「慕 恋」

第二話
(6)



私は身体の力がすべて吸い取られ、放心状態でじっと動けないままだった。
脳裏を過ぎるものは何もなく、その神経自体が何かの暴発とともに吹き飛んだ。
考えていた「絶頂感」とは全く違うものだった。頭で感じるのか肌が全て鳥肌立つのか、それとも下半身が新たな感覚を覚えるのか、と想像していたどれとも違う快感だった。
ふと、一月ほど前の彼との会話を思い起こした。
「もし、お互いに離婚して一緒になったとした ら、私に飽きるんじゃない?」
「これだけ離れているから、余計に逢いたくな る、抱きたくなるということはあると思う。
でも僕が求めているのは夫婦愛のある生活な んだ。もちろんSEXも必要だし。でも普段の 生活で妻のために頑張ろうとか、何かを我慢 しようという気持ちが全く持てない。そして 向こうもそういう態度しか見せない。それで は何のための生活だか分からない。子供には 悪影響しか与えてないと思う。
 お互い口を開けば争いにしかならない。つい この前も子供が泣き出して俺と妻の争いはも う見たくないと言うんだ。それはすごく辛い  言葉だった。しばらく俺は黙って立ちすくん でいたんだ。すると今度は妻は子供を俺の前 に突きだして言った。この子をこんなにした のは俺だって。全て俺が悪いってね。」
 私は夫と争っていても結局何日かの周期で夫が求めてきたら従うしかないと思ってる。
以前かなり長い間拒否していた時期もあった。しかし夫の機嫌が悪くなり子供に当たりだした。いつも温厚そうな夫の目つきが変わり子供にも殴りかからんばかりの行動を取った。
それを見た私の負けだった。夫とはもう何年も口づけもしていない。
夏でも行為の時に全裸にはならない。夫とは肌と肌は触れない行為なのだ。パジャマをたくし上げられ胸に触れられ少しだけ口を這わす。
 次は下腹部をまさぐられ、指がいきなり挿入される。ここで私は「歓喜」の声を一度出して見せる。夫は右手にティッシュを持つ。秘部に顔を近づけ丘の上から一気に落ち込んでいく溝までを少し舐めてくる。その後口をティッシュで拭う。
そんなに汚いものなんだろうか?自分でも舐めたことはないが確かに美味なものではないだろう。友人の話では30分も舐め続ける夫もいるというがそれは例外としても普通はどうなのか?その後夫は自分のものを少し溝に沿ってこすりつけたかと思うと、いきなり入ってくる。ここで私は二度目の「歓喜」の声を出してみせる。
夫の動きはかなりスローである。彼の疾風のような繰り返しを受けた時、私は驚いた。慣れていなかったのだ。動きはゆっくりのほうが好きだった。ただ夫のではなく彼のものでならば…。夫と彼を比較しようとは思わないし、してはいけないと思う。それは身体に染みつくことになりそうだからだ。染みつくのは心でいい。
 私は彼の差し出した甘いミルクの酒を飲み干した。リキュールだから強いのにミルクのせいで酒とは感じない。私の横に座って、太股や臀部を羽根が舞うような感触で触れてゆく。彼の視線が痛く感じた。
 彼の美しい光る肌に手を差し向けた。自分の身体を見据えられるのは恥ずかしいからだ。 枕元照明のダイアルを廻しほとんど真っ暗な
状態にした。
 ふと、時計を見ると9時を廻っている。 吐息を感じて横を向くと彼も時計をのぞき込んでいる。9時には部屋を出る予定だった。
が、未だ私の身体は全裸のままであり、シャワーを浴びる気持ちにもなっていない。
 「いったと思う」
 「良かった」
 「でも、確かじゃない」
 「どうして?」
 「まだ、上がありそう」
 「でももう遅いよ」
 「私を帰す?」
 「帰らないの?」
 「帰れない」
 「帰したら?」
  ………
「二度と逢わない」
 「遅くなるよ」
 「10時も12時も同じ」
 「悪い妻にした?」
 「ここでは良い妻」
 「泊まる?」
 「それは出来ない」
 「誰の元に帰るの?」
 「子供の元に」
 「夫は」
 「もう寝てる」
  ……… 「じゃ、俺の妻だ」
彼の舌がまた動いている。私は行為の途中で生まれて初めての言葉を発した。
 「気持ちいい」




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