ドリー夢小説
「せん、零一、さん」
まだ呼びなれない恋人の名前。
「あたし、あしたから冬休みなんです。それで・・・」
今日は週末。明日はあたしも先生も休みだから、今日はお泊り。
少し帰りが遅くなったあたしを先生が大学まで車で迎えに来てくれた。
冷やかされたけど嬉しい。だって隠さなくていいんだもの。先生が好きだってこと。
「早いな。もうそんな時期か」
零一さんはネクタイをとりながら背中を向けている。
キッチンのむこうの部屋は大きな窓から寒そうな空を映している。
零一さんの許可をえてあたしはキッチンでお湯を沸かしてコーヒーの準備。
今でも続けている喫茶店でのアルバイト。高校生のときから先生はよく飲みに来てくれていたから
きっとコーヒーが好きなんだと思う。
きれいなキッチン。一人でたって零一さんに声をかけてる自分がなんだか新婚さんみたい、なんてね。
白い壁。白い冷蔵庫。白いトースター。白いダストボックスに白い
ごみが・・・あれ?
「・・・・・もしかして」
まんがとかテレビでしか見たことないけどこれって・・・・イヤな予感・・・・・
手に取ったそれはA4サイズの見開きになっている。外側には凝った装飾。表は真っ白で中から
赤い布地が覗くそれは・・・・・・
「お見合い・・・・写真・・?」
恐る恐る開くとそこには予想通り着物を着て着飾った女性の写真。
細面の、美人さんの、写真・・・・・・・・
「・・・・・お見合い・・・・」
あたし・・・どうしよう。
あたしがあんまり子供だから・・・だから、結婚なんて考えられないってこと?
結婚と恋は違うって、こと?それとも零一さんはこれからお見合いをして恋をするの?
「、どうした?」
零一さんの声に一気に現実に引き戻されたあたしの耳に入ってきたのはお湯が沸いたやかんの
ぴーーーーっていうやかましい音!
「あっ・・・あつっ・・」
あわてて写真を戻して火を止める。
「大丈夫か?」
ふきこぼれたお湯に悲鳴をあげたあたしの背後から大きな手が現れてあたしの手をつかんだ。
「まったく君は少し目を離すと・・・」
ずっと、あたしのことだけを見ていて欲しい。
あたしがもう少し、大人になって、零一さんのお嫁さんとして釣り合う人間になるまで、
零一さんから見てあたしが結婚相手としてみれるくらい大人になるまで、待っててほしい。
まだ、待っててくれますか?
それとももう遅いの?
「、顔色悪いよ?本当に大丈夫?」
なっちんの心配してくれるのは嬉しい。私もなにを意地になってるんだ、って思うけど・・
本当はすごく零一さんに電話したい。声を聞きたい。それに・・・気になる。お見合いのこと。
「もーーー!大丈夫!ヒムロッチはあんたにあ〜んなにメロメロだもん。しかもそれ!捨ててあった
んでしょ?断ってるって今ごろ〜!!」
零一さんの家でお見合い写真を見つけたのはちょうど1週間前の金曜日。
本当は今日からのなっちんたちとのスキー旅行のことも話そうと思ってた。
週末だったしゆっくりできると思ってたんだけど・・・
結局あたしのやけどは大したことなかったんだけど、あたしがなにに気を取られてたか、
零一さんにはすぐに分かったらしい。
ごみ箱の中のお見合い写真を一瞥して眉をよせると、
「これは捨てたものだ。気にするな」
気になるんです。
零一さんのその、見てしまったのか、っていう雰囲気もまた今のあたしには悪い方向にしか
考えられなくなっていて・・
「お見合い・・・・・するんですか?」
「・・・・・私はする気はない」
零一さんが自分からお見合いがしたくて写真がここにあるんじゃないってことくらい、わかってる。
「お見合い、すすめられてる・んですよね・・・」
「・・・何度も言わせるな。私にその気はない。以上。この話は終わりだ」
零一さんの少し苛立った表情。
あたしには関係ない。
そうなの?零一さん。
零一さんの取り巻く環境には結婚の2文字が現実として、当然のように生活の中にあった。
今のあたしの生活とは違う。
あたしには結婚なんて遠い将来の夢、みたいなもの。
だから、関係ないんですか?対象外、ってことですか?
