honmei
「あ、遙くん。今帰りかい?」
「ええ。・・・・樹くんもなの?」
遙の少し残念そうな顔。
樹は見て見ぬふりをした。
「あら?久遠は一緒じゃないの?」
「いや?久遠は先に帰ったよ。・・・妹とはいえそういつも一緒に
いるわけではないよ」
「そう・・・・乗っていく?」
どうか他に用事があるといって。
せっかくの綾人といい雰囲気のバレンタイン。
思いがけない二人きりの帰り道だったのに・・・
「いいのかい?・・あれ?あれは・・」
しまった。
という表情で顔を見合わせた樹と遥。
明らかに樹に贈ったものと違う手作りチョコレートを見られた遥と、
明らかに自分が贈られたものと違う手作りチョコレートを手にする綾人を見つけてしまった樹。
少し離れたところで遥の車を待つ綾人はそれに気づかない。
「・・・バレンタイン、だもんね」
「え、ええ」
「ありがとう。昼間にもらったチョコレート、食べたよ。おいしかった」
どっどうしてそんな大きな声で・・綾人に聞こえちゃうじゃない!
遥の心の声を無視するように樹は続ける。
「お返しは、期待しててね」
「あ、うん・・ありがと・・でもそんなに気を使わないでね」
きっと聞こえてる。
だって綾人、こっちに気づいて歩いてきちゃった・・
「こんにちわ。樹先生。今帰りですか?」
「ああ。ご一緒させてもらってもいいかい?」
「ええ・・って言っても遥さんの車だから」
「あら?みんなそろってどうしたの?」
「あら、小夜子も帰り?」
車のキーを手に、近づいてくる華やかなスーツ。
「ええ。どうしたの?みんなでこんなところで」
「いえ、今から帰ろうかなーって行ってたところ」
「そう。樹先生よろしかったら私の車に乗っていかれません?・・方向も一緒ですし」
そうよ、その調子よ!小夜子!
「あ、ああ」
「そうよー樹くん。ほら、小夜子の車のほうが早いし!」
遥の見え見えな態度に、それでも遥の車がいいと思う反面、ここで小夜子の申し入れを断れば
どうなるかも見えている樹に、断るという選択肢はなかった。
「・・・・・・・そうだね。ありがとう小夜子くん。お言葉に甘えようかな」
「はい!じゃあね、遥、綾人くん」
「じゃあね、小夜子、樹くん」
「さようなら、小夜子さん、樹先生」
遥、抑えるのよ。
露骨によろこんではだめ。
そう思ってはいても綾人の目を奪うのは、明らかに目をきらきらさせ喜びを表現する遥。
「・・どう、したの?」
もしかして、もしかしたら・・
やっぱり・・
「うんん。なんでもない。帰りましょうか」
「うん」
これって・・本命チョコ、なのかも・・・・・
「お夕飯、なんにしようか」
・・でも、さっき樹さんにもあげたような話、してたよね・・・
「魚、がいいな」
・・・お返し、期待してて、って言ってた。
「魚かあー。焼き魚にするか、煮魚にするか・・刺し身っていうてもあるわよね」
もし、もしも遥さんがくれたチョコが本命・・で、本命チョコってのは一つだけでそれ以外が義理だとしたら。
多分、きっとそうなんだろうけど・・・
もし、そうだとしたら・・
ぼくができることは、
「遥さん、チョコレートありがと。お返し・・・・楽しみにしててね」
ぼくからの贈り物。
いつもいつも遥さんには贈られてばかりだし。
ぼくも特別をあなたに贈りたい。
君の、驚く顔が、見たい。
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