ドリー夢小説
「昼食は何か希望はあるのか?」
最近回数が格段に増えた“社会科見学”中に氷室はにそう問いた。普段は決められた食事、と
言うより栄養を摂取している氷室だったが、流石に彼女にまでそれを強要する事が出来ず、
特に好みの無い氷室は毎回の如くこう問う羽目になる。
「先生は何か食べたい物ってないの?」
これも毎回のやり取りだったが、氷室は本当に何もないのである。こうしてと二人きりで
出かけるようになってから食事と言うものが楽しいモノなのだと気付いたくらいで、
だったら彼女の好みの食べ物を選んだ方が氷室的にも良いのであった。
「特に無い。いつも言ってると思うが本当にの好みで構わない。」
「・・・。」
そう言われて昼食のメニューでも考えているのか、は無言のまま流れる景色を見ていた。
別に今更遠慮をする少女でもない事を知っていたから、氷室もそのままの答えを待った。
は太る、太ると言いながら、とても楽しげに食べ物を平らげてしまう。
そんなゆうこを見て氷室もつられていつも以上に食事を摂ってしまうのだった。
氷室はそんな自分に苦笑し、信号が赤のなのを認識し、愛車を停止させた。
「そこで食べたいのはオマエvvとか言ってくれたら最高なのに・・・。」
ーガンっ!
の発言にそのままハンドルに頭を打ち突ける氷室。今回は慌てる間も無くの反応だった。
はこの氷室の反応に満足していたが、表面上は何事もなかったかのように前を向いていた。
「あ、ほら、青になったよ。」
回数を増やしていく“社会科見学”に比例して、氷室 零一と言う男を知っていったは、
しっかりとこの言葉を言うタイミングを計って黙っていのだ。車が停止した状況じゃなかったら自分の
命も危ない。このまま氷室と一緒に命を落とすのも楽しいかもしれないが、これから先の色々な
氷室と過ごせる可能性を考えたら勿体無くて出来ない。
「コホン、で、何にするのだ?」
の言葉にしっかりと反応して愛車を発進してから氷室は口を開いた。あまりの反応をしてしまった
自分を恥じてか、に何を言ってもしょうがないと悟ってか、の発言は無視をした。
「えーと・・・、ココ真っ直ぐ行ったら陸橋だよね?」
「ああ、そうだが。」
「じゃ、ラーメン♪」
も氷室の反応が見れただけで良かったのか、無視をした氷室にそれ以上の追求をしなかった。
「ラーメン?」
「そ、食べた事ある?」
は氷室と食事を摂る事が多くなってから、言った食べ物の殆どが始めて食べると言われるので
最近では先に聞くようになっていた。ハッキリ言って変な人だ・・・と思っているだったが
氷室の初めて食べる物を食べる時に自分と一緒だという事が嬉しかったりもしていた。
「ああ。高校時代に喰わされた事がある。」
その言葉に初めてではないのかとがっかりもしたが“喰わされた”という所で、あるコトに気付いた。
「喰わされたって、もしかしてマスター?」
「そうだ。」
氷室がこんな言葉遣いで喋る時の対象と言えば、彼の幼い頃からの友人である男しかいない。
は案の定当てて嬉しかったのか、それとも話題に登ったのか男で嬉しかったのか得意げだった。
「やっぱり〜♪で、美味しかった?」
「不味くはなかったと記憶している。何でもアイツのお気に入りの店だそうだったからな。」
それを聞いて、の顔はまた輝く。
「ホント!?あ、陸橋の所右ね。今から行こうと思っている所もマスターに聞いたんだよ♪
でも、コッテリ系だって言ってたからどうかなぁって思ったんだ。それなら平気だねっ♪」
ルンルンと後ろから効果音が流れてきそうな勢いで、は助手席で前を見つめている。
店の場所を知らない氷室に前もって先導するつもりのようだ。
頭の回転は早い彼女らしく、こう言う時の指示は段階を踏んで前もって言ってくれるので、
運転をする氷室にとってもとてもやり易かった。勿論、無駄な話も多いが。
「好きなのか?」
「ラーメン?好きだよvv」
常に食べる事が好きなはメニューを決めるのが楽しそうだったが、何時にも増してご機嫌な
彼女にそんな気がして聞いたのだ。氷室的には案の定、とまではいかない質問だが、
彼女の好みを当てた事については素直に嬉しかった。
「食べ歩きとまでは行かなくても近場は制覇してるし、マスターにも教えてあげたんだよ。」
いつの間にか仲良くなっていると友人は、とても気が合うらしく氷室がいても二人で
ふざけている事が多い。しかも最近では、友人の開店前の準備を手伝いに来たとか言いながら、
結果的には一人で遊びに来る事もあると友人から聞かされていた。
「昔から食べ歩きとかしょうもない事が好きだったからな、アイツは。」
友人を思い浮かべてややイラつき気味にそう言うと、
「もー、先生の方が“しょうもない”だよ。食べる事って動物の三大欲求の一つだよ?
