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「......。」 「..ス、..じょ.....ぇ?」(誰だ?) 「..て、.ね..クス...。」(どうすればいい?暗い。何も見えない。) 「..とに....ス..?」(君は...) 「ル...ナ?」 そう呟いて目を開いた。 目の前には誰かが座っている。 仰向けに寝ている俺を覗き込むように見ている娘。 それは...彼女ではなかった。 「クレミィ...?」 「やっと起きてくれた...。 もう、目覚めないかと思ったんだから...。」 彼女は潤んだ目でこちらを見ている。 かなり心配してくれたようだ。 「俺...。」 意識がはっきりとしない。 鐘が鳴るように頭が痛い。 頭に触れようとして左手を出してきた。 だが、左手が痛むだけ。 そこには包帯がまかれていた。 どうも、夢やその類のものではなかったらしい。 彼女が少し困ったように呟く。 「大丈夫だよ。もう血は止まってるから。 ...随分無茶したんだね。」 クレミィは何を言っていいか少し戸惑ったのだろう。 当たり障りのない言葉で慰めてくれているようだった。 「そうしないと勝てなかったんだ...。 後の二人は?」 言うまでもなくラークとダットのことだ。 クレミィはゆっくりと首を振る。 「わかんない。ルクスだけやっと見えたの。」 「そうか...。」 「私たちばらばらの所へ飛ばされちゃったの。だから...。」 彼女が俯く。 ほとんどもう光はない。 辺りは暗くなってきていた。 その上、俯いたために彼女の表情を伺い知る事はできなかった。 だが、彼女は自分を責めているようだった。 彼女の涙が俺の顔に落ちる。 今まで溜めてきたものが溢れたのだ。 仕方がない。 彼女はまだ16才の少女なのだ。 こんな現実離れした世界で生きていけるほど強くはない。 俺は上半身だけを起こした。 そして、右手で優しく彼女を抱く。 「わかった。もういいから...。」 彼女はいっこうに泣きやまない。 だが、俺はずっとそのままだった。 「そのまま眠っていいよ。俺が見張ってるから...。」 「..う..うん..。」 どうせ今からでは歩いている方が危険だ。 二人のことも気になったが、こんな状態のクレミィをほってはおけない。 俺は彼女の体温を手のひらに感じたまま空を見上げた。 木々の間から月と太陽、両方の光が見える。 その柔らかな輝きに身を委ねた。 時間がいつもの半分の速さで進む。 彼女が寝ついたのはその数分後のことだった。 俺は気がつくと眠ってしまっていた。 (しまった...。) そう思いはしたが、何が出来るわけでもない。 血が全くもって足りていなかった。 頭を働かせることさえ苦痛だ。 俺は今、木にもたれ掛かるようにして眠っていた。 (クレミィを抱いて眠っていたはずなのに...。) 俺は眠たい目をこすって辺りを見た。 木の陰に混じって一人の娘が立っている。 間違いなくクレミィだ。 空を仰ぐように立ちすくんでいた。 後ろ姿しか見えないが、もう先のような感情は収まったようだ。 今は月光に照らされていかにも気持ち良さそうにしている。 彼女の少し長い目の髪が優しく青白く光っている。 だが、そんな仕草の中に何かしらのもの悲しさを感じてやまなかった。 俺はゆっくりと小さく彼女を呼ぶ。 「クレミィ...。」 「ん?ああ、ごめんね。起こしちゃった?」 彼女がゆっくりとこっちを向く。 俺に分かる範囲ではいつものクレミィと何ら変わらなかった。 だが、完全に読み取ることのできない部分に 俺たちには分からない思いが隠れているのであろうことを知った。 「さっきはごめんね。私、あんな風に泣いちゃって...。」 彼女がゆっくりと近づいてきて俺のとなりへ座った。 「いいよ。俺も自分が正気を保ってるのが不思議なくらいだ。 ...いや、既に幾らかは壊れてるのかもな...。」 彼女が悲しそうな目でこっちを見る。 その瞳が月をはっきりと映し出していた。 「どうしてそういうこと言うの?」 「だってさ、俺、もう何人殺したか分からないんだぜ。 これが異常でなくて何が異常なんだ?」 俺は自分の質問が何の意味もなさないことを分かっていた。 いや、意味どころかマイナスしか含んでいない。 