「艶 芯」
-その6-
二度目の放出の後、私がシャワーを使う間も彼女はベッドの上に横になったまま
動かなかった。
彼女が起きあがる時、少しふらつくような素振りであったため私は貧血でも起こしているのかと思った。部屋の灯りを点け彼女の顔がこちらを向いた。その眼差しはとろんとして今し方まで寝ていた女が呼び起こされたようなあいまいな視線だった。
「どうしたの・・・」と私が尋ねると、彼女は少し照れたような顔で言う。
「え、どうもしてないよ。ただちょっと気持ちが良かっただけ・・・・。」
その時、私は初めて気が付いた。彼女は性交の後はこのような目になるのだ。それは長い
性交でしかも彼女が深い快感を味わった場合に限るのかもしれない。
その後、彼女自信の口から私生活についてかなり詳しく聞いた。
離婚後、決まった男はいない。客の中の幾人か彼女に結婚を迫っている男性がいること。
前夫がかなり生活が乱れていたため、多少の男性不信によりすぐに結婚は考えていない。
その結婚生活で多額の借金が出来てしまい仕方なくこの道に入ったこと、等々・・。
その話の内容より、彼女がそれを話すに従ってそれまでとは違ったごく普通の女性に見えてきたことに自分自身驚いていた。
やはり風俗に入る女性は特別な女だという観念に支配されていた自分を見たような気がしたからだ。
話の初めから終わりまでに、彼女のとろんとした目は多少の回復は見えたが、元のしっかりとした目線には最後まで戻らなかった。
約一ヶ月後、彼女に逢いに行った。
店は東京近郊の都市のいわゆる花街にあり、建物は4階建てになっている。
入り口はラブホテルのようでもあり、私にとっては多少赤面するような雰囲気である。
店に入るとすぐにカウンターがあり基本料金を支払う。
左側に待合室が有り、男がそこに案内する。
初めての客なら動悸が高くなりそうなくらい明るすぎる部屋ではあるが、私はすでに彼女との数分後の行為に思いを巡らせていた。
わずかな待ち時間と思ったが、15分ほど待たされてから店の男が要求もしない替わりのお茶を片手に慇懃な笑みと共に現れた。あと20分は待つ・・・という。
それはどういう事か、と言うとたった今、この瞬間に彼女が他の男に抱かれているということにほかならない。自分でも経験はある。行為が終了して、服を身につける時間は制限時間の中の最後5分くらいである。しかもシャワーはその前のほんの1、2分であわただしく流すだけである。終了15分前。それがどのような時間であるかは自分が一番知ってい
る。
やはり店の男が消えてから20分経っても何も起こらない。
わけもなく雑誌を見ながら、心の中で徐々に気持ちが萎れていくのを感じていた。
(今日は、帰るか)と思った頃に男が入って来て−5分後には部屋へ案内出来る−ことを必要以上に馬鹿丁寧に伝えると深々と頭を下げて出て行く。
俺は男に頭を下げて貰うために来たわけじゃない。こういう行為は気持ちが白けるだけだ
・・・と思う。
再度、店の男が現れ私にエレベーターに向かうよう指示をする。
エレベーターのドアは開いており、中に彼女らしい影があった。
私は俯いたまま、彼女のやや後方に立った。
やっとこの瞬間になった興奮を押さえ、軽い挨拶をしながら振り返った彼女と顔を合わせる。
その瞬間、私の身体に一瞬鳥肌が立った。
そこには、あの朦朧としたまるで夢見心地のような目線があった。
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