sekkyou
「先生、昨日はごちそうさまでした」
階段でのすれ違いざま肩越しにそっと声をかける。
階段を上ってきた先生が目に入った瞬間からどきどきしてたけど、先生は他の生徒を注意してたからきっと
気づいてない。
しかめっつらの先生に小言を言われてる生徒たちにすら妬いてる自分。
ふいうちに声をかけたのはきっとあたしのほうを見て欲しかったから。
他の誰も見ないで。あたしだけ見てて欲しい。
そんなの、ムリなお願いだってわかってるんだけどね。
きっと先生は顔を赤くしてるんだろうな。
いつもはすっごく冷静なのに照れ屋だし。
実はすぐ動揺しちゃうし。
でもそんなことあたしだけが知ってればいい。
あたしの、先生。
「きゃっ!!」
先生に背を向けて降りていた階段。いきなり肩をつかまれて・・
「先生!!」
びっくりした!
「どうして君は・・」
「はい?」
「私の返事を待たずに行ってしまうんだ。君はいつもそうだな。話の途中で口を挟むし、いきなりふいといなくなる。まったく」
やばっ
先生のお説教が始まった。
でも今だけはあたしだけの先生。
あたしだけを見て、あたしだけに話し掛けてくれる。
「・・・君はわたしの話を聞いているのか」
「聞いてます」
先生の声だけ。今のあたしにはそれしか聞こえません。
「・・・なぜにやにやしている」
「にやにや?にこにこって言ってください」
「・・・もう行ってよろしい。次の授業は移動教室だろう。早く準備をしたほうがいい」
どうして次の移動教室、担当じゃない先生が知ってるんですか?・・ってうちのクラスの担任だから、ってのはわかってるけど・・
あたしがいるから、覚えてるって思っちゃダメですか?
「わかりました。先生」
ここはおとなしくひきさがろう。本当はもっと憎まれ口たたいて先生のお説教を聴いていたいところだけど。
「君の幸せそうな顔を見ているとこっちまで幸せな気がしてくる」
「えっ?!」
先生はもう階段を上っていってしまって・・あたしの視界に残ったのは先生の背筋の伸びた後姿。
先生の笑いを含んだ声が耳元に張り付いて離れない。
・・・ふふっ。
今日の放課後は先生と一緒に帰れるかな。帰れるといいな。
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