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「ルクス..どうして私を置いていったの? どうして私を守ってくれなかったの?」 俺は心臓が不整脈を打つのを感じずにはいられなかった。 目を見開き一言一言辛そうな彼女を見ている。 体中が赤く染まり切った小さな少女を。 「違う...そうじゃないんだ...。」 俺の言葉はともすれば風に消えていきそうだった。 いや、実際消えていったのかもしれない。 彼女に向けての言葉なのか、自分を言い聞かせる手段なのか、 はっきりしていなかったのだから。 「ねぇ...どうして...私を..。」 少しずつ彼女が近づいてくる。 体を引きずるようにして俺に体を重ねてくる。 俺には抵抗など出来ない。 ただでさえ体はこわばりほとんど動かないのだ。 そして、ルナは俺の手の届く所まできた。 ほぼ俺たちの体は重なっている。 ルナはさっきから何度めかの言葉を言い続けた。 「ねぇ...どうして...?」 そして、彼女の手がのぴてくる。 ゆっくりと、俺の涙を拭ってくれた手だ。 いまは少し紅いだけ。 そして、手が俺に触れた。 顔を優しく触っている。刹那− 手が崩れた。 彼女は表情一つ変えない。 だが、確実に彼女の手は崩れていっている。 「な...。」 俺は驚きを隠せなかった。 今も彼女の手はもろい砂の城のように崩れていっている。 もう既に手はない。 肩にまで及んでいる。 ルナの体が段々人ではなくなっていく。 俺は何も出来ない。 時間が経つごとにルナは砂になっていく。 俺の服のうえにたまっていく。 数十秒後そこには何もなかった。 白い砂がただただあるだけ。 俺は手を開いて白砂を拾い上げ握る。 少しの暖かさも感じられない。 俺は開いた倍の時間を使って手を閉じた。 粒子が細かいためにザラザラした感覚はない。 不意に突風が吹いた。 俺は顔を背けて目を閉じる。 草の間をすり抜け風が砂を運んだ。 一粒の砂も残さずに巻き上げる。 俺はただ呆然と壊れた機械人形みたく空を見詰めていた。 虚無の後に訪れるもの。 俺に、それが来た。 (絶対に許さない....。) 俺は右手を握りしめ、そして、閉じたときのまた倍の時間を使って開いた。 砂がゆっくりと風に舞い上がり、そして、姿を隠す。 俺は立ち上がった。 来た方向と反対を見る。 走り出そうとした、時だった。 「どうだった?僕の作ったおねぇちゃん、綺麗だったでしょ?」 「貴様は絶対に許さない!!」 「あれ?怒ってるの? おかしいなぁ、狂うように作ったはずなのになぁ。 今度は心理学を勉強しなくちゃな、うん。」 少年の口調がいやに耳につく。 「黙れ....。」 「なに?何て言ったの?」 あからさまに聞こえない振りをしている少年。 俺の怒りが絶頂に達するには申し分ないものだった。 「黙れって言ったんだよ! 言っておくぞ!貴様に”今度”は、ない!!」 「...君にもね。」 それっきり少年の声はなくなった。 俺は走り続ける。 (絶対に殺してやるからな....。) だが、怒りは視界を曇らせる。 誰かの言っていた言葉は間違いではなかった。 俺は目の前を横切るものに全く気づかなかったのだから。 「つっ...。」 右肩を何かがかすった。 草むらから飛び出した何か。 見れば爪痕のようなものがあり血が滲んでいる。 「ちっ..じわじわ殺す気か....。」 俺は立ち止まって辺りを見渡した。 何かが動いている気配などない。 つまり、先のスナイパーと同じだ。 本当は何もないのだ。 そう考えた俺は走り続けることに決めた。 ありもしないものを追っても仕方がない。 この世界を抜け出すことが先決だ。 体を無数に爪痕が埋めていく。 体が血で濡れていくのが分かる。 でも、足を止めるわけにはいかない。 痛みがないのではなかった。 実を言うとかなり痛む。 一歩踏み出すごとに体中が疼く。 でも、こいつを死に追いやるためにはこの世界にいては不利だ。 