに目覚めた。
それほど熟睡もしていなかったようだ。
こっちを見つめてもう一度ルナが問う。
「どうしたの?」
ある程度のことは予想がついているのか、彼女の声はすごく小さかった。
ルナもこの気配に気づいているのだ。
「敵だ..おそらく..3人...ぐらいかな。
 東の方角から足音が聞こえた。」
「...本当...逃げるの?」
「ああ、このまま、北東へ進む。」
「それで大丈夫なの?」
彼女は少し心配といった様子。
鉢合わせするのでは?と考えているわけだ。
「ああ。奴等は北からまっすぐ南下してきている。
 このまま進めば、多分大丈夫だ。」
「分かった...行こう?」
「そうだな。ぐずぐずしていられない。」
ルナが起き上がる。
その手を取ってできる限り慎重に速く走る。
本当は(敵に見つかるのでは?)と、気が気でなかった。
だが、走るしか道は残っていなかった。
月の照らさない方へ。
森の深さの増す方へと。
例え、その先に「未来」などなかったのだとしても....。

「..この辺りで..大丈夫か?」
「うん....。」
俺たちは森の中で一番大きな木の見える所に座った。
かなり走ったおかげか、足音は全く聞こえない。
おそらくあっちも気づいていない。
「ルナ...平気か?」
「ルクスこそ、寝てないんでしょ?」
「俺はいいんだ。」
「良くないよ。」
「分かったよ。安心できる場所についたらな。」
「うん...。」
(そんな所が存在しているのならば..な。)
俺はホルスターから銃を取り出した。
黒い金属の固まりが怪しく光る。
セイフティーレバーをゆっくりと下げた。
カチッ、という音が響く。
「ルナも...用意しておけよ。」
「本当に戦うの?」
「生き延びるためだ...。」
その言葉はルナに対して言ったのだ。
だが、同時に俺への言葉だった。
俺の心を耐えさせるための。
俺の精神が壊れないように。
簡単に言えば、人殺しを肯定する理由。
鉛を人に向けて撃つ言い訳。
自分を正当化するための自己暗示。
そんな類のものだ。
そうでもしないと、自分が耐え切れるとは思えない。
これから起こるであろうことに対して。
ルナはゆっくりと銃を取り出す。
俺が使っている銃のバレル(銃身)の部分を切り落としたような
女性でも使える軽いタイプのやつだ。
ルナが親指に力を入れる。
レバーが淀みなく下がった。
俺は自分のマガズィンを確認した。
時だった。
ドンッ!
ルナのすぐ右隣の土がいきなり破裂する。
土が夜空に舞った。
月明かりを反射して土が夜に舞うのがはっきりと見える。
その瞬間に分かった。
(しまった!)
敵に見つかってしまったのだ。
「ルナ!逃げるぞ!」
「うん。」
ルナの手を取って必死で走る。
森の中でこいつらが追いつけるはずなどない。
走った場所の土が順に舞うのが分かった。
つまり、俺たちの少しだけ後ろを撃ち続けているわけだ。
ドンドンドンドン
(ちっ..振り切れない。どうすれば...。)
と、思っていたときだった。
握っていたルナの手が少し緩くなる。
そして、ルナの身体が一瞬前に飛び出すようになった。
「ぁ...................。」
ルナの声にならない声が聞こえた。
一瞬で分かった。
分かりたくなどなかったのだが。
人間の本能は残酷なのだ。
ルナには弾が命中したのだと。
その場にルナは倒れる。
俺は目を見開いた。
一瞬で相手の方を振り向き、右手を差し出す。
敵が茂みに隠れる。
そして、こっちの出方を伺っている。
すべてがスローに見える。
今までなかった感覚。
(今は絶対に負けない。)
そう感じてやまなかった。
俺は銃口を向けると同時に何回か引き金を引く。
銃声が闇を切り裂き飛び出す。
すべてが命中すると確信していた。
だから、敵の数と同じだけしか撃たなかった。
そして、これまでの間に敵の数まで把握していた。
俺が俺でないみたいだった。
敵の数と同じだけの弾丸が、すべての敵を地面にひれ伏させる。
信じられないほど集中している。
この間、きっと、数秒だった。
すべての動きを瞬時に感知できる。
まだ生きている奴がいる。
何故かは分からないが、そう感じる。
俺はすぐに敵の方へ走った。
(止めを刺しておかねば....。)
あまりしたくはなかった。
でも、やるしかない。
そこには、人が一人と、人「だった」モノが二つあった。
このモノ二つは一目見て絶命していると分かった。
だが、一人は右肩より少し左を抑えて苦しそうにしている。
俺に気づくと、俺の足元の銃を拾おうとしたので、
その銃を足で後ろに思いっきり蹴った。
「おまえたちのリーダーは誰だ?」
男はさもきつそうに答える。
「へっ..聞いてどうするつもりだ?」
「殺す..。」
「てめぇみたいなヒヨッコに何が出来る..。
 銃が上手くたって、奴には勝てない...。」
たまに息を荒げて男は答える。
「なんだと?」
「へっ...これ以上は言えないな...。」
「言わないと殺す。」
俺は銃をすぐ下に向ける。
その先には奴の頭があった。
「どうせ、そのうち死ぬさ...。てめぇの撃った弾でな..。
 何をそんなに怒ってるんだ..?あの女が死ぬからか?」
「..黙れ。」
俺の押し殺すような声が森に響く。
「もしかして、惚れてたのか?..くくく、青春だねぇ.。」
「黙れと言っている!」
俺の冷静さなど吹っ飛んでしまった。
森の中に響くかどうかなど関係なかった。
自分の感情に任せて声を上げてしまっている。
「何なら、生きてるうちに一発やらせてもらったらどうだ?」
ドンッ!
男が言い終わるのを待たずに俺は引き金を引いていた。
弾丸はまっすぐ飛び、男の頭に命中する。
いきなり男は動かなくなる。
初めて「人殺し」というものを肯定してしまった。
俺がこの男の時間を奪った。
(でも、当然の報いだ。こいつらはルナを、ルナを...。)
最後の男の一声が頭にまとわりついて離れない。
(気持ち悪い....。)
どうして、こんなことが平気で出来る?
さっきまで動いていた人が、物言わぬモノとなる。
数秒前まで自分の前で生きていた人が...。
自分のせいで...。
少なくとも、俺には耐えられそうにない。
こんなに、きついとは思っていなかった。
だから、繰り返した。
さっき思った言葉を。
...イキノビルタメダ..