ドリー夢小説
やっと会議が終わったのはもう8時を回った頃だった。
外は雷雨。
顧問を受け持っている吹奏楽部には顔をだすこともできずただ毎年聞かされる修学旅行の注意事項。
9月。もうすぐまた修学旅行が実施される。
生徒にははじめてでも教師には毎年恒例のこと。
そして今年は・・・
「まったく・・・」
今年の夏、とうとう自制が聞かず生徒を連れ出し、くちづけた。
卒業まで、待つつもりだった。
それまで自分を抑制する自信はあった。
他の誰でもない、'氷室零一'の理性だ。自信はあった、はずだった。
しかし・・・会えない時間が、彼女の姿が見えない時間が長ければ長いほど、彼女と共に過ごす時間を求める自分がいる。
一緒に過ごせば過ごしたで、彼女の一挙一動に心を躍らせ、愛しいと思う感情がとめどなくあふれてしまう・・・。
その感情が、自分の理性を混乱させた。
彼女のすべてを自分のものにしたいと、思わせる。危険だと、頭の中で信号が点灯している。
それでも彼女と、時間を共にするのを、もう自分ではとめることができなかった・・・
あと1年・・・1年待てば果たして本当に彼女は自分のものになるのだろうか。
彼女の好意は自覚している。
しかし、11も年下の彼女のまわりには多くの男性を含む、友人がとりまいていることも知っている。
そんなことを考えながら氷室は車のドアをあけて乗り込む。
助手席に座って自分に笑いかける彼女の存在を一度認めてしまえば、隣に、その彼女の空気が感じられないことに多少ながら、寂しさを感じてしまう。
「錯覚だ」
自分が、寂しい、と感じる?信じられない。・・・信じられなかった。つい先日までは。
たった数分でもいい。錯覚でもいい。彼女を自分の・・・恋人だと、思える時間が欲しかった。
そう、最近は下校時に声をかけられると自分でも気持ちが高ぶるのがわかった。
仕方がない。
・・・いや。私は教師なのだ。会議にでる、それだけでこんなに腹立たしいわけがない。
たとえ部活動で彼女のがんばっている姿が見れずとも。
ゆっくりと滑り出した愛車だったがひどい雷雨に、ともすると視界がきえた。
「まいった・・・・・ん?」
人っ子一人いないと思っていた細い道に人影があった。
傘もさしていない。
そして・・・それがだとわかった瞬間、氷室は慌てて車をとめた。
「なにをしているっ」
傘をとるのももどかしく車を出たそのタイミングで、の目の前の路地から傘をもった男が飛び出してきた。
あれは・・・姫条。
の腕をひき、かさにいれ・・・しかしはいやいやをするように身をひいた。
「!・・・姫条!なにをしている!風邪をひくぞ」
「氷室・・・せんせー・・」
がどさっと私の胸に倒れこんだ。もう熱がでているのかもしれない。
「・・・、姫条、車で送っていく。乗りなさい」
なぜか、姫条の目が鋭く、私を睨むかのような視線をなげかける。
「ああ、俺は・・・これからちょっといくとこあんです。気にせんでください。・・ほらかさもあるし。それより・・、ちゃんと介抱したってくださいよ」
「君にいわれなくとも、そうするつもりだ。もう遅い時間だ。あまりこの雨の中ふらふらしないで家に帰りなさい。わかったな。」
「へいへい。じゃ」
とにかくを運ぶのが先決だ。
助手席をあけそっとよこたえた。
いつも笑顔でわたしを見るその頬は苦しそうに喘いでいる。
「少し、がまんしていろ」
雨で前が見えない上にタイヤがすべりやすい。慎重に、しかしすばやく正確に帰路につく必要がある。
マンションの鍵をあけ、とりあえず彼女をソファに運び鍵をしめた。
あとで親御さんに連絡をいれなくてはならない。
どれだけ雨に濡れたのだろう。
抱いた体がとても冷たくなっている。
まずは着替えをさせる必要がある。
ぬれたセーラー服から下着が透ける。
