「鱗 粉」

(8)



息子の昇平の病状は変わらない。日増しに顔色が悪くなっていくような気がする。医者の話では風邪のウィルスが原因で髄膜炎となるケースもあり、それが悪化し脳膿瘍になる場合もあるという。そうなるともう後遺症は避けられないだろう。さらに悪化して脳炎にでもなってしまえば命も危ない。今は投薬に頼るしかない。残る数パーセントは本人の治癒力、抵抗力ということになるがもともと病弱だった翔太にはあまり多くは望めなかった。この先どうなるにせよまずは金銭が問題なのだ。救える我が子をお金が不足して救えなかったなどどいう事態だけは避けたかった。
 前日受けた実技の講習で自分でも何とかなるという漠然とした自信はついた。要するに相手の身体に自分の身体を密着していく勇気があれば何とかなりそうだった。ただその先が問題であった。店としては基本的に客には年齢、職業、国籍さえも制限をしない。入店出来ない客は泥酔者だけである。アヤカの話によると、受け入れる側の女性(店ではコンパニオンと呼ぶが)では外人を拒否する場合が多いことや高齢者を拒否するというケースもあるらしい。ただ高齢者はおしなべて手荒いことはしない上に最後までの行為を要求しないケースもあり、それが「楽」であるとの理由から逆に高齢者を歓迎する女性もいるらしい。
アヤカは「行為の途中で本当に天国に行かれてしまうなんて恐れもあるし、娘や孫のように本気に思ってしまう高齢者もいたりしてややっこしいから私はNGだわね。」と言っていた。独り身や家族につれなくされて精神的な潤いを求めてくる老人・・・何かいたたまれなくなる。

仕事と割り切って、見ず知らずの男と関係を持つことに、自分が正常な意識のままで耐えて行けるという自信はなかった。
ただ、アヤカや待合室で少しだけ挨拶がわりに話をした女性も、ごく普通の常識的な女性達だった。
それは当然のことなのだろうが、ここに来るまでは心の奥底に「売春」という言葉に「婦人」を付けて特別な言葉にして、赤い口紅、紅のマニュキアを塗りたくって煙草を吸う女性・・・・まるで妖しい魔物のようなイメージを持たざる得なかった。
 アヤカは言った「まずお客よりマネージャーが問題よ。マネージャーがどういうお客を誰に付けるかを決めるわけでしょ?だから嫌われたらもう大変。マネージャーが嫌な奴だろうが喧嘩は禁物よ。気に入られればまぁお茶引きにはならない程度には客をつけてくれる。これは指名をしない初めての客の場合ね。自分を指名してくれる客が何十人にもなったら・・・まぁそれは難しいことだけどさ、そうなればもうマネージャーには媚びなくてもいいんだけど・・・・なかなかねー。」




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