天使の女王







「起きたら・・・な。」

そう言いながら目を伏せると、
『笑顔の君』が私の頭の中で動いていた。
私を苦しませた『泣いている君』はもうそこにはいなかった。
彼女の体から感じるとても暖かくてやさしいぬくもりが、
私を包み込み深い眠りへと誘った。


何時間、私は眠り続けたのだろうか?
外はもう既に薄暗くなっていた。
私の腕の中にはまだ吐息を立てながら眠っている彼女がいる。
彼女も相当疲れているのだろう。
勉強、部活、そしてアルバイト。
彼女はこれを全て両立させてやっている。
疲れて当たり前の1週間を彼女は過ごしているのだ。
そんな彼女の頭をやさしく撫でる。
すると彼女は身を少し捩り、ゆっくりと目を開けた。

「ん・・・先生・・・・・。」
「すまない。起こしてしまったようだな。」
「・・・・・せんせぇ・・・しっかり寝れました?」
「あぁ・・・おかげさまでな。熟睡させてもらった。」
「そうですか・・・よかった・・・・・。」
「君こそ大丈夫か?あまり無理をしないようにな。」
「はい・・・気を付けます。」

そう言って私に笑みを向けてくれる。
そのお返しに私はそっと彼女に口付ける。
すると掛け布団の中に潜り込んでしまった。

「せん・・・零一さんの・・・いじわる。」
「すまない・・・その顔を見たら、せずにはいられなかった。」
「もう・・・。」

彼女はすごく恥ずかしがって、更に潜り込んでしまった。
私は、そんな彼女の行動がものすごく好きだ。
だから、余計にいじめたくなるのである。

「お夕飯、どうします・・・何処か食べに行きますか?」

しばらくすると、彼女は布団から顔だけを出し、そう問いかけてきた。

「そうだな・・・それもいいだろう。アイツの店にでも行くか?」
「えっ!ホントですか!?」
「あそこの料理は私も好きだ。以外と上手いからな。」
「決まりですね!それじゃ、早く行きましょ!!」

彼女は体全体で喜び、勢いよく起きあがった。
それに引き続いて私も起きあがり、支度をし出した。
全ての支度が終わり、車の鍵を持とうとした時、
彼女の手がそれを引き留めた。

「歩いていきましょ・・・零一さんにお酒飲んでリラックスしてもらいたい。」
「しかし・・・・・。」

優しく微笑んでくれる彼女を見て、反論など出来るわけもなく、
私はその言葉に甘えることにした。

「わかった・・・では行こう。」
「はい!」

家の鍵を閉め、私達はアイツの店へと足を進めた。


店のドアを開けると、アイツ、安城 康泰がこちらを向き手を挙げる。
後からパタパタと付いてくる彼女を見て、顔をにやつかせる。

「おっ・・・零一。今日は彼女付きか?」
「・・・・・うるさい・・・悪いか。」
「いいや・・・。こんばんわ・・・・えっと・・・・・名前は?」
「神楽 命です。」
「そうか、命ちゃんか。俺、安城 康泰。よろしくね。」
「はい。こちらこそ。」
「・・・で、レモネード2つでいいんだな?」

そう安城が私に聞いてきたが、直ぐに彼女が言い返した。

「あっ、今日はレモネード1つです。零一さんにはいつものヤツをお願いします。」
「えっ・・・そうなのか?」
「あぁ・・・。あと、適当に料理も出してくれ。」
「あ・・・ああ。分かった。」

そう言って、私のキープしてあるボトルとグラスを持ってくる。
私はボトルに手を伸ばしたが、私より先に彼女がそれを持っていた。

「お注ぎしますよ。」
「・・・ありがとう。」

私は素直に受け止めた。たまにはいいだろう・・・・・。
今日は彼女に甘えよう。そう思った。
そこに、レモネードとちょっとしたツマミもやってくる。

「はい。おまちどうさま。・・・命ちゃん、零一をあまり甘やかせちゃ駄目だよ。図に乗るから。」
「えっ・・・でも、今日はいつも以上に疲れてるから、
少しでもそれが取れればって思ったんですけど・・・。」
「命・・・余計な事をこいつに言うな。」
「えっ・・・でも・・・・・。」
「いいじゃんかよ!そっか・・・そんじゃ、俺も協力するよ。癒しメニュー、出してあげるよ。」
「癒しメニューですか?」
「あぁ・・・安城康泰、特別料理をね。」
「はい!お願いします。」

安城はそう言って、厨房に引っ込んでいった。

「零一さん。特別メニューですって。良かったですね。」
「あぁ・・・。」
「嬉しくないんですか?」
「いや・・・その、何か裏がありそうなのだが・・・。」
「まさか!大丈夫ですよ。待ちましょ・・・・・。」

会話はここで切れてしまった。が、それから直ぐだった。
彼女が何かを思いだしたように喋り出した。

「あっ、そうだ!」
「どうした?」
「昼間の約束・・・覚えてますよね。」

聞かれて心が動揺する・・・。上手く誤魔化せないだろうか?
そう思って知らない振りをしてみる。

「何の事だ?」
「あっ!また逃げるつもりですか?起きたら教えてくれるって言ったじゃないですか。」

私の知らない振り作戦は失敗に終わった。彼女はそう言うことだけはしっかり覚えている。

「何て言う曲ですか?教えてください。」
「はぁ〜・・・分かった・・・・・言おう・・・。さっき弾いた曲は・・・。」
「はい。お2人さん、おっまたせ〜。」

そこに安城が料理を持って帰ってきた。最後まで言おうとしていた言葉が止まってしまう。
2人して安城の方を見てしまい、その視線に気付いた安城は、動きがスローになる。

「あの・・・俺、何かした?」
「もうちょっとだったのに・・・。」
「えっ・・・?」
「何でもない・・・気にするな。」
「そっか。じゃあ・・・はい。安城康泰特別メニュー・イタリアンチャーハン。」