肌にぴったりと張りついた服をすべてを脱がせ、バスタオルで全身を覆う。
はやく暖める必要がある。
浴槽に水を溜める時間を惜しんでお湯を勢いよくそそぐ。<
ゆっくりと、それでも次第にたまっていくお湯を見ながら、自分がいかに焦っていたか思い知らされる。
冷静に。いつでも理知的に。そうして完璧な行動を見出すのだ。
「・・・」
荒かった吐息が幾分落ち着いてきた。
しかし呼ぶ声に答える気配はない・・・
そっとおでこにキスをして、バスタオルで覆ったまま彼女の身体を抱き浴そうゆっくりおろした。
「身体があたたまるはずだ」
濡れた髪、苦し気に小さく開けられた幾分青ざめた唇。
濡れているためか・・・誘うように開いたそれに、引き寄せられるように、くちづけた。
「・・・なぜ・・・」
なぜ・・・多くいる生徒の中の一人だった彼女が、こんなに自分の中で特別な存在になったのか・・・
自分の濡れた前髪をかきあげ、そして彼女の前髪をかきあげた。
まだあどけない顔。
「・・・」
答えてくれ
どうか・・・
「ん・・・・・あたし・・・」
「!・・・きがついたか」
まだ焦点が定まっていない目できょろきょろし、そして
「きゃっ!」
バスタオルの下になにも着ていないことに、気づいたようだ。
「・・・私が脱がせた。悪かった。本人の許可も得ないで。」
「あっ、いえ、あの・・・」
「身体が温まるまでもう少しそうしていなさい。わたしはむこうに行っている。なにかあったら呼ぶといい」
「ご、ごめんなさい。先生・・・ありがとうございます・・・」
「あ、ああ・・・のぼせるようなら私を呼べ」
「はい・・・」
後ろ髪を引かれる想いで浴槽をでる。
彼女はまだ状況がよくのみこめていないようだった。また、意識をなくすかもしれない。
それでも・・・頭のどこかで点滅する危険信号に、従わない術はなかった。
あれから何分たったのか。
時計を・・・ふと彼女の腕から外した時計が目に付いた。
彼女の腕に映えるだろうかわいらしい小さく楕円形の文字盤。細いシルバーチェーン。
なんの変哲もない腕時計。
それが、彼女が身につけていたというだけで、特別なものに見えてしまう。
干した彼女の制服と下着、靴下。
今日中には乾かないだろう。
「もう15分か・・・」
気が進まないが・・・浴室からはなんの音もきこえない。
「・・・」
ノックをしても、呼んでもなんの物音もきこえてこない。
「開けるぞ」
多少の危惧を感じ、バスルームをあけた。
思った通りだった。
意識がないのか、眠っているのか。
少し遅ければ溺れていたかもしれない。
「・・・」
呼んでも返答はない。
彼女を一気に湯船から引き上げる。
水分を吸い重くなったバスタオルをそのままに、新しいタオルで彼女をつつむ。
オトナびたカラダ。
高校生といっても、十分女らしい曲線を描く。
もし・・・こんな状況ではなかったら・・・・
いや、彼女が苦しんでいる今でさえ私は・・・
「そんなことを考えている場合か」
自分を一喝し彼女の呼吸を確かめる。
彼女の口もとから小さく聞こえる息を聞き、多少安心し、彼女をベッドに横たえた。
今日はソファで夜を明かすことになるだろう。
いまだ目覚めぬ君を、手折らぬように。
「・・・おやすみ・・・・ん?」
緩くひっぱられる感触に、ふりかえる。
の手が氷室のシャツのすそをつかんでいる。
起こしてしまったのだろうか。
「・・・おきたのか」
・・・途切れぬ寝息。
眠っているようだった。無意識に、つかんだというわけか・・・
赤面する自分を感じながらの手をほどこうとその手をとる。
柔らかく、小さく。そして暖かい彼女の手。
その手にくちづけ、彼女の傍らに腰をおろした。
なにも無理にほどくことも・・・ないだろう。