そして、そろそろ出口だと思った。 さっきの世界はこれぐらいだったから。 足が軽くなってきた。 もう少しでゴールだと思うと嫌でもそうなる。 外に出たからこいつに勝てるとは限らないのだが。 だが、その第一段階さえも達成できなかった。 何かに襟を後ろから捕まれる。 何か、と言っても一人しかいない。 間違いなくあの緑の男だ。 俺は抗うことが出来ずに後ろに倒れた。 背中に痛みが来る、そう思ったのだが草のためにあまり来なかった。 とっさに立ち上がり振り向く。 そこに居たのはやはり緑の男。 (だが、変だな...。 こいつが直接出てくるなんて...。) 男は微笑していた。 その気に食わない口元で。 丸い大きな目がこっちを見ている。 その一挙一動が俺の気に触った。 「逃がさないよ。」 男の言葉に俺は吐き捨てるように返す。 「ちっ...貴様を殺した方が早いか....。」 「出来るものならね。」 「やってやるさ!」 俺は右手に全神経を集中しホルスターから銃を抜いた。 そして一瞬で構える。 だが、奴はそこにいなかった。 俺の集中が銃にそれたほんの一瞬のうちにいなくなったのだ。 「馬鹿な...。」 (移動した気配はなかった...。) そして...。 「ぐわぁ!。」 後ろから何か巨大な物に捕まれる。 どこかの部位だけでなく、体全体を。 頭だけを後ろに向けると奴の手が俺を掴んでいるのだった。 巨大化した奴の手。 「どんな感じがする?」 「へっ...気分が悪いな...。」 体が締めつけられる感覚。 手も動かず、息がしにくい。 体中がこわばり、視界が白くなっていく。 (何か..ないのか...?) 奴は依然として微笑を浮かべている。 勝利を確信しているのだろう。 (どこか..動かないのか?) 俺はいろいろな部位を動かした。 足は何とか動くが、空中を泳ぐだけ。 左手は全くダメ。 首が動いてもしょうがない。 どうにか動くのは右手だった。 動くと言っても手首が何とか。 俺はその手で銃を持ち直し銃口を後ろに向ける。 そうすると自動的に親指がトリガーに当たった。 俺はためらわず引き金を立て続けに引く。 銃弾は奴の手を貫き草むらに消えた。 「くっ...。」 そんな奴の声が聞こえ、手が緩まる。 俺は草の中に降りてすぐに銃を構えた。 奴の表情が少しだけ歪んでいる。 だが、その中にほほ笑みが見えた気がした。 (なんだこいつ...。) 俺はそう思いはしたが、人さし指に力を入れた。 刹那− 俺は引き金を引かなかった。 (後ろだ!) 何の根拠もなくそう感じた。 だが、当たっていると確信して疑わなかった。 瞬時にそちらを向きナイフを抜いて投げる。 ナイフは草を切り裂きながら進む。 そして...。 「な...に?」 呻くような声がした。 次の瞬間辺りが歪み、消えていく。 気がつくとそこはもといた森だった。 俺の前にいたのは腹を押さえた男。 手は既に赤く染まり、助からないことを示していた。 緑ではなく黒い男になっている。 「何故...分かった,..?」 男が呟く。 此処まで届くのがやっとのような小さい声で。 「<Force>って言うのは性格によって 後天的に結構変わることがあるんだよ。 貴様のような陰湿な<Force>を持っている奴が堂々と 俺の前に姿を表すとは思えなかったからな。」 「そっか....じゃあね..。」 目を閉じてその場に倒れる男。 確かめなくとも死んでいることは明確だった。 俺は近づいてナイフを抜く。 何とも言えないべとついた感覚が手にまとわりつく。 ナイフは刀身を紅く染めて光っていた。 俺はそれについた血を木になすり付ける。 (こいつも<Force>を使っていた...。 どうしてなんだ?) 俺の抱いた疑問に答えなどなかった。 俺だって今ここで答えが出るなんて思ってはいない。 でもそれにリレットが関係している気がしてならなかった。 この質問の答えを彼女が握っている気がして..。 