「鱗 粉」

(2)



その店がある通りは予想していたような華やかさなど微塵もなくただ寂れた地方都市の飲屋街のような趣であった。ここがかの有名だという風俗の街なのか信じがたい気分であった。
しかしよく見ると大小取り混ぜたその手の店が横道に入る路地のあちこちに建ち並び、その店の前には呼び込みとおぼしき男が立っていた。
新聞で見た広告の中から選んだ店はその広告の中に何か安心感を感じる何かがあったからで、予備知識など何もない。
 気が付けば月曜日の午後5時では、通りにはまだ客とおぼしき人通りがあるわけでもなく出勤途中と思える女性が幾分通行しているだけである。
自分は一体働けるのだろうか。それが一番の危惧であった。夫と結婚してはや8年が過ぎようとしている。32歳という年齢がすでに若くはないことは自覚している。そうでなくても新聞に載っていた「風俗嬢」は皆20代の前半と紹介してあった。額面通りの年齢であるかどうかは疑問としても5歳以上の誤魔化しは難しいだろからせいぜい28,9歳以下ということになる。そうすると自分はかなり年かさという烙印を甘んじて受けることになる。
一方で自分が32歳だからこそ働く決意が出来たような気がする。まさか22歳ではとてもいきなりこの世界で働くことなど想像もしなかったに違いない。
 考える内に指定の場所まで来てしまった。
そこは駐車場の角を曲がりいわば通りの裏手にあたる。小料理屋と薬局の間の路地を分け入ったところに「@@興産事務所裏口」と小さなプラ板が貼ってあるドアがあった。
インタホンを押してしばし待つ。ものの5分で 中年の蝶タイの男性がひょこんとドアから顔を出して聞いた。「面接ですね」
奥に行くにしたがって暗くなる廊下。不安がまた一段と大きくなって今来た道を戻りたい衝動に駆られる。まさに人質になったような心持ちである。
 事務所という説明とは裏腹にそこがちゃんとした「風俗店」の裏口だったことがすぐに理解出来た。なにか時代錯誤に陥りそうな、大きな飾り窓や装飾の類はそこがすでに紛れもない風俗営業の店の中であることを意味し、ここで初めて迷いに封印をする自分がいた。
自分より年下のボーイらしき青年がうやうやしく応接間のような部屋に通してくれた。
自分の身なりを一度見回して、ふとこれからは裸体で仕事をするのかもしれない・・ということに気が付いて虚しさとともに自嘲的な笑いが少しこみ上げた。服などどうでも良い世界、職場があったのだ。 




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