彼女にこんなことを言ったって何も変わりはしない。 今、最善なことは彼女の言葉を聞いてやって 何とかしてこれからを掴むことだと分かっているのに。 自分のものではない口がそれを止めなかった。 「でも..でもね、ルクス..。」 「俺の手は血で汚れすぎた。 こんなもので勝ちとった平和に何の意味があるんだ? きっと...何も...。」 俺は自分の手を見詰めて自分が何を言っているのかさえ分からない。 やはり既に壊れているのだと思った。 その時だ。 クレミィが何も言わずに立ち上がる。 俺は頭を上げてその柔らかな髪を見ていた。 「...月...綺麗だね?」 彼女の背中が呟く。 俺は何も言わなかった。 言えなかったのではない。 故意に言わなかったのだ。 「ルナちゃんもいつも見てたよね...。」 その名が出たとき俺は明らかに動揺していた。 動揺と言うと語弊があるかもしれないが。 俺は自分を恥じていたのだ。 ルナを迎えに行くんじゃなかったのか? そんな自問を繰り返していた。 クレミィが振り返って続ける。 「それで、よく言ってたよね。 <月の導きがありますように>って。 何だか思い出しちゃって。」 「........。」 「ルクスの中で..ルナちゃんはもう...死んじゃったの?」 俺はすぐに答えた。 だが、その言葉さえも途中で詰まってしまった。 「そんなけない!そんなわけ...ない。」 「ごめん、別に苦しめる気も責める気もないの。 ただ、今のルクス見てると...ね。」 「....ごめん。」 「謝らないで。........ラークもダットもきっと元気だよね? ルナちゃんが守ってくれるよね?」 「ああ...きっと、な。」 彼女は殊更明るく振る舞おうとしてくれた。 俺はそれが無性に嬉しかった。 自分を見失いかけていた俺に前に進む力を与えてくれた。 俺は馬鹿だったのだ。 「クレミィ...。」 「ん?なに?」 また月を見ていた彼女がこちらに振り向く。 何もなかったかのように微笑んでいる。 「その...ありがとう。」 「うん...面と向かって言われると何か照れるね。 ...もうちょっと寝てて良いよ。私が見てるから。」 「ごめん、ありがと。」 クレミィに甘えて再び目を閉じる。 そして、ルナのことを考えていた。 復讐。 俺のやろうとしていることはそれに相違なかった。 人殺しが正しいとはどうしても思えないし、 ルナが喜んでくれるとも思えない。 でも、それを達成することは村に平和をもたらすことと同意。 だからと言うのも変だが、俺はやめない。 村人を救いたいと思い続けてきたのだ。 ルナのような人をこれ以上出さないためにも。 7th day 夜は完全にその姿を潜めた。 空気がその粒が朝の光を反射して光り輝く。 俺が今いる世界を忘れてしまいそうなほど。 いつも思う。 朝が来る度に俺たちは進化しているのだ。 あるいは、生まれ変わっているのだ。 その度に成長し、変化し、大きくなっていく。 昨日の自分と今日の自分の考え方など変わってしまっても別に構わない。 いや、むしろその方が自分にとっては良いのかもしれない。 朝の光は俺にそんなことを考えさせていた。 少し温かくなり始めた空気の中、クレミィが目を覚ます。 俺はマガズィンなどの点検をしていた。 やはり、既に弾が切れている。 俺の手持ちの弾は撃ち尽くしたわけだ。 もともとそんなに多くあったわけではないのだが。 「おはよう。」 「おはよう、ルクス。」 彼女の少し長い髪が優しく揺れている。 朝起きたばかりの少し癖のついた髪。 (.....。) 「?どうかしたの?」 クレミィが俺に尋ねる。 俺はすぐに目を反らした。 自分の考えが許せなかったから。 (クレミィとルナを重ねるなんて...。) 俺は馬鹿だ。 国宝級の馬鹿だ。 そう自分を戒めた。 そんなことばかり考えているほど暇ではない。 後二人、ゾディエと...リレットが残っているのだ。 俺は銃をホルスターに入れる。 そして、立ち上がった。 「行くか。」 「うん。」 そう応えてクレミィも立ち上がる。 朝食は歩きながらでも食べればいい。 まっすぐ「北」へ向かった。 平和か死が音を立てて忍び寄っていた。 森はそこでいきなり途切れていた。 少し広い草原が広がっていて、そのすぐ向こうには小屋がある。 それも結構大きなプレハブ小屋が立っていた。 