「慕 恋」
第一話
(2)
午後5時を過ぎても南国の夕日は色づかずに蒼い海と空を優しくとけ込ませていた。
窓から見える海は、もはやこの部屋からは遠すぎて潮騒さえ聞こえない。
まるで一枚のフォトのように波頭さえ止まって見えた。
「こんな眺めだったんだね。」彼女は本当に感嘆したもの言いで呟いた。
「いい眺めだね。」
と相づちは打ちながらも私の目は窓の外ではなく、彼女の顔、胸元、下半身をすばやく見据えていた。
彼女の心の中は、その憂い、喜怒を幾度も感じ、またそれを解きほぐし情をかき立てた事も日に数回の言葉の逢瀬で全て承知している。
しかし、その心を纏った覆いはまだ触れてもいないし、その肉がどれほど白く、どれほどの柔らかさかはまだ、私の触感には未体験なのだ。
この精神と肉体への渇望のアンバランスは私の未知の快感への扉を、間違いなく開けようとしていた。
神の悪戯で刻々と刻まれる逢瀬の時は、次第に海の色を鈍らせ空ととけ込ませ、ある種の焦燥感は、彼女に夜という事実をつきつけて、何かの芯に炎を近づけたようだった。
「お酒飲む?私も飲むよ・・」
「え?だって車だろ?」
と言いつつ自分の言葉を後悔していた。
酒の力が今、彼女に「必要」だったのに・・。
飛行機に乗る前から私は不安だった。切符を買い、ホテルを予約し、彼女の時間も決まった。
しかし「浮気」となるのだろうか。彼女は本気でそのつもりなのか・・・疑問だった。
あれは、お互いにホームページの掲示板で思いを書き連ねるようになって一月もたった頃の事だった。
私のほうからではなく彼女のほうからの問いかけがあった。
「どれくらいの女性と経験したことがありますか?」
「10人ほど・・。キミは?」
「3人くらいかな???」
それをきっかけに話しはエスカレートして、互いの夫婦生活にまでなった。
その会話が終わるまでに私は結構衝撃を受けた。
それは彼女がこの東京で生まれ、東京で働いていたこと。そして2人の男性と深い仲になった後に今の夫と結婚したこと。
ただし、今現在まで一度も「絶頂感」を知らないということだった。
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