「・・・ん?」
「どうかしたんですか?」
白と黒のモノトーンカラーで統一した私の部屋。
彼女が家に出入りするようになって華やいだ雰囲気を醸し出すようになったのは気のせいか。
いや、彼女との写真。彼女が持ってくる生け花。彼女に似合うかわいらしい花瓶。
それらが私の部屋を、空間を、変えてゆく。
それが、最近とても心地よい。
「いや・・・今ムスクの香りがしたような気がしたのだが」
「あ!・・」
「君が?」
「あの・・・お嫌いでしたか?ムスク・・・」
彼女がその白い手首に顔を近づけている。
香水?
「君の・・・香水か?」
「は、はい」
大学に進学してからの彼女は、一気に大人になった、ように見える。
濡れたようにひかる唇、上をむく長いまつげ、うすくひかれたアイライン・・・
それらは彼女の愛らしさをひきたて、ほのかに香るムスクは・・・男を惑わせる。
「いや・・・少し驚いただけだ。近頃君が・・・ずいぶん大人びて見える」
ムスクの香りが、似合う女性に。
「本当ですか?!嬉しい!」
彼女がとびはねる。
大人に近づくということが、嬉しいことなのか?いや、喜ばしくないと思っているのは、私だ。
彼女がどんどん・・・私の手から離れていくような気がして。
「大学生になったとはいえ、華美な服装、装飾はひかえるように」
「・・・はい」
思わず口をついて出た言葉。うなだれる彼女。
「いやその・・・ムスクの香りは、私も好きだ。顔を、あげてくれないか」
「・・・零一、さん」
泣いてはいなかった。それでもまだ不安げな彼女のその顔を、なでる。
このあとくるだろう期待に彼女の目がふせられた。
「君を、他の男に見せたくないと思うことが・・・たびたびある。
そんな魅力的に、ならないでくれ」
「・・・私が気合いれておしゃれするの、零一さんと会う時だけですよ」
彼女は目をふせたままクスリと笑った。
「これからも、そうしてくれ」
そういって私は彼女の柔らかい唇に、キスをした。
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