「慕 恋」
第二話
(3)
私はその日を待ち焦がれていた。
彼と逢える日、それはこれまでにない期待と高揚感、そして不思議な快感なのだ。彼にはすべてを話したという気がする。自分の過去、夫、子供、家庭の不満、そしてSEXについても。
時には電話で1時間以上も話し、その後すぐにメールでも話す。同居している家族ともこんなに話したことはない。罪悪感は不思議に無かった。ただ悟られないようにすることにひたすら気を使うだけだった。時には夫が隣の部屋にいても電話で話をした。よくかかってくる友人や姉の時と同じ対応をしているつもりで話した。彼はそれをかなり心配し気を使っていたがもしかするとそのスリルが刺激的だったのかもしれない。
私は婚前3人の男性と交際をした。長い時で2年の交際期間だった。そして現在の夫が4人目の男性となる。でも、未だに絶頂感を知らない。たまに友人との会話でその話題になると、相手は一様に「信じられない」と言い憐れみのような表情さえ浮かべる。
それは生活に何の支障もない、ただ漠然とした事実としてだけ存在していた。ところが30歳を過ぎて子供にそう手がかからなくなってきたこの頃、ふとこのまま自分は一生を終えるのか、という不安のようなものが脳裏に浮かぶことがあった。
近所付き合いの中で、同年代の男性からあからさまに「欲情」の目でまじまじと見つめられたり、下心を感じずにはいられない優しさなどは少々のストレス解消にもならないものであったが、まだ自分の中の女性は生きているという悲しい裏付けにはなった。
ただ、夫の性行為自体に不満がなかったのか、というと確かにあった。それは決まり切ったパターンと、こちらの性感には殆ど無関心な行為の連続。熱くなるというにはほど遠い「運動化」した行為。それだけではなく正直に言えば過去の男性との行為と比較してしまう自分もいた。そうは言っても自分は絶頂とはどういうものか?想像するしかなく、それを味わうことなく来たからこそ夫の行為で我慢出来ているのかもしれなかった。殆ど夫のペースでしかも10分そこそこで終わる行為を私は「疲れない」からいいとさえ思うようになっていた。自分なりに考えて演技さえするようになっていたし、早く終わらせることに気持ちはいってしまっていた。
その全てを彼との長い電話やメールで伝えてしまった恥ずかしさは、その内に消え去り彼のそれに対する反応を楽しみにするようになっていった。その時間だけはすでに浮気なのかもしれない。ストレスが無くなる、その効果は絶対にあるしこれまでに経験の無いことだと思う。
彼の待つホテルへ。その日、私は遠方から来る女友達と会うことになっていたのだ。
部屋に入る前に駐車場から電話を入れた。フロントを抜け、部屋まで一人で行くのだ。
地元の人間にどこかで見られ可能性は大きい。もしその場合も有る程度の言い訳は考えている。
自分がこんなに大胆な行為が出来たのか・・と少し自分に驚きを感じた。ドアをノックし、開けてくれた彼を一瞥し素早く通りすぎるように部屋の奥に入ってしまった。
奥のテーブルの後ろ側の椅子に腰掛ける。なぜか顔がひきつっているようだ。
彼が大きなため息と共に声を出した「やっと逢えたね。」それに対して私は彼の顔をゆっくり見ながら答えた。「初めまして・・・」
とても不思議な感覚だった。初めてなのに全てを知っている人。声も顔も知っている。でも逢うのは初めて。でも彼の笑顔、身体全体の雰囲気はなぜかとても懐かしく、胸にこみ上げる感情の渦。いったいこれはどういう感覚なんだろう。
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