それを求めて歩くんだから、マスターの方が正しいって。先生が変なの。あんな食生活。」
と、は友人を擁護する方に回った。
「私は動物ではないし、必要な栄養素は摂取している。」
「栄養は摂っているかもしれないけど“おいしいもの”っていうのがポイントなんだよ。
だって普通、若い柔らかい草から食べていくでしょ?“おいしいもの”を優先するようになって
いるんだよ。肉食動物だって、だから狩りをするんじゃないのかな?ただ食べるだけなら
死体でも捜していた方が安全じゃない。」
「その論理は別にして私は動物ではないのだが。」
のただの世間話の延長上のような話を論理と位置付けて氷室は言う。にとっては完全なる
“世間話”なのだが、氷室は“論理”ととるのでこの辺りの会話をする時にはがぜん口数が多くなる
のだが、今はそれ所ではなく“動物”扱いをされている事が問題らしい。
「人間だって動物。でも、そんなに気にかかるなら生命って言い換えるよ。」
それに対しはサラッとそう言って笑った。私だって動物よ、と言わんばかりに。
「ああ。だが、何頭いると思っているんだ?肉食動物が。死体だけでは賄い切らないだろう。」
「そりゃぁね。だけど弱い動物まで狩りをしなくても良いじゃない。死体を漁る動物だって
いるけど絶対的に狩りをしている方が多いでしょ?鮮度落ちるとマズいじゃん。だからだよ。」
「…そう言う問題か…?まぁ、良い。だがその死体が老衰等ではない確率の方が多くはないか?
病気で死んだものの体なんか食してはそれこそ問題外じゃないか。」
“美味しいモノを求める”のは当然の原理だと言い切るに氷室はどうしても納得がいかなかった。
これまでそんな欲求があった事はなかったし、またそんな事はどうでも良い事だと思っていたからだ。
「そうだよ。だから“美味しいモノ”を求めるようになっているんじゃない。動物って食料を得る為に
進化を続けているんでしょ?だったら病原体に対抗するように進化していった動物がもっといっぱい
居たって良いじゃない。姿かたち変えるより楽じゃない?元々抗体っていうのもあるんだし。」
危険を冒してまで美味しいモノが食べたかったんだよ♪、間違いないとばかりに言って笑う。
彼女の言う事は突飛な事が多いが妙な所で理論だったコトを言う。が、その考えは理論とは言いがたい
所から出てきている。だから氷室ですら納得をさせられるような事を言う事があるのだが、
その締めくくりは今のように小学生以下の話になってしまうのだった。
「おっとぉ、あそこだね☆約60メートル進行方向右!!」
話しながらも前だけは気に止めていたようで店を発見して嬉しそうに氷室に笑った。
「はい。本当に大丈夫?」
森林公園のとある木陰。そこに寝そべる氷室に買ってきたミネラルウォーターを渡しては
氷室を覗き込むように隣に腰掛けた。
「・・・ああ。」
声にも体にも力はなく氷室はそう答える。そんな氷室の様子には小さく溜め息を付く。
「嘘はいけないと思います。」
“仮にも教師の人間が”という無駄口を、辛そうな氷室を前に流石に隠してはそう言った。
そして水を飲む為に起き上がった氷室を支える。嘘だった事には変わり無かった氷室は何も言う事が
出来ずにペットボトルに口を付けた。一口飲んでそのまま黙って前に広がる景色を眺める。
「ふふっ。最高でしょ、ココ?景色が綺麗でしかも人気がない☆珪に教わったんだ。」
一を言わずとも十を返すに、好意を持っているのは確かな氷室だったが、コレだけは好きには