俺はまた走り始めた。 おそらく北だと思われる方向へ。 コンパスをどこかで落としてしまったのだ。 <world>でのダメージは回復している。 その点で言うとこいつはたちが悪くなかった。 だが、奴の手に捕まれたとき声が聞こえたんだ。 −目覚めよ、目覚めよ−って。 そして、後ろだと思った。 そうしたら奴がそこにいたんだ。 そういえば、何度か聞いたことがあるかもしれない。 敵の動きがたまに分かるようになる時だったか。 確かその時にも聞こえた気がする。 はっきりとは聞こえなかったから深くは考えなかったが。 何にせよ助かったのだから良いとしよう 先ほどと何ら変わらない森の中。 所々を木漏れ日が照らしていることまで同じ。 少し陽が紅くなっていることを除いて。 だが、あまりゆっくりはしていられない。 陽が傾き始めている。 俺は走り出した足を止めない。 決して、ずっと。 ラークたちが気がかりで仕方がなかったから。 6th day 朝日が俺を起こした。 木漏れ日がちらちらと俺の瞼をやいている。 俺は木の上に座るように眠っていた。 危険なのは分かっているつもりだ。 だが、眠らずにはいられなかった。 地面で眠るよりはまだ見つかりにくいだろうとふんだのだ。 何度か落ちそうになったがその度に目を覚まし 数秒後にはまた寝ていた。 俺にとって昨日ほどの疲れはなかった。 たった一日で3回も戦闘し何とか生き延びたのだ。 疲れなどという言葉で表せるものではない。 まだ起きて時間が経っていないというのに 頭と目は妙にはっきりとしていた。 木から飛び降りて体を調べる。 何処も異常はなさそうだ。 コンパスもカバンの奥深くから見つけたし。 俺は落ち着いて北を調べた。 俺の右手に太陽が来ている。 (まぁ、これは当たり前だけど...。) 赤い針の差す方向に足を踏み出した。 おそらく、今日はあの青い男を倒さなくてはならない。 恐怖はあった。 でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。 (ルナと約束したんだ。平和を勝ちとるって。) 昨日が嘘だったかのように軽い足は俺を順調に目的の方向へと運んでいく。 そして、数時間後、昨日の場所に近づいてきた。 既に太陽は傾いてきている。 当たり前だ。 数日かけた道を一日強で着いたのだから。 (あの男がいたのは確かこの辺りだ...。) その予想はすぐに現実のものとなった。 「早かったな...。」 木の陰から声。 森の静寂の中でその声だけがいやに響く。 間違いなくあの男だ。 木から男が姿を現すのをじっと見詰める。 無表情の、それでいて威圧感のある青い男がその場所にはいた。 「9と17には会わなかったのか?運のいい男だ...。」 男は誰に告げているのか分かりにくい口調で言う。 「9?17?何のことだ?」 「赤い女と緑の男のことだ。」 男の言っていたことが分かったため、俺は自信たっぷり言った。 「ああ。そいつらなら会ったぜ。 ちゃんと、倒してやったよ。」 男の顔がぴくっと引きつる。 「.....あの役立たず共が....。 ...我の手を汚させやがって...。」 男は強く右手を握りしめる。 なのに表情は全く変えない。 あの右手に捕まれるとやばいのだ。 「ならば、貴様は我が手であの世へ送ってやる。 ゾディエ様に会わせなどしない。」 男がゆっくりと手を開き、その手を後ろへと引く。 俺もナイフを構えた。 右手に使い慣れたグリップの感覚が伝わる。 「いくぞ!」 男の声。 その声と同時に男は地面を蹴って突っ込んできた。 俺は後ろへとステップをする。 奴は左手でパンチを連打してきた。 その中に右手は一度として混じってはいない。 (右手はとっておきっていうわけか...。) 俺はパンチを受け流し、蹴りをくりだした。 だが、俺の足は宙を泳いだ。 風を切る音が時間が止まったかのように錯覚させる。 だが、そこに男はいなかったのだ。 (なんだと...。) 