seiza
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「ドライブに行こう」

話したいことがたくさんある、そういって先生は私の腕を引いてくれた。

教会から一歩外にでると眩しくて、あたしは目を細めて先生を見上げる。

「このまま君を連れて行っても、かまわないか?」

先生の笑顔をずっと見ていたい。

「はい!」

あたしは先生の腕にしがみついた。

「つれてって、先生。あたしも先生に話したいこと、たくさんあるんです!」



入学したときから先生のことが気になってたこと。

どんどん先生のこと好きになって先生のことしか考えられなくて泣いた夜もあったこと。

ライバルがいたこと。

先生って、人気あったんだから。

みんなさ、氷室先生は冷たい、とかロボだ、とか言ってるくせに。

そういって先生の気をひきたかったのかもしれないよね。今考えると。

・・・あたしも、そうだったもん。

先生の気をひきたくて、勉強も運動もテストも体育祭も文化祭も部活動も、
がんばったんだもん。



「さあ、乗りなさい」

先生が助手席のドアを開けて待っていてくれる。

「ありがとうございます」

学校の帰り、会うとのせてくれた先生の車。

・・・今日は、デート、って思って、いいんだよね。・・・・多分。

先生が隣に乗り込むと一瞬先生のにおいがした。

他の先生が吸うのだろうか?氷室先生が吸ってるのは見たことないけど・・微かなタバコの香り。

それと、体臭?いやなにおいじゃない。先生のにおい。

あたしの頭の横から長い腕を後部座席に伸ばして・・・

「卒業祝いだ。おめでとう」

目の前に差し出されたのは、花束。

「うわあすごい・・・・ありがとう。先生」

あたし、高校卒業したんだ。

もう・・・先生の生徒じゃないんだ。

明日からあたしは・・・学校にはもう行かないんだ。

抱えた花束の、甘い香りが涙を誘う。

「・・・先生・・ありがとうございました・・先生っ」

もうあたしの居場所は学校にはないんだ・・・

感傷的になってるのか、卒業式にも出なかった涙が、今になってあふれてくる。

先生は何も言わずに長い指でそっと涙をぬぐってくれた。

「せんせ・・ふつう、逆なのにね」

「ん?」

「花束・・・ふつうあたしが先生に、3年間・・・ありがとうって、渡す・・のに・・」

自分で言っててまた涙がでてくる。

3年間ほとんど毎日、誰よりも長く一緒にいたのは学校の友達と先生なんだ。

別れたくないよう・・・みんなと。・・・先生と。・・・学校と。


先生を見ると、車を出す気配もなくやさしい目でこっちを見てる。

なんだか恥ずかしくて、少しずつだけど、涙がひいていく。

「先・せ・・・。どっか、連れてって、くれるんですか?」

「そうだな。君が泣き止んだら」

「もう、大丈夫ですよ。ほんとに・・」

「まあ・・泣き顔も、悪くないが」

先生の手があたしの髪をすいてくれる。やさしい指。

それからその指がハンドルを握ると、車はすべるように動き出した。





楽しい時間ってのはほんとに過ぎるのが早い。

学校の授業は1時間が永遠にも感じちゃうんだけど。

時計の針を穴があくほど見てたって一周するのに何時間かかってるんだー!!って

いうほど長く感じるのに。

先生と過ごした時間はまるで5分や10分しか経ってないくらいに、あっという間で。




「先生。あたしまだ先生といたい」

「・・・あと少しだけだ。いいな」

「うん。・・・先生、今日、家に帰ったら夢だったなんてこと、ないよね」

「それは俺も困る」

俺?

先生、普段は俺、っていうんだ。

そういえば友達がマスターやってるお店で、言ってたっけ?

俺って。

「あと少しだけ」

そう言ったあたしの背後から抱きしめてくれる腕がすごくあったかくて、

またあたしは夢だったらどうしよう、なんて思ってしまう。

だって・・・あたしの夢、そのものなんだもん・・・

「あ!流れ星!!」

考えごとしてて、願いごとするひまもなかった・・・

めったに見れないのに悔しいなあ。

・・・・・また、降ってくるかもしれない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

願い事はただひとつ。

よし。いつでも来い。



「・・・どうした。もうそろそろ・・」

先生が車に戻るように促す。

「先生!今、流れ星見えました?」

「いや。しかし・・まだ冷えるだろう。戻らないと風邪をひくぞ」

「うーー。あとちょっとだけ!先生お願い!また見れそうな気がするんです!流れ星!!」

「・・・後5分だ。いいな」

先生は着ていた大きなコートをあたしにかけてくれた。

「先生が寒くなっちゃいますよ」

「大丈夫だ。これくらいなら私にコートは必要ない」

「でも」

「そうだな・・・・・・・このほうが温かいか」

いったんあたしの肩にかけたコートをまたはおった先生に、背後から包まれる。

どぎまぎして空からつい目を離してしまう。

危ない危ない。こういう瞬間に、星って流れちゃうんだよね、きっと。






「・・・・・・・・・・・・・・いつまでそうしている気だ」

「・・・流れ星にお願いできるまで」

もう少し。もう少し待ったら、流れ星が見れるかもしれない。

5分、もうたっちゃったの?

「言ってみなさい」

「・・え?」

「その、願い事を言ってみなさい」

「だっだって、一般的にお願い事っていうのは、口にするとかなわなくなっちゃうんですよ」

「俺が叶えてやる。君の願いがなんであろうと」

先生の手が置かれた肩から、染みいるように体中が温かくなる。

「でも・・」

「でもじゃない。たとえ俺には無理なことでも一生かけて実現してみせる。君が望むことならなんでも」

・・・そんな言葉だけでもう願いの半分以上はかなっちゃうんですけど、先生。

「先生とずっと一緒にいたいって、お願いしようと思ってたんです」

「・・・・当然だ。星に願うまでもない」

「ほんと?先生」

「本当だ」

来年も再来年も、その次の年もその次もずっとずっと・・先生と一緒に星を見たり、例えば今日の話を

思い出して二人で話したり・・・そうやって一緒に過ごせるといいな。

先生、大好き。