灯
この街には二種類の人がいる。
だます人と、だまされる人。
待ち合わせをしたバーの前で、友人が女の人に呼びとめられた。
貧しい汚れた身なりをしたその人は、何事かを一生懸命友人に話しかけている。
また、それを律儀に聞いている友人。
僕は、ははぁ、と思ったが、黙って見ていることにした。
しばらくすると、友人はスーツのポケットをまさぐりだした。
そして何枚かの紙幣をふたつに折って、女の人に差し出した。
女の人は、嬉しそうに何度も頭を下げながら夜の街に消えていった。
ドアが開いて、店に入ってきた友人と目が合ったとき、僕は笑いをかみ殺しながら言った。
「よお、だまされたな。」
「・・・?」
カウンターのなかでは、バーテンが彼の分のグラスを用意している。
「今の人、病気の子供がいるって言っただろ。」
友人は不思議そうな顔で頷いた。
「あれ、嘘なんだ。」
友人の目が大きく見開いた。
バーテンが無表情で友人の前にグラスを置く。
氷がカラン、と音をたてた。
すると、友人は微笑んだ。
「よかった。」
僕は驚いて、口に持っていきかけたグラスの手を止めた。
かたわらの友人は、手に持ったグラスの氷を見つめながらホッとしたような顔をしてつぶやいた。
「病気の子供はいないんだ・・・。」
そんな友人につられて、僕の唇からも微笑がこぼれた。
ふたつのグラスが小気味よい音をたてる。
深いところに、灯がともった。