俺が構える間にしゃがんでいたのだ。 だが、気づいたときには遅かった。 奴の足払いが俺を地面にひれ伏させる。 俺は勢いよくその場に倒れた。 「ぐっ....。」 その時俺は頭を上げることがやっとだった。 幾度となく背中にダメージを追い続けてきたせいで、 微々たる痛みがおかしいくらいに響く。 細くなった目で奴を見た。 奴は無表情のまま右手を伸ばす。 俺に、ではなく奴のとなりに立っていた木に。 次の瞬間その木が消える。 陽炎のように、跡形もなく。 気が立っていた地面は根のあった部分が言葉通り 根こそぎ無くなっていた。 (木を消してどうするつもりだ...?) 答えはすぐに分かった。 別に分かりたくなどなかったのだが。 俺の頭上でパチパチという音がする。 この音には聞き覚えがあった。 木は俺の頭上に現れた。 木の陰で俺の体が黒く染まる。 「げっ...。」 辺りを見たが、防げそうなものなどない。 俺は痛みを堪えて横に転がった。 地面の凹凸が容赦なく体をひっかいていく。 そして、俺の顔の数p横、そこに木は落下してきた。 言うまでもなく、けたたましい音と共に。 (こんなものが当たったら、間違いなくアウトだ...。) だが、安心している俺に休息などなかった。 キィーッという音を立て今度は木が倒れてきたのだ。 「ちっ...。」 体をひねらせかわす。 しゃがんだ状態の俺の目の前に木は倒れた。 そして、俺は完全に忘れていたのだ。 いや、後数秒すれば思い出しただろうが、 そんな時間を与えてくれるほど奴がいい人には見えなかった。 「がはっ...。」 背中からの手加減なしの蹴り。 何か巨大な鈍器で殴られたらちょうどこんな感じだろう。 体が何の抵抗もなしに前に吹っ飛ぶ。 だんだんと地面が近づいてくる。 間もなく俺の体は地面を滑っていた。 遊んでするのならばそれなりに楽しいのだろうが、 今はお世辞にも「楽しい」とは言えなかった。 奴が近づいてきている。 そう感じて俺は瞬時に起き上がる。 「はぁ..はぁ..ぐっ...はぁ..。」 目を開けていられない。 (此処は戦場だ。痛みで死ぬ気か?) 何を言い聞かせても何の効果もないように感じる。 既に堪えられる痛みではなかった。 足の裏に金属を仕込んでいるようだ。 奴がナイフの類を持っていないだけ、まだましだが。 だが、言い換えればそれだけ腕に自信があるのだろう。 こんな状態で勝てるのか、今頃になって心配になってきた。 奴は新しい木をつかむ。 そして、先と同じように消える。 (ちっ..また落ちてくるのか...。 それなら一か八かだ..。) 俺は起き上がる。 奴との距離は数m。 (この距離ならきっと...。) 俺は横にずれる。 奴の放った木に当たらないために。 そして、銃を抜いた。 奴も気づいたようだが、特に何をするわけでもないようだ。 むしろ口元だけで笑ったようにも見える。 (その無表情のまま死ね!) 俺はホワイトダットに奴の左胸を合わせる。 そして、ためらいなく人さし指に力をかけた。 ドンドンドンドンドン..... 「ちっ...無駄だったか...。」 奴には一発すら届かなかった。 全て奴の右手に吸い込まれていったのだ。 銃口から立ち上る白煙の匂いが妙に鼻に触る。 だが、奴のしたことはそれで終わりではなかった。 変化のなかった奴の顔が変わる。 劇的な変化を見せているわけではない。 だが、今度は本当に口元だけで笑っているのだ。 「..?..何が可笑しい?」 「すぐに分かる。」 奴はそう言っただけで何もしようとしなかった。 そして、奴の言葉通りすぐに分かった。 奴が何をしたのか、が。 不意に俺の前に黒い円が現れた。 少しずつ開いていく。 パチパチという耳障りな音を立てている。 円の形を崩さずに、相似に引き伸ばしたように。 俺はこの円に見覚えがある気がした。 そして、唐突に思い出す。 (この円は!) そうだった。 奴が吸い込んだものが出てくる円だ。 