「あの、来週・・」
この重い空気を笑い飛ばすだけの勇気はなくて、一気に居心地の悪さを感じたあたしは
とりあえず話したかったことだけ話して帰ろうと決め、そういいかけた。
「来週は・・・だめだ」
零一さんの渋い顔を見て、思い立つ。もしかしてもしかしてもしかして・・・
「来週は・・お見合いなんですか」
「・・・・・・・・・・親類の顔をたてるためだけの茶番だ。その気はないんだからな」
目の前で思い切りよくひかれたカーテンみたいに、零一さんの拒絶を感じた。
「。どうしてこんなに悩むんだったらそこで、行かないで、って言わなかったのよ」
「いやいやいやいや。ちゃんは悪くない。悪いのはあいつや」
わかってる。零一さんは悪くない。
なっちんは間違ってない。姫条くんのなぐさめの言葉に、自分が責められているように
思うのは自分が悪いってわかってるから。
「大体なあ、もういい年した教師がこーんなぴちぴちの女子大生と付き合ってるってこと自体
間違っとる!」
「姫条くんっ、前向いて前!」
結局あたしは零一さんにスキー旅行のことは言えなかった。
気まずい雰囲気のまま、帰りたい、といったあたしを零一さんは車で家まで送ってくれた。
車の中では会話もなくって、いつもあっという間についてしまう道のりがすごく長かった。
別れ際、零一さんは声を荒げたことを謝ってくれたけど・・・あたしが欲しい言葉はそんなんじゃなくて・・
「ちょっとまどか?ここにもぴちぴちの女子大生がいるんですけど?!」
「おまえの彼氏だってぴちぴちの男子大生やろ。おまえはええねん」
「男子大生って初めて聞いたよ」
零一さんに言えなかったこと、零一さんのお見合いのこと、ほんとはスキー旅行をキャンセルしちゃおう
かとも思ったけど、来て良かったみたいだ。
「珪くんはスキー得意?」
スキー旅行の話がしにくくなってしまった理由はもう一つ。
メンバーがなっちんと姫条くん、珪くんとあたしの4人だったこと。
きっと零一さんはいい顔しない。
今までも何度かそんなことがあったから。
どうして零一さんが珪くんのことをそんなに気にするのかわからない。
あたしたち、友達なのに。
「得意、でもない。転びはしないけど、その程度。お前は?」
「あたし?あたしはまだ数えるほどしか滑ったことないからなー。きっと転んじゃう」
もちろん泊まる部屋は女の子同士、男の子同士。
「あっまどかっ!そこ右右!」
「お前は・・はよ言えっちゅーねん」
毎日指折り数えてたのは、零一さんからの連絡がなくなってからの日々。零一さんに連絡をとらなくなって
からの日々。
少しの間でいい。零一さんのことを忘れて、お見合いのことも忘れて・・・・
「!それかわいいじゃん!いいなーやっぱあたしもそういうのにすればよかったかなー!」
あたしの白いウェアとなっちんの赤いウェア。
「なっちんだって似合ってる。すごくかわいいよ」
なっちんは毎年スキー旅行に行っているというだけあって使い慣れた、カラダにあったもの。
あたしは久し振りのスキーということでレンタルウェア。
「よっし準備完了!!白いゲレンデがあたしたちを待ってるよ!!」
「行こうなっちん!いざ白銀の海原へ!」
こんなにうきうきした気分はいつぶりだろう。
・・・って思ったら不覚にも今まで忘れていた零一さんをまた思い出してしまった。
零一さんとのデートの前日はいつでもうきうきしてるしどきどきしてる。
そうだ。携帯持っていった方がいいかな・・・でも・・連絡、きっとこないよね。
一週間、一度だってなかった。
「?」
「あっ!今いく!」
あたしはかばんに携帯を戻し、なっちんを追って走り出した。
リフトで上っては汗だくになって滑りまた上り、なっちんたちと競争しては転び、珪くんに助けられて
一緒に転んだ。
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