一晩ぐらいで早急に建てたものだろう。 きっと中身はただの倉庫か何かだ。 それよりも....。 (ゾディエは何処に...?) クレミィには少し離れた所で隠れているように言った。 彼女には悪いが足手まといでしかない。 彼女を守りながらゾディエと戦う自信はなかった。 だから、今は一人だ。 リレットのことを言わないのは彼女とは戦いたくなかったから。 俺は辺りを見渡した。 隠れる所はそれほどない。 (奴がいるなら後ろか...。) そう思って後ろも見た。 だが、そこにもいない。 ただ、鳥の鳴き声が遠くで聞こえるだけ。 そして奴は俺の予想に反して前から現れた。 木の陰から隠れもせずに...。 「久しぶりだな、ルクス。」 俺はその何とか覚えている顔に吐き捨てるように言った。 「貴様のことだから不意打ちしてくるかと思ったぜ。」 奴がふっと軽く息をつく。 「そんなことしなくても勝てるさ。」 「...お前も覚醒したのか?」 「当たり前だ。ミティスの村の住人だぞ。」 俺の目の前がかっと赤くなる。 (貴様にそんなことを言う権利はない!) 「取り消せ!貴様が住人なものか!」 俺は奴を睨み付ける。 奴はその視線を軽く外すと馬鹿にするようにため息をついた。 「俺に<Force>が存在することが何よりの証拠。 おまえの方がよっぽど怪しいぜ。」 「な....。」 「左手はどうした?まさか今までの奴等にやられたのか? くくく...貴様も口だけだな。なぁ、ルクス。」 「気安く俺の名を呼ぶな! ....リレットはどうした?」 俺は声を低くして奴に尋ねる。 リレットが出てこなかったのが気にかかっていた。 「リレット?..ああ、あの女のことか。」 奴はさも気づかなかったように言う。 奴が知らないはずはない。 その仕草が俺の神経をまた逆なでする。 「あの女...だと?」 「知りたいか?」 俺は答えなかった。 奴はまた笑う。 「聞かせてやるよ。あの女は死んだ。」 「なんだと?」 俺は無意識に聞き返す。 声のトーンが自然に上がっていた。 「正確には”殺した”。」 「貴様ぁ!」 俺はナイフを右手で抜いて構える。 奴が制するのがもう一秒遅かったら俺は奴に飛びかかっていた。 「まぁ待て。死に急いでもいいことはない。 冥途の土産は最後まで聞くもんだ。 あの女は良かったぜ。俺たちを村から逃がしてくれた上に G.Crystalまで開発してくれた。」 「G.Crystal?あの赤い女の持ってた青い石のことか?」 俺はナイフを下げて尋ねる。 奴は許せないが、聞きたいことは山ほどあった。 「ほう、MF.No17を倒したのか。 ちっ、余計なことを話やがって。」 「MF.No17?」 「ああ、あの女のコードネームだ。 緑はMF.No9、青はMF.No12。ククク、優秀な人形だよ。」 奴の嫌な笑い声がこだまする。 あの笑い方が厭で仕方なかった。 「...奴等は村人じゃないな。」 「その通りだ。奴等は俺の人形。 リレットをベースとした、な。」 その言葉に反応せずにはいられなかった。 (リレットをベースとした、だと?) 「何だと?どういうことだ。」 奴はまたもや俺を手で制する。 「焦るな。ちゃんと話してやるよ。 巨大なプロジェクトが完成するときは誰でもいいから無性に話したくなる。 その相手に貴様を選んでやったんだ。 G.Crystalの正式名称はGaining Crystal。 ただの人間に<Force>を与えてくれる神の石だ。 俺はずっと開発したかった。 だが、そのためには元となる<Force>を研究しなくてはならない。 その実験台としてリレットを使ったんだ。 あの女の<place(領域)>は強力過ぎる力を持っていたからな。」 「....。」 俺は何も言わずに右手にただ力を込めていた。 すぐにでも、この癪に触る男を殺せるように。 「だから、あの3人の能力には領域が絡んでいた。 <place>から派生した<Force>だからな。 <place>は一定範囲内に絶対不可侵の領域を作る。 その中の人間は範囲内に存在する限り 見られることも触れられることもない。 絶対に死なない。時も経たない。 最強の防御用能力だった。」 「....。」 「そして、その<place>を抽出し、結晶に<Force>として与えた。 その結晶は青く輝いていたよ。 