ドリー夢小説
てっきりウチの学校は自由にバイトできるものだと思ってたのに。
だってなっちんはバーガーやさん、姫条くんはガソリンスタンドでしょ。志穂だってお花屋さんで
バイトしてる。
だからね。申請書があるなんて、知らなかったのよ。
「先生、あたしバイトしようと思ってるんです」
お買物にいくと、いつも足を向けてしまうかわいい雑貨屋さんで、バイトを募集しているとメールがきた。
以前天之橋さんに連れていってもらったこともある。それは雑貨屋シモンが、天之橋さんの友人で有名
なデザイナーでもある花椿さんが店長を勤めていたからでもある。
花椿さんはおもしろい人だし、さすがにデザイナーだけあってセンスがずば抜けてると思う。
雑貨屋シモンに並ぶ商品はすごくかわいくてみんなほしくなっちゃうもの。
だからあたしは思いもかけないメールに、即雑貨屋シモンに電話をして火曜日と木曜日お店に行くことを
決めてしまった。
氷室学級のエースとして勉強もがんばる。吹奏楽部でもがんばる。
来年こそは!!来年こそは振り袖を購入して先生と初詣に行きたいの!!
そのためにはがんばる。死ぬ気で。
「先生!氷室先生!」
「、これから下校か?」
「はい!先生も今帰るところですか?」
「ああ。私の車に乗っていくといい。家まで送る」
「ありがとうございます」
毎日先生と一緒に帰れたらいいのに。
毎日そう思いながら、時間をつぶすために図書室で勉強したり、遅くまでフルートの練習をして・・
先生が帰る時間を狙って。
でも実際この校門で先生に会える確立って低いから。
だから今日はらっきー!嬉しい!
「先生?今日天之橋さんに聞いたんですけど・・・」
「天之橋さん?・・・・ああ、理事長か」
君は理事長をそう呼んでいるのか。
先生が切れ長の目をこちらに向けて、言った。
「え?は、はい・・・その、理事長に聞いたんです。はば校って、アルバイトをするのに申請書が
必要なんですね。氷室先生に言えばいただけるって聞いたんです」
「・・・アルバイト?君が?」
「はい。明日学校でいただけたらと思って」
先生は少し眉を寄せて考えこんでいる。
あれ〜????天之橋さんはアルバイトで見分を広めるのもいいかもしれないね、なんて言ってくれたのに
〜・・・もしかしてからかわれた?ほんとは禁止されてる?
そんなことないよね。
「君は、氷室学級のエースとして、我が吹奏楽部の私の片腕として大変努力しているし少なからず
結果も残している。その君にアルバイトをする時間があるのか?」
さすが先生。ずばり私も不安なところをついてくる。
「大丈夫ですよ。毎週火曜日と木曜日の2日だけですし」
日曜日は、あいてるんです。
先生のために。
いつ先生が社会勉強に誘ってくれてもいいように、準備は万全です。
「それに、今のうちに社会にふれておくのもいいと思うんです。自分で働いて、お給料をもらいたいんです」
そのお給料は振り袖のためのお金なんですけどね。
「それは・・・。貴重な経験であるとは思う。しかし・・・・・・まあ君からそのような話が出た以上
私も学校の方針に従わないわけにもいかない」
これみよがしな溜め息をついた先生は
「明日の朝、職員室に申請書をとりにきなさい。用意しておく」
「ありがとうございます、先生」
大好きな先生の横顔。しかし先生はいまいち渋い顔をしている。
そんなに心配しなくても大丈夫なのに。
「おはようございますせんせぇ!!」
朝一番から先生に会える用事があるなんて今日はなんていい日なの!!