「・・・君は、何故あの雨の中、かさもささずに歩いていた?」
とっくに下校時刻はすぎていたはずだ。
そして雨は朝から降っていた。かさをもっていないのはおかしい。
それに・・・
姫条。どうしてあんなところにいて、どうして彼のかさにはいって帰路につかなかったのか。
「なぜだ・・・」
「せんせ・・・・・・・・」
「・・・目が、さめたのか?」
やはりまだ完全には目が覚めていないようだ。
何度か瞬きを繰り返すと大きな目を開けてわたしを見た。
「・・・ここ・・・どこですか・・・」
「ここは・・わたしの自宅だ。大丈夫か?喉が痛いとか、頭が痛いとか」
「大丈夫・・・です。えっ?!先生のお宅・・・って・・・え?あ!」
「どうした」
「ごめんなさいっ!!!あたし・・・先生にすごいご迷惑かけて・・あのっ」
がばっ、と勢いよく起き上がった彼女が傍らに座る氷室の肩にぶつかった。
もっとゆっくり起き上がりなさい、そう言いながら彼女の身体を支える。
身体が、熱い。
「かまわん。まずは自分の体調を考えなさい。君は何故あの雨の中傘もささずに歩いていた」
動悸が早くなる。
それにともない口調も早まったのがわかった。
「あたし・・・考え事してて・・・それで」
「・・・答えになっていないな。それでは何故姫条のかさにはいらなかった」
君が、他の男と仲良くしている姿は、正直言って見たくはない。それは最近知った新鮮な感情だった。
しかし自分が気がつくのが遅かった以上、彼女が雨の中を歩いているのに助けを借りるなというつもりはなかった。
「・・・・・・まどか・姫条くんには・・・悪いことしました・・」
「悪いこと?」
「・・・考え事がしたいから・・・ほっといてくれって、言っちゃったんです・・・」
「あの雷雨の中をか?!」
「すみませんでした。ほんとに・・・ごめんなさい!」
「考え事とは・・・なんだ。悩み事か。話してみなさい」
言われるまで忘れていたが・・・確かにここ数日の授業中、放課後、部活動の時間。
君はふさいだ表情でいる時間が多かった。
そんなになるまで、君はなにを悩んでいるんだ。
「・・・・・・・・・・・言えません」
「なぜ」
「ごめんなさい、言えないんです!」
何故こんなにも強情になるのか。
さっきからわたしは彼女に問いてばかりだ。
「・・・勉強のことか?進路のことか。それとも・・・そうだな。学生にありがちな、恋愛についての・・・ことか」
彼女の目が大きく開かれる。図星か、それとも私がそんなことを口にするとは思わなかったのか。
「・・・・・・・・だって・・・」
はきすてるようにいわれた、だって。
彼女の双方の瞳から涙がおちた。
「だって・・・あと1年したら・・・あたし、卒業なんですよ。今あたしが勉強して、一生懸命に努力してることは卒業するため・・・卒業していい学校に行くため。あたしは卒業なんかしたくないのに・・・!」
言いたくなかった、というかのように。いや実際そうだったのだろう。
うつむき早口にそう言い放つ。
「卒業したら、先生きっとあたしのことなんて忘れちゃう。また新入生がたくさんはいってきて、それでまた今までと同じことの繰り返し。どんどんあたしのことなんて忘れちゃって・・・でも留年なんてしたら先生に嫌われちゃうって・・・それであたし」
興奮したように、自分の腕の中で話しつづける細く、小さい彼女。
「落ち着きなさい、・・・そうだ。泣き止みなさい。今暖かい飲み物でもいれよう。ここで待っていなさい」
「やっ・・・いかないで・・・先生・・」
しがみつく、わけでもなくただ、その目ですがりつく。
「・・・・・・すぐ戻る」
「あたしも行きます」
「ここでおとなしくしていなさい」
困った。
こんな目で、すがりつかれて、もともと不安定だった理性がまたもぐらつきはじめた。
