koigokoro
「遥さんっ、遥さんってば」
綾人の目の前を突進するように前進する遥。
「ちょっと待ってよ。なんで怒ってんの?ねえっ!」
思い当たらないのは綾人が子供だからではないと彼自身自負している。
遥がすぐに怒りすぎるのだ。
まあ、普段はやさしいんだけど。
「はーるーかーさんっ!」
背の高さだって足のリーチだって綾人は負けていないはずだった。
なのにどうして追いつけないんだ?
「綾人くん。もうすぐ検診の時間でしょ」
遥の低い声に、そうだったと思い出す。
「あー・・・・忘れてた」
「じゃあね」
足をとめた綾人に、一緒に立ち止まった遥はまた歩き出す。
綾人を残して。
「ちょっと待って!」
「・・・・なあに」
ほんの少しの期待を持って、遥は振りかえる。
女の子にへらへらして、かわいがられて、喜んでる綾人なんか見たくない。
そんな遥の気持ちを、少しでも分かってくれたのか?
「そういえばさあ、検診で思い出したんだけど・・どうしてこの間・・・樹さんと、その・・」
遥の頭の中は”やぶへびだった”の一言でいっぱいだった・・・・
「キス・・・してたの」
うつむいた綾人の表情は遥には読み取れない。
怒っているのか、あきれているのか、それともただの興味で聞いただけなのか。
「ああ、あれ?あれはほら、樹がふざけて・・」
「ふざけて?キスするの?大人って・・汚いんだな」
「ああ〜・・・・」
一瞬にして立場逆転。遥が言いよどむ。
「あれは・・」
「あれは?」
「あれは〜・・・・・」
「・・・・ねえ、遥さん。ぼくが誰かにふざけてキスしたら怒る?」
「あたりまえでしょ!」
したの?!誰かに!
遥は思ってることがすぐ顔にでる。
「遥さんに怒る権利があるなら・・・ぼくだってあると思うんだけど」
「え?」
・・・・・
「じゃあ・・・ぼく検診に行ってくるから」
・・
呆けた遥を残して。
足音はだんだん小さくなりやがて消えた。
「ヤキモチ・・・やいてくれたの?綾人・・」
自分のヤキモチを棚にあげて・・・いや、もうすっかり忘れて遥は、
「なにしてんの?お姉ちゃん」と呆れ顔の恵に声をかけられるまでそこにたたずんでいた。
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