その結果リレットは死に、4つのG.Crystalが完成した。 だが問題はそれからだった。 G.Crystalを受け入れられるもの、そうでないものがいたんだ。 そのせいで300人の被験者のうち残ったのはたったの3人。 役に立たない奴等だった。 そして、余った一つを自分に入れた。 <Force>を二つ持ったらどうなるのだろう、ってな。 だが、ちょうどよくその<Force>は他の<Force>を 強める能力を持っていたんだ。 だから、俺の能力は格段に強力になった。」 「その饒舌を何とかしろ!貴様は....。」 「何だ?」 「非人道的な事をして、自分の愛した、自分を愛した人を殺して 何とも感じないのか?!」 「感じないな。俺が世界を掌握するためだ。 この<no distance(無距離)>の力で。」 「そんなことのために俺の姉さんは死んだのか?! 貴様なんぞのために?!」 「姉さんだと?貴様の乳母の娘だっただけだろう?」 「関係ない!」 俺はナイフのグリップを握り直した。 そして、構える。 だが、またもや奴が制する。 その目を見て俺は不覚にも恐怖を感じてしまった。 途方も無い威圧感と殺気。 こいつはいつでも俺を殺せるのだと感じた。 「死に急ぐな。慌てずとも俺がすぐに殺してやる。 見ていろ。我が<no distance>の力を。」 奴は右手を差し出して、奴の右側へとまっすぐ伸ばす。 そして、奴が右手を開き、その後、ぐっと握った。 その瞬間だった。けたたましい地響きが鳴り響き、地面が揺れる。 そして、奴の右側にあった山、奴の手が向いていた山が、 ”握られたかのように”崩れ去っている。 そこにはくっきりと手の形が残っていた。 奴がこちらを向き、微笑している。 「な...なんだこの<Force>は?」 「これが俺の<no distance>だ。 見かけの大きさで攻撃が出来る。 距離など関係ない。完璧なる無距離だ。 2つ目の<Force>、<times>によって強化された最強の<Force>だ。」 (馬鹿な...こんな途方も無い力が...。 どうすれば勝てるというんだ?) 俺の表情を読み取ったのか、ゾディエが言ってくる。 「心配するな。すぐに殺してやる。」 そう言って奴が大きく右手を振りかぶる。 (なぎ払うつもりだ!そんなことをしたら森が消えてしまうぞ! もちろん俺なんか生きてはいられない!) だが、どうすることもできない。 今、銃を抜いて撃ったとしても奴が手を振る方が早いだろう。 俺は完全に混乱している。 未だかつてない恐怖が全身を取りまいている。 (これが死ぬ前の感覚か...。) そんな現在の状況から逃避するような考えしか浮かばない。 冷静さなど一瞬で跡形もなくなってしまった。 足から根が生えたかのように動くことが出来ない。 ただ奴が手を大きく振るのを見ているだけだった。 そして、俺の視界が大きく揺れる。 予想よりも小さな揺れだった。 俺は死んだのだと思った。 完全にかき消され塵すらも残っていないのだと。 だが、それは現実ではなかった。 見れば下に森が見える。 変わり果ててしまった森。 木々がなぎ倒されかき消され、地面が見えている。 緑はなくなり土の赤色がそこら一帯を埋め尽くしていた。 (俺....浮いているのか...?) その通りだった。 地面から高く飛び上がりゾディエを上から見ているのだ。 よくよく見れば俺の脇の下に俺のものではない腕が見える。 それは...。 「ラークか!?」 俺は頭を後ろに向けた。 そこに居たのはやはりラークだった。 「危機一髪、だな。」 そう言って軽く笑っているラーク。 無事で良かった。 「助かった、サンキュ。」 「それはいいが、もう降りるぞ。 俺もそんなにもたない。」 ラークが言い終わる頃には既に降下が始まっていた。 まっすぐに浮かびまっすぐに降りたのにそこには何もなかった。 後ろにも何もなかった。 木も草も虫も何も。 前方には顔をしかめたゾディエが立っている。 奴は右手を握ったり開いたりしていた。 「ちっ...小賢しい真似を..。」 「ルクス...。」 俺の横に立っていたラークが呟く。 すぐ隣にいるのに気づくのがやっとのような声で。 「なんだ...?」 「奴ほどの力だ、そう一日に何回も使えるはずがない。 ましてや連発など出来ないはずだ。 