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ドリー夢小説
「理事長、さっそくチョコレートもらったんですか?」
珍しくどの職員よりも先に来て女性とたちに愛想を振り撒いていた理事長が手に持っていたのは見覚えのある紙包み。
先週受持ちのクラスの女生徒を街で見掛けた、そのとき彼女が手にしていたものだ。
気づけば、理事長をからかう同僚を押しのけて私は聞いていた。
「理事長・それは・・」
「ああ、おはよう氷室くん。今日も朝から空が澄みきっていて、いい一日になりそうだね」
確かに今日は朝から澄み渡るような青空だった。
「おはようございます。理事長・・」
「これかい?気になるのかい?」
「・・いえ・・・・失礼します」
気になっているのは確かだった。しかしそれを理事長に面と向かって問いただすわけにはいかない。
特定の女子生徒に好意をもっているなどと、悟られてはいけない。
彼女に関しては。
理事長と楽しそうに会話をしている姿を何度か目撃したことがあった。
彼女が理事長にバレンタインに乗じてチョコレートを渡していてもおかしくはないだろう。
しかし・・・・
「先生?どうしたんですか?」
チャイムの鳴る前の教室で考えこんでいた私の顔を覗き込む女子生徒。
冷たい、恐いと生徒にうわさされる私にこんなことができるのは彼女しかいない。
なにものにも物怖じせずまっすぐ歩む彼女の姿勢は敬意にすら値する。
しかし・・今の私には不意打ちだった。
「な、なんでもない。早く席につきなさい」
焦るな。
落ち着け。
彼女に私の胸の内が少しでも伝われば、と思う反面絶対に知られるわけにはいかないとブレーキがかかる。
彼女は、生徒だ。
「授業を始める」
自分は平常心だったと、いつもとなんら変わりはなかったと・・・思う。
ただ、その授業が終わった頃にはかなりの授業内容を消化していた。
そう、それはいつもの3倍ほどの授業量だっただろう。
不満を漏らした生徒もいたかもしれない。
しかし・・・記憶にない。
はっきり言おう。
気が付けば、チャイムが鳴っていた。
何度彼女と目があっただろう。
その度に私はさりげなさを装い、視線を外すのに必死になっていた。
「・・以上。今日の部分は必ず復習しておくように」
やっと聞こえだした生徒たちのざわめき。
ついていけない、早すぎる、そんな声が耳に届く。
しかし彼らの若い脳は、やる気さえだせば今日くらいの授業量も消化できるはずだ。
「先生」
廊下に出た私を呼びとめた小さな声。
「・・どうした。。質問か」
心のどこかが勝手な期待をもっていた。
「あの・・・これ」
さしだされたものはやはりあのときに見た包みに似ている。
「そうか。今日は、バレンタインデーだったな。・・・みんなに配っているのか」
少し、陰険な聞き方をしてしまっただろうか。
「え?いいえ?そりゃ義理チョコとか配ってる女の子もいるけど・・」
彼女の不思議そうな顔。
「あたしは・・先生にだけ食べてもらいたいたかったから・・・やっぱりチョコ受付箱行きですか?」
おどけた言い方をしていても不安そうな瞳。
きみがそういう目をするから・・・・私の心は淡い期待を抱いてしてしまう。
「理事長には・・」
ふと口をついて出た言葉。
「理事長ですか?やっぱりお世話になってる先生方には義理チョコとはいえ渡すのが礼儀だと思いますか?・・用意してきてないんですけど・・」
「そうか。いや・・」
「でも・・」
言いよどむ彼女の台詞の先が気にかかる。
「理事長には・・前もってくぎ刺されちゃったんですよね。義理チョコは必要ない、って。きっと本命だけでいっぱいもらうんでしょうね」
それはおそらく、君からの本命を待っていたと言いたかったのではないか。理事長は・・
しかしほっとした。
私の勘違いだったのか。
たしかに市販されている包みなどこの時期、誰がもっていてもおかしくはない。
この学園の誰かがあの商店街で購入したセンスのいい包みで理事長に義理かどうかしれないチョコを配っていたとしても、不思議ではないのだ。
「ありがとう。手作りか。・・苦労したろう?」
「先生に食べてもらいたかったから・・」
照れた顔をして差し出される小さな手から、その想いと共にそっと受け取った。
「ありがとう」
今はまだ君からの好意に甘えていることしかできないがいつか・・・
私から君に伝えたいことがある。
そのとき君は私の想いを、受け取ってくれるだろうか。
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