なれなかった。学校外、そう、何処に行ってもに纏わり付くのは自分ではない男だった。
いくら“社会科見学”と言っても流石に教師である自分と二人きりで出かけた先の事など喋る事は
ないだろうから、の周りに自分と言う存在を知らしめる事は出来ない。
「寝る。」
は突然そう言って氷室の横に寝転がって目を瞑る。それを見て今度は氷室が溜め息を付いた。
正直な話、現状ではに凄く迷惑をかけている常態なので氷室はこれは彼女なりの優しさなのだろう
と思った。と友人の薦めるラーメン屋で昼食を摂ったあと、氷室の体調が悪くなり出したのだ。
理由は簡単だった。胃がもたれたのである。確かに友人の言う通りラーメンは美味しかったのだが、
かなりのこってりとしたもので普段からそう言ったモノを一切摂らない氷室の胃にはダメージを与える
のに充分だったのだ。そして明らかに体調が悪くなっていた氷室に気付いてが今日は帰ろうと
言ったのを嫌だと言ったのも氷室であった。
「。」
「んー?」
氷室はすっかり寝てしまったのだと思い普段呼んでいない名前を呼んだのだったが、は
起きていたようで目を軽く開けて答える。
「起きていたのか。」
決まりの悪そうな顔をして氷室は返す。そんな氷室の様子には綺麗に笑った。
「起きてたよ。何となく先生が寝るまで寝ちゃダメかなって。」
「何なんだ、それは。まったく君の言う事は脈絡と言うものがない。」
周りの雰囲気がそうさせているのか昼のハンドルに頭をぶつけた氷室とは違い穏やかにそう言う。
「そうだね。」
クスッと笑っては簡単に答えた。気まぐれに二人の間を通り抜ける風が心地良かった。
「解かったよ。」
―――――君の名前を呼んだ時に。
「何が?」
「ああコレでは私も脈絡がなかったな。」
―――――思いたった言葉をそのまま口にするのも良いかもしれない。
「そうだよ。」
「そうだな。」
―――――何々?と言いた気な君の表情が楽しいから。
「で?何が解かったの?」
「昼に君が言っていた事だ。“美味しいもの”を求める欲求があると。」
―――――気付いたら、君の言っている事が実に正しいと思った。
「ホント?良かったじゃん!!で、何?先生の美味しいものって。」
彼女にとっては当たり前の流れだったのだが、氷室にとっては厄介なものだった。
彼にとっては答え難いものだったからだ。
「・・・うっ・・“美味しいもの”かと聞かれると、違うものかと思うのだが・・・。」
「あ、そうなの?何でも良いよ。氷室 零一さんの“欲しいもの”を教えてよ。」
答えなくて済むものなら済ましてしまいたい氷室だったが、言葉を濁した所為でゆうこの興味を
掻きたてたようで、眠そうだった目をパッチリと開けて氷室の目を覗き込んだ。
「・・・その・・君との空間だ。」
「クウカン?」
「そうだ。ハッキリ言って君の行動も言動も理解できないし、考えさせられる事も多い。
全体的に見ても私にとってはマイナス要因が多い。しかし私は と言う存在を
求めているらしい。言うなれば君の言ったように死体を食べる為に進化するという便利性を無視して
“美味しいもの”を求めてしまった動物達のように。」
穏やかだった二人の空気を壊してしまうかのような氷室の動揺ぶりだったが、の間の抜けた声と表情が
その空気を保った。そのお陰で氷室は落ち着きを取り戻して講義をしているかのようにそう言った。
「レイイチさん・・・さらっと凄いコト言うの止めてくれません?」
