「鱗 粉」
(3)
しばらくして40がらみの落ち着いた雰囲気の男が部屋に入って来た。
「店長のカキヤです。よろしく・・・」と唐突に自己紹介をした。
カキヤという音は頭で響くのだが一向に文字が浮かばない。カタカナでしか認識出来ない
名前に少しストレスを覚えた
。
「あ、ウチの営業内容が書いてありますから先に目を通して見て下さい。」とストックブックのようなものに女性の顔写真がずらりと並んだものを2冊テーブルの上に置いた。
その後の数分間でカキヤは陽子の顔、身体をじっと見据えた。
そして履歴書を出すように促した。
「初めてですね、この業界・・・」とカキヤは断定し、自信を持って言った。なんと履歴書を見ることもなく・・・。
「はい」とだけ答えた。水商売にも出たことがない自分はこの男に瞬時に見抜かれているようだ。この男の前ではもう裸同然なんだろうか・・・・。
「どういうことをお客様に求められるかはご存知ですね。」
「はぁ・・・」
「では、簡単に説明します。ここは浴場ですから・・・・」
とカキヤは通り一遍といいながら、こと細かにこの「ソープ」という風俗店の業態について説明をした。
その説明を聞くうちに、すこし目眩を感じた。明日からかその次の日か、自分はどこの
誰かも判らない男と、1時間30分の間に身体の全てをさらけ出し、肌を密着させてさらには奉仕しなければならない。しかもその最終コーナーにはもっと深い闇が待っている。
辞めるなら今しかない。
その逡巡を察してかカキヤは履歴書から目を上げて言った。
「あなたを見ていると、それほどこの仕事をする必要性は感じないのだけど、無理にとは言わないですから、明日までに返事をくれればいいんですよ。」
「必要性ですか?」
陽子は怪訝な面もちで尋ねた。いったいどういう女性が面接に来れば必要性アリと判断されるのだろうか?それを聞いてみたかった。
「まず借金ですよ。これがもう数百万あってしかも返す宛がない場合なんかですよね。そういう女性はここに来た時点でかなり追いつめられていて、今日からでもすぐに働きたいから働けるかと聞くものなんです。でもあなたにはそれはない。そうかと言って生活が派手すぎてカード地獄に落ちてというのもある。でもそのような派手さは見受けられない・・・そういう意味ですよ。」
「お金は欲しいのです。いくらでも・・・」
カキヤは少し笑って言った。
「あのね、その金額って一日3万、4万って額じゃないでしょ?それもわかるんですよ。だから何もこの業界でなくてももっとソフトな所もあるし、探せば水商売だってあるんだし・・・・・」
「いえ、時間的に無理なんです。病院に朝の9時から最低でも午後の1時くらい迄はいなければならないし、夕方は6時頃までにはウチに戻っていたいのです。ですからそんな時間内で働ける所は探したんです。で、最後にここしか無いと思って・・・・・」
「そういう事情なら、わかります。でもねきつい仕事なんですよ。決して楽ではありませんよ。ウチとしても一度入店したら少しでも長く働いて貰いたいしね、だから結論は今日ではなくてもいいですからじっくり考えて見て下さいよ。いいですね。それでも良かったら明日また来て下さい連絡してね。明日はもう実技やりますから・・・あ、女の子が教えますから安心してください。」
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