「・・・・・目を閉じなさい」
「いやです」
「いやじゃない。目を閉じている間に逃げようと思っているわけではない。ほら早く」
「・・・・はい」
私の言葉に彼女はそっとまぶたを閉じた。
そっと、ふれるように彼女のくちびるに人差し指で触れ、そして唇で、触れた。
2度目の、ふれるだけの、くちづけ。
彼女は目を閉じたまま、また涙をこぼした。
「・・・どうした」
拒絶の涙、かもしれない。
「すまない・・・嫌、だったか」
「いやなわけないじゃないですか」
見開いた、涙に濡れた大きな瞳。
涙で濡れたくちびる。
たががはずれるまえに・・・
この場を去る必要がある。
「一人で、待てるな」
「・・・・はい」
納得した表情ではなかったが、それでも返事はかえってきた。
そそくさとその場をあとにし、キッチンへ向かう。
コーヒー、いや、ホットミルクのほうがいいかもしれない。
カフェインは脳の働きを活発にする。
今の彼女に必要なのは身体をリラックスさせ、落ち着いて眠れる飲み物だ。
鍋にパックの牛乳をそそぎ火をかけた。
今日の自分はどこかおかしい。
いや、最近の、といったほうがいい。
そして・・・その理由はすでにわかっている。わかっているから始末が悪い。
「・・」
ふと人の気配を感じて振り向くと、シーツを身にまとった彼女がたっていた。
目を真っ赤にして。
「ど、どうした」
彼女を、直視できない。
「あたし・・・」
今日の彼女は珍しく歯切れがわるい。
「待っていなさいと言ったはずだ」
「先生のそばに・・・いたいんです。・・・・ずっと」
わたしが不安であるように、彼女も不安なのだろう。
わたしが自分の立場、彼女の周りの友人たちの存在を、懸念するように。
「わたしも・・コホン、そのつもりでいるが」
「・・・ずっと・・・?」
「ああ・・・」
卒業したら?彼女の目がそう問いているのがわかる。
しかし・・・教師という立場上、おいそれと卒業後の約束をすることはできない。
鍋の表面に白い膜がはり、すこしずつ沸騰するミルク。
彼女に背をむけマグカップにそれを注ぐ。
「っ!」
振り向こうとした瞬間、背中から彼女の身体の熱をかんじた。
「、は、はなれなさい」
「いやです」
「・・・今日の君は、いやばかりだな」
わがまますら愛しい。それが自分に向けられた好意だとわかっている。
しかし、これではなんのために寝室から逃げて・・・いや、避難してきたのか。
「離れなさい。」
柔らかい頬が、女性らしい二つの膨らみが、細く白い腕が、わたしの理性を甘く、きつく痺れさせる。
その先にある困難は、理解しているはずだった。
何度も何度も、夢で見ては、想像しては、打ち消していた。
しかしわたしは・・・
彼女の肩をつかみ、彼女の身体を向かい合わせると腰をかがめ口付けた。
もう、先ほどまでのように、触れるだけというわけにはいかなかった。
「・・・・・・ふ・・」
どちらのものともわからない、彼女のくちびるから滴る一筋の滴。
しっかりととじたままの彼女の歯を、キスの合間、苦し気な吐息をもらす隙を見て、舌でこじあける。
「あ・・・は・・」
濡れた吐息が彼女の口からもれた。
私の心を、煽る。
思うまま、彼女の口腔を舌で嬲る。
とろけそうに甘い・・・彼女の味。
一生懸命わたしに追いつこうと背伸びをし、必死にキスを返そうする彼女の肩を抱いた。
「・・・せん・せ・・・・」
がくっとおちたひざ。腰を支えるも、自分のからだに触れてこない彼女の手。不思議に思い、名残惜しくもくちびるをはずして彼女を見下ろした。
「・・・・・おいで。寝室に、行こう」
「・・・・・・はい・・」小さい君の声。
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