「それは照れているのか?」
流石に自分がどんな事を言っている氷室だったが、何時もは自分をからかって楽しむが顔を赤らめて
恨めしそうに睨んでくる様が面白くて何事でもなかったかのようににそう言う事が出来た。
「照れて・・・いるんだと思いますよ。取り合えずマイナス要因もなくなるように頑張りますから
これからも宜しくお願い致します、ですかね。」
これ以上にに頑張られた結果に軽く恐怖を感じながらも氷室はその事にはを黙って微笑むに留まった。
が、照れ隠しの為かお願いする為か、深深と頭を下げていたにはその表情を見ることは出来なかった。
「・・・せんせ、アナタの求めているって言っていた存在である私が、頑張ってお昼作って来ますから
今度、デートに誘って下さいよ。」
充分、デートの域に入る行動を朝から続けているのに、“社会科見学”だと言張る氷室には
彼女にとっては切実な願いであったが世間話の延長のように事も無げにそう言った。
それはもう一つの切実な願いであるこの場の雰囲気を壊したくなかったのと、氷室にNOと言わせる
隙を作ってあげる為でもあった。 の気遣いに気付きながらも、氷室は黙って目の前に広がる
ポツポツと池に浮かぶボートを眺めていた。それに習っても池に浮かぶボートを黙って目で追う。
「君も、デートと言えばアレか?」
最近はにもジャズバーでマスターをやっている友人と喋る時のように“アレ”とか“ソレ”とか
固有の名詞を使わなくても代用できる言葉を当たり前の様に使って氷室は会話をしている。
今回の“アレ”は池に浮かぶボートで戯れるであろう恋人達の事である。であろう、となるのは二人の
居る位置からは遠すぎて正確には見えないからだ。
「ん〜〜そうかも。」
は暫く唸ってそう答えた。確かに定番は定番で自身も憧れの場面ではあろうが、氷室と、
と言うものを付けてしまうと人目に付いてしまって無理なのも確かなので考え込んでしまったのだ。
は別に良いじゃん、の一言だが、氷室にとってはそうはいかない事を理解出来ないほど馬鹿では
なかったからだ。そして今は氷室からしか誘って欲しくない。
「でも、ココもデートと言えば、ですよ。」
「何処がだ?」
ニッコリ笑って言い切るに、氷室は訳が解からないとばかりに聞いた。
今、二人のいる位置は恋人達が戯れる場所からは互いが見えないほどに遠い。
「ボートも良いけど、ボートに乗っていたらこんなに輝く池は見られないよ。充分キレーじゃん。
ボートに乗ってても綺麗な景色だろうけど、この景色はココからしか見れないよ。」
ボートではなく太陽の光に反射して、きらきらと輝いている池を見てはそう言った。
少し寝そべって見ると、光が凄すぎてボートは見えなかった。辺り一面の輝き。
確かにこれはココでしか見れないモノであろう。
「では、今度はココでの作った弁当で昼食を摂ろう。」
氷室はきらきらと輝く景色を見ながらそう言って黙った。“社会科見学”とは言っていなかったが、
“デート”とも言わなかった。しかし氷室にとってはコレがに対する最大限のデートへの
誘い文句であった。それが解からない彼女ではあろうが、ダメな時はこれ以上は言葉を見付けられない。
「・・・はい。」
しかしは周りの景色よりも輝かんばかりの笑顔でそう小さく答えたので、
氷室は言葉を捜す必要すらなくなった。
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