「艶 芯」

-その1-



 男と女が抱き合うのは寒いときがいいと思う。
相手の体温が心地よく感じられるし、微妙に火照ってきた女性の体温が 別な意味で男の性感を高めることもある。
 私はまだこの女性の本名さえも知らなかった。しかしそれは二人の間では 問題ではない。彼女はいわゆる風俗に勤める女性で、一度の離婚歴があり3 才の男児の母親であることしか知らない。
 年齢は29才と言うが、それが多少嘘なのかどうかも大して問題ではなく 彼女との出会いにも特別な事は何もない。たまたま私の指名した別の女性が 休みで、その替わりに部屋に現れたのが彼女だった。
 初めて店で彼女を見た時こんな関係になるとは予想もしなかった。
私にすれば、もっと若い女性を予想していたので期待はずれではあったが、  (次に指名しなければいい)
くらいの気持ちと、年かさの分こちらも気をつかわなくて済むと思った。
 身体を洗い、湯船につかる頃に彼女の身体に少し興味を覚えた。小柄で痩せ たその身体から、何か妖艶な色気が漂っている。肉付きは良くないのに、薄い 筈の身体は以外と柔らかく、弾力があった。
 ベッドに移り行為に移る前の気まずい時間。私は照明を暗くして欲しいと要求した。
 「恥ずかしい?」
と彼女は照明の調節をしながら悪戯っぽく聞いた。私はこの部屋が真っ暗には ならないと知っていた。
 「真っ暗にはならないよね」と聞く。少し考えてやおらベッドの上に立ち上が った彼女は電球に手を触れながら言った。
 「本当に・・・真っ暗がいいの?」
 「え、出来るの?」
私は驚いて尋ねた。
 「だって、電球を緩めれば・・ほら」
と彼女が電球をゆっくり回しながら、もう一方の手で、結わえた髪をふりほどいた。 彼女の乳房のシルエットは見えなくなった。
 目が慣れるまでの時間、今まであまり気にならなかった湯船の音、そしてほのかに 漂う彼女のコロンの香りが私の感覚を研ぎ澄ませていく。
 「私、真っ暗って初めてなんだけど」
 「客と?」
と聞いて、私はしまったと思った。この状況で客という無粋な言葉で彼女が仕事としての自覚を呼び起こすことになったのではないか・・・。

   「え、まさか。プライベートでもこんなに真っ暗は経験ないということよ。」
 「じゃあ俺が初体験ってこと。」
私は内心嬉しかった。その気持ちの変化が、自分を少し大胆にさせた。




NEXT


MAIN