いくら訓練したとしてもな。 奴の動きが止まったら確実に殺せ、いいな?」 「ああ、分かった。」 「じゃあな。」 「え...。」 ラークは言い終わるとじっと前だけを見ている。 その顔は真剣だがいつもとの相違はほとんどない。 俺にはラークの言葉の意味が分からなかった。 いや、気づこうと思えば気づけたはずだった。 だが、それを敢えてしなかったのかもしれない。 どうしても、その言葉の真意を否定したかったから。 ラークは特に何をするでもなく立っている。 俺は目をラークからゾディエに向けた。 奴は俺たちの様子をうかがっている。 ラークの予想通り何発も撃てないのだろう。 確実に仕留めようとしているのだ。 その時だった。 鈍い音と共にゾディエの体が右に吹っ飛ぶ。 その瞬間は何が起こったのかさっぱり分からなかった。 落ち着いて左を見る。 そこにはダットが立っていた。 死角から機会を狙っていたのだろう。 <power>を使っているのだ。 「ちぃ、ダットか。貴様から殺してやる。」 そう言いながらゾディエは立ち上がる。 ダットの方に奴が向き直した。 だが、次の瞬間にはダットは奴の目の前にいた。 ダットが左手で顔面を殴る。 が、奴はいとも簡単に右手で受け止める。 そこでダットは奴に足払いをかけた。 グラッとゾディエの体が傾く。 だが、奴は倒れはしない。 でも、ダットがその隙を見逃すはずはなかった。 右手での強烈過ぎるパンチ。 奴のわき腹にめり込みゾディエが多少のうめき声を上げる。 「ぐっ...ちぃ..。」 だが、かなりダメージがあるのか反撃が出ない。 奴の手からダットの手が離れた。 そしてダットが右後ろ回し蹴りをゾディエに命中させた。 常人ならとっくにダウンしているはずだ。 <power>を使ったこれだけの猛攻を受けていれば。 蹴りがクリーンヒットしたのかゾディエは何の抵抗もなしに吹っ飛ぶ。 そして、後ろの木にぶつかって止まった。 奴の後ろにあったため<no distance>を受けずに済んだ木だった。 奴は木にもたれて下を向いている。 「ぐっ...許さぬ...。」 奴が何か小声で呟いている。 俺は完全に見入っていた。 このままだったらダットが奴を倒すのでは、と本気で思った。 ダットが止めを刺しに奴に走り寄る。 だが、俺には奴の顔が引きつるのが見えた。 右手を握り閉め、そして開いている。 (!まさか!ダットがやばい!) 俺はある限りの声を張り上げた。 これ以上知り合いが死ぬのは見たくなかった。 「ダット!止まれ!避けるんだ!」 「虫螻が....調子に乗るなぁぁぁ!!!」 奴の耳をつんざくような絶叫が辺り一帯に響く。 そして、奴は右手を大きく前に押し出した。 その先にはダットがいる。 (くそ!どうにかならないのか!?) どうにもならなかった。 逃げることも避けることもかなわない。 ダットが生きている確立はない。 奴の手で完全にダットは奴の視界から消えていたはずだ。 奴の目に映らない、イコール、死なのだ。 次の瞬間に俺は進みたくなかった。 ここで止まってしまえば良かったのだが...。 そんなことなど起こるはずもない。 その時そこに残っていたもの。 奴の前に広がるえぐれて赤さの増した地面。 「何か」で紅く染まった砂と埃。 そして、手形の着いた向こうの山だった。 「ダット...ダット!」 俺は無意識に叫んでいた。 いや、ここに意識的なものが混じれば俺はきっと叫ばない。 そんなものが何をもたらすというわけではないと分かっているから。 だが、叫ばずにいられない。 「ふっ...あんな奴に負けはしないぞ。」 奴自身に言っているのか俺たちに告げているのか、 よく分からないことを呟いている。 そして、奴がゆっくりと立ち上がる。 地面に手をついている所を見るとかなりきているようだ。 親指で自分の口についた血を拭っている。 だが、俺のとなりで噴煙が上がった。 奴が立ち上がった直後だ。 俺はその物体を目で追った。 ラークだった。 <fry>を使って超低空飛行をして。 地面すれすれを飛んでいる。 まっすぐに奴−ゾディエに向かって。 奴は気づいてはいるようだが、気づくのが遅すぎたようだ。 今からでは何もできない。 そして、ラークが奴をとらえた。 木と自分の体で奴を挟んでいる。 そして、ラークの叫び声が聞こえた。 |