2人の目の前には、鮮やかなチャーハンが登場した。
それを見て彼女は、もうさっきのことなど気にしてる様子ではなかった。

「わぁ・・・キレイ。すごーい。早速頂きます。」
「どうぞ。」

そう言って私と彼女はそのチャーハンを口へと運んだ。

「おいしい!ねぇ・・・零一さん。」
「うむ・・・うまいな。」
「そう?良かった〜。おいしいって言ってもらえなかったらどうしようかと思ったよ。」
「そんな・・・言えませんよ。こんなすごいもの出されたら・・・。」
「ホント、ありがとう。それじゃ、他のも持ってくるから待っててね・・・。」

安城はまた厨房に入っていった。
それからの2人の間はというと・・・沈黙が続いていた。
さっきの話の続きをしなければと思うのだが、私の口は重かった。
何でさっきあのまま言えなかったんだろう・・・。
私はものすごく後悔していた。彼女の顔を見ることさえも出来なかった。
何とかしなければ・・・そう思っていたその時、安城が私達の元へ戻ってきた。

「は〜い。おまちどーさま。安城康泰特別メニュー・第2弾・・・・・。」

安城がそこまで言った所で私は席を立っていた。

「安城・・・ピアノを借りる。」
「あ・・・・・あぁ。」

そそくさとピアノに足を運び、椅子に座る。
彼女と安城は、私の行動に驚いたようで、こちらを見て止まっている。
私は1つ深呼吸をすると、鍵盤に指を置き、数時間前、自宅で弾いた曲を再び弾き出した。
先程、彼女に伝えれなかった思いを込めて・・・。

「この曲・・・さっき弾いてくれた曲だ?」
「えっ・・・零一、家でも弾いたの?」
「はい・・・私に合った曲を弾いて欲しいって言ったらこれを・・・。」
「そっか・・・ふふっ、納得するね。」
「えっ!?何でですか?」
「教えて欲しい?」
「はい。是非!!」
「それはね・・・・・。」

彼女と安城が何かを話している。ふと、安城が彼女の耳元で何か言った後、
彼女が顔を赤らめ俯くのが分かった。思いが伝わったようだった。
正直に言えない自分。こんな形でしか伝えられない自分を許して欲しい。
演奏を終え席へ戻ると、君は顔を赤らめながら笑顔で迎えてくれた。


「今日はおいしい料理をありがとうございました。」
「どういたしまして・・・またおいでよ。俺、待ってるから。」
「はい。」
「その・・・すまなかったな。この借りはいつか返す。」
「あぁ、首を長くして待ってるからな。」
「では、失敬する。」

そう言って私達は安城の店を後にした。
2人横に並んで歩いてたものの、私と彼女の間にはほんの少しの間が空いていた。
またお互いに言葉を探しているようだった。
ふと彼女の手とぶつかり、歩いていた足が止まってしまったが、彼女も同じだった。
彼女は俯いて困っているようだった。そんな彼女をずっと見ていれず、

「コホン・・・命。」

ゆっくりと私は手を差し出すと、顔を上げ喜んでしがみついてきた。

「零一さん・・・大好き。」
「私もだ・・・命。」

お互いの気持ちを確認すると、私達は再び歩き出した。


家に着くなり、彼女は私にこう言ってきた。

「私、どんなことがあっても零一さんを守ります。
だから、零一さんもあたしのこと守ってください。」

突然のことで少々驚いたが、私は彼女の頬に手をやりながら返事を返した。

「あぁ・・・命は、私のこの命を懸けても守る・・・。」

そう言って彼女の唇にそっと口付ける。とても柔らかな唇・・・。離すのが嫌になる。
唇を離し、彼女をゆっくり抱き寄せた。
しばらくすると、私の胸のあたりから声が聞こえた。

「あたし・・・今日、帰りませんから・・・・・ずっと零一さんの側にいますから・・・・・。」
「あぁ・・・ずっと一緒にいてくれ。」

私は自分の体から彼女の体を離し、再び顔を近づけると、その柔らかな唇に甘い口付けを落とした。



『アヴェ・マリア』
悩みに悩み苦しんでいた私を、彼女は溢れんばかりの優しいぬくもりでそっと包み込んでくれた。
そう・・・まるで『聖母マリア』のように・・・・・。

〜Fin〜








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正夢の続編希望が多数ありまして書かせていただきました。こんなんでよろしいでしょうか?
題名の「天使の女王」やマスターの名前については日記の方に書かせて頂きます。
脱線(18禁)小説を覚悟してました。何とか大丈夫でした。でも終わり方、中途半端ですよね?
もし、また皆さんからのリクエストがございましたら、脱線、書かせていただきます。
それではご感想、クレームの方、BBS&メールにてお待ちしてます。

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とらさまからいただいた”正夢”の続編でございます。マスターさんが多く登場されている
ようですねー^^イタリアンチャーハン食べたいです。
ラブラブな小説ありがとうございました♪とらさまのステキなサイトは コチラ