「慕 恋」

第一話
(1)



その日私は朝から興奮気味だった。
何故なら未だ経験したことのない「不倫」をしに行くからだ。
暁美(あけみ)は人妻で夫との間には2人の子供がいる。
私は彼女との「逢い引き」の現場に向かうため飛行機に乗っている。
 私は妻と結婚するまで幾度となく恋愛は経験したし、女遊びも少ないと言えば嘘になるだろう。
ただ、暁美とは3カ月もの期間お互いの性についても語り合ったと云うのに、相手の顔を正確には知らない。
写真は電子データで交換してはいるのだがそれにしてもかなり特異な体験である。
彼女と知り合ったきっかけは、ネット上のオークションである。
彼女が出品者で私が落札者。しかも私の生まれて初めての入札は、そのオークション終了の5分前だった。
 私と暁美が出会った事、それ自体は決して珍しいことではなかった。ただ、そのオークションにたどり着いた
のも偶然に近かったし、もしあと5分時間がずれていれば出会いはなかったのかもしれない。事実、その後幾人かの女性とオークションで売り手、買い手として関わったが何も起こらなかったしメールも挨拶で終わるのが普通だった。

 飛行機は南に向けて飛び続けた。
私にとっては郷里に向かったのとほぼ同様の感覚ではあるが、もしそうでないならば恋愛が成立するにはあまりにも遠い距離である。
 1時間30分後私は南国の香りがする町に降り立った。
 ホテルは暁美の住む街にほど近く、いくつかのゴルフ場に囲まれたリゾート地の中にひっそりと建っていた。 週半ばということもありただでさえ広い敷地内は閑散としている。私は暁美がやってくるまでゆっくり3時間ほどを一人で過ごした。 これから人妻である彼女がこの部屋に来る。しかも成り行きは明確に想像できるのだ。その夢想はこれまでに経験したどの逢瀬より強烈に私を刺激し続けている。
 予定より15分ほど遅れて、彼女は伏し目がちに少し微笑をたたえて部屋に入ってきた。 電話で3日に一度は声を聞いていたし、メールは直接ではなく掲示板でのやりとりでかなり濃密な話もしていた。 それが一度に顔を合わせた瞬間、恥じらいのようなものを感じ、お互い正視出来なかった。 私は「やぁ」と言って肩を抱くくらいの事は予想していたが、何か彼女は違っていた。
 こういう時の決まり事のようにお互い、どうでもいいような話しか口をついて出てこない。 あせればあせるほど、気まずいような雰囲気だった。 彼女は持参したワイン、缶ビール、おにぎりを袋から出していたが、かすかにその手は震えているように見えた。
 「正直に言うけど、写真で見るよりずっと可愛いね、驚いたよ。」
やっと口をついて出た本音だった。
 「だから写真写りは悪いほうだって言ったでしょ?」

その時初めて、正面から彼女の顔を見た。
私はその瞬間、不思議な驚きを持った。こんなにも自分を動揺させる表情、顔の女性がいたのだろうか。自分でも気が付かない好みのツボがあったのかと・・・。





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