「おはよう。朝から元気だな」
細い目をさらに細めた先生の皮肉。
でも先生の口元は薄く笑っているし、向けられた先生の目だって優しい。
「元気ですよ!氷室先生!」
さりげなく、勢いで先生の肩に触れたり。
申請書を差し出す先生と、指が触れ合ったり。
それだけで、もうドキドキ。
「・・・これが申請書だ。しっかり記入して提出するように」
先生はオトナだから、気にならないのかな。
私の顔、赤くなってないといいけど。
「はい。ありがとうございます」
私は先生から申請書を受け取って、名残惜しいけど、職員室をあとにした。
「なっちん。あたしバイトすることにしたの」
「バイト?バイトするなら一緒にウイニングバーガーでやろーよ!!」
そうそう。なっちんと一緒ならきっと楽しい。でもねー
「ううん。あたし雑貨屋シモンのバイトに応募したの。実はもう決まっちゃってるんだ」
「雑貨屋シモンーーー?・・・あのおかまの店長の店かー」
「あれ?なっちんよく知ってんね」
ちっちっち
と、なっちんはあたしの目の前で人差し指をふる。
「あたしの情報網をもってすればこのくらい。それよりこそよく知ってたじゃない」
「あ、あたしは理事長に聞いたの。理事長のお友達なんだって」
「へーえー。あのダンディにねー。あの理事長も年考えろってゆーのよねー!!}
「年?どうして?」
「・・・・は鈍いし。あたしも大変だわよー!!」
なっちんはチャイムにも負けない声で叫びながら自分の教室に帰っていってしまう。
「あたし、鈍い?」
そっと、小さな声で言ったはずの独り言に返事があった。
「鋭いとはいえないだろうな。早く席につきなさい」
きゃあ!
「はっはい!」
次は氷室先生の授業だった!!
「先生できました!!」
雑貨屋シモンの住所と電話番号。あらかじめ送られてきていた就労条件のかかれた契約書の写し。
これで先生に受理してもらえば、バイトをはじめられるんだよね。
放課後、職員室ではんこを持って待っていてくれた先生に書類を提出する。
「・・・・・・・よろしい。君のアルバイト申請は受理された。次週より雑貨屋シモンでアルバイトを
することを許可する」
「ありがとうございます先生!」
「がんばりなさい」
先生の一言が嬉しい。肩に置かれた手の重みに、励まされる。
そしてまたドキドキしてあたしは、少しうつむいてしまうのです。
********************************************
普段の自分なら、ピアノは精神を落ち着かせることのできる効果があることを
証明できただろう。
しかし。今ピアノを奏でるこの瞬間にも、私は別のことを考えている。
そして、今私の心は落ち着かない。
「・・・やはり、理事長に逆らうことになってでも、彼女のアルバイトを阻止するべきだったのでは
ないだろうか」
実際、高校在学中に経済社会に接することの利点は理解できる。
自分の適性を見出し、進路の選択を合理的に行うことができる者もいるだろう。
しかし・・・人間には向き不向き、個人差というものが存在する。
自分の適性を見抜く力などまだ、ない者もいるということだ。
しかも彼女は、世間一般から見てもうっかりものの類だ。これは間違いない。
おそらく世間の厳しさを思い知らされ打ちのめされ、無神経な客の悪態に傷つき彼女は、
自分を社会の落伍者だと決め付けてしまうかもしれないのではないか・・・
バンッ!!
ピアノが大きな音をたて、はっとする。
「・・・うかつだった。なんとかしなければ。しかし一体どうすれば・・・」
とにかく今私にできることは・・・雑貨屋シモンへ向かうことだけだ。
あわただしく駐車場に向かう私に、懐疑の目をむける同僚をやりすごし君の元へ急ぐ。
「雑貨屋で才能を見出せないからといって自分を見誤る君ではないことは知っている。
君にはすばらしいところがいくらでもある。料理は上手い、手先も器用だ。
フルートの腕前も最近随分上達した。足も速い。それに・・・容姿のことを言明するのは
教師として・・・問題があるかもしれないが、君は、可愛い」
健康的で、笑顔が似合う、いや。
そういう問題ではない。そうだ。私が行くまで、がんばるんだ。
負けるな。
はあ・はあ・・・
こんなに走ったのは何年ぶりだろうか。
「ここだな」
彼女は私の姿を見つけると驚いて側に駆け寄ってくる。
「どうしたんですか!先生!」
かわいらしいエプロンが目を惹いた。
「いやなに。なにか、問題は発生していないだろうな」
「問題、ですか?なにも問題はないですよ?」
首をかしげる君も・・・・・・いやだから、そうじゃないだろう。
「そ、それならばよろしい。大変結構」
「先生・・・私のこと心配して見に来てくださったんですか?」
彼女の頬が薄く色づく。
「ただの、買物だ」
君の望む答えを私は持っている。しかしそれを今口にすることは憚られた。
「何をお求めですか?」
次の瞬間には立ち直った君に、つい、その・・口が滑ったのだ。
「君を」
 |