「慕 恋」
第二話
(5)
自分の身体の中に、もう一つの肉体が芽生え始めたような感覚とでも言うべきか。
心地よい虚脱感が自分の腰の周りから涌いてきた。その後から別な振動のような快感が追いかけてくる。むずがゆいような何かの固まりのようだ。
彼は静かに動いているようだった。でも自分の意志では頭も、腕も動かせずに私は強く瞼を閉じて身体の全神経が下半身に向かって走り回るのを感じていた。
足が攣るような感じがした。その時すでに時間は8時になっていた。2時間経過していることが嘘のようだった。
自分では何があったのかまだ認知していない、が、自分の中で彼は果てていたのかその余韻は今も残っている。まだ絶頂に達してはいないような、漠然とした記憶で彼の顔を見た。
「どうだったの」と私は自分の反応を彼に聞いていた。
「わからない、どうなのか。初めて感じた快感をどんな反応で確かめたらいいのか…」
そう、この絶頂感について私たちは随分話し合った。何故感じられないのか、欠陥が夫にあるのか、または自分にあるのか。それがもし彼との行為で初めて知ったとして自分がどう変わるのか、彼無しではいられなくなるのではないかという不安等々。
少し違うと感じたのは彼の入ってくる角度と深さが夫とは違うということだった。
夫はなるべく自分に触れないように接して来るのだ。私の秘部が湿りやすいせいだった。夫はそれを「気持ち悪い」と言うのだ。しかし彼の行為はその逆だった。長い時をかけた的確な刺激、全てを引き込むような深い突き上げ。でも自分ではまだ極みには駆け昇ってはいないと思った。
彼の優しい手が背中や腰を撫でていく。私は俯せの身体をゆっくりと反転させて彼の顔を覗いた。
「疲れたの?」
「・・・そうだね少し休もうか」
「あのね、少し指がいい」
「え?」と彼はとても困った顔をした。それは少年が買って貰ったばかりの玩具を取り上げられたときのような表情だった。
「さっき、そうなりかけたよ」
「え?・・・それで?」
「なにかね、あたるところがあってそこを続けたら・・多分」
「はぁ・・・そういうことね。でも指っていうのはなぜ」
私はいつもそうだった。夫とのあまり気乗りしない行為のまえでも、夫の粗雑な指の愛撫で十分に潤うのだった。多分、夫は私が感じているのだと勘違いしてると思う。
これはずっと前からそうだった。指でされるとどうしようもなく潤うのだ。
彼はじっとその部分を押し広げるように見入っていた。その時私の中の快感の引き金に新たな1個が加えられた。
「何してるの」
「綺麗だね」
「そんな・・明るい所で見られたことないし・・。」
「ほんとうに綺麗だよ。全く正確に綺麗に左 右が対象になってる。作りが小さくて突起してるものがほとんどない」
「何が?他の人は違うの・・どんな風に・・」と言いかけた時にまた初めての快感が
蘇った。彼の舌が侵入してきたのだ。それも今日が生まれて初めての経験だった。
すでに腰のまわりからざわざわと神経の中の細かい快感の虫たちがはい上がってきていた。
そして指が侵入して来た。その先は奥まで行かずに真上の壁を少しずつ探っていくようだ。そして最初の場所にたどり着く。指が動き始めた。どういう具合にして動かすのか壁と壁を何本もの突起が交互にとんとんと刺激しながら回転している。身体が妙に攣っていくようだ。背中に向けて虫達がはい上がり始める、と同時に頭の中で汽笛のような何か鈍い隠った音がうなり始めた。
その時指が上の壁の窪みを掴まえた。
掴んでさらに上に押し上げられた。もうそこまでの記憶しか残っていない。
自分は何を叫び、何かにしがみつき身体全体が上へ上へとはい上がって行く。
容赦なく彼は身体を抱え込み動きを封じながら、顔、うなじ、胸へと唇を走らせる。
その間も指は微妙な横揺れと縦揺れを続けて行く。
完全に来たと思った。その瞬間が・・・落ちるようなそして浮き上がるような感覚のずれが波動となって交互にやってくる。
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