つまり....。 ヒュッ。 風を切る音が聞こえる。 黒い小さいものが横切る。 いや、横切るなんて言う生易しいものではない。 そして、次は俺の体が切れた。 「つっ!...くそっ...。」 そこ穴から飛び出してきたもの、俺のはなった弾丸だった。 数発が俺の体をかすっていく。 足と手を少しずつ。 致命傷のような傷がなかったのは不幸中の幸いか。 だが、痛みを伴わないわけではなかった。 所々血が流れている生暖かい感覚がしている。 俺は覚悟を決めた。 これ以上戦い続けても俺の劣勢は変わらない。 だから、次の攻撃で決めてやる、と。 俺は足に力を込めた。 奴は少しずつ近づきつつこっちの様子を伺っている。 一瞬で俺は走り始めた。 奴から見れば遅すぎるスピードだったのかもしれない。 俺は大振り過ぎる左ストレートをはなった。 これが受け止められることは分かっていた。 だから次の瞬間にナイフで殺すつもりなのだ。 だが、予想通り俺のパンチは受け止められたのだが、 ナイフが出なかった。 俺の左手は奴の「右手」に受け止められている。 奴の顔は微動だにしていなかったが、殺気が表れていた。 その時まで存在していなかった本物の殺気。 今こいつに能力を使われれば俺は死ぬ。 確実に、間違いなく。 どういう風にして死ぬのかは分からない。 もしかしたら異次元とか呼ばれる所に飛ばされるのかもしれない。 それは分からないにしろ、奴の目を見た途端にそう思ったのだ。 ”俺が殺る前に殺られる”と。 恐怖が全身を余すことなく覆っている。 だから、無意識のうちにナイフを出すことを拒否していた。 (何とかしなければ...。) もう時間はない。 左手は離れる気配すらない。 そして...。 「消え去れ。そして、滅せよ。」 奴がそう呟く。 俺には選択の余地などなかった。 あるいは、選択の時間などなかった。 ナイフを振り上げる。 銀の刃が太陽を反射して紅く光る。 その赤い刃を勢いよく自分の左手首に振り降ろした。 ナイフは淀みなく肉を切り裂く。 そして数瞬後ナイフは完全に手を切り落としていた。 先と変わらず紅く輝いている。 今は少し赤色の意味が違うが。 「....!!!」 声すらもでない。 耐え切れぬ激痛が俺を襲う。 何処が痛いのかなど俺にも分からない。 血が噴き出す。 俺は右手で握った。 多少の出血は止まるがほとんど意味はない。 奴の顔にはさすがに驚きが見え隠れしている。 次の瞬間俺の左手だけがふっと消えた。 俺は左手を掴んだままナイフを奴の心臓に突き刺す。 鈍い感触と嫌な音が体にまとわりつく。 刃は完全に体にめり込んでいる。 血が滴り落ちて青い服が黒くなっていく。 奴は目を見開いていた。 見てはならないものを見るときのように。 俺は後ろに下がって銃を抜き、引き金を引いた。 ナイフのすぐ横に弾が命中し奴は完全に絶命する。 そのままその場に倒れていった。 銃はガチャッという音を立てスライドをストップさせる。 また、弾が切れてしまった。 その場に銃を投げ捨てる。 俺はできる限り強く左手を握った。 このまま血が流れ続けたらまずい。 出血多量で死にかねないからだ。 ズボンからバンダナを取り出し手首に巻く。 木の枝を手とバンダナの間に通してぐるぐると回した。 バンダナがきりきりと俺の手首を締め上げていく。 簡単な止血方法だがしないよりはましだろう。 既にかなり貧血気味で視界が定まらない。 次の瞬間、森は暗くなった。 いや、森が暗くなったわけではない。 俺が目を閉じたのだ。 その行動に抗うことはできなかった。 そして、横に倒れる。 頬をなでる低い草の感覚が心地よい。 風を感じて心は穏やかだった。 目を開けることなどできない。 いや、むしろ開けたいとも思わない。 俺はこの抗い難い感覚に身を任せることにした。 ゆっくりと意識が遠のく。 段々と俺がいなくなっていく。 「死」の感覚を知ったようだった。 そして、俺の意識は深い海溝